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最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
1章 遭逢
2/24

2.出逢い




終点駅のベンチに、彼は少女を見つけた。


セミロングの髪に、ワンピースを着た少女。


一人で静かに座り、じっと遠くを見つめていた。


無表情で、何も感じていなさそうにも思えた。


ただ何もしない。見つめているだけ。



彼は、少女の視線の先を見た。


しかし、そこには何もない。


あるのは所々にある木々と、

夕陽に染まった草原。


もしかすると、

彼女には何かが見えているのだろか。


霊、幻覚、はたまたそれ以外の何か。


それは、彼が知る由もなかった。



ただ、彼が電車から降りた時も、


電車が駅に着いた時も、


彼女は、視線を逸らすことはなかった。



「ねぇ、君」



彼は、その彼女に声をかけた。


好きという感情ではなく、興味があった。


一体彼女は何を見ているのだろう。


何をしているのだろう。


それが、彼は気になった。



「…なんですか」



返ってきたのは、小さな声


細々とした、気力の無い声だった。



「なにをしてるの?」


「なにもしてない」


「何か見える?」


「なにもない」


「…名前は?」


「………ない」



そのキャッチボールの最後の返しだけ、彼は理解できなかった。



「名前は?」


「…ない、覚えてない」



それから何度か聞いてみたが、

少女から返ってくる言葉は、変わらなかった。



「…あなたは誰?」



少女は、彼の名前を聞いた。



「俺は和人(かずと)だよ」


「じゃあ和人さんが決めて、名前」


「……君の?」


「そう」



少女は、彼に自分の名前を委ねた。


常人なら、普通はし得ないことだ。




彼は、悩んだ。


どうせ呼び名を決める位の事だろうと、そう一瞬思ったが、


彼女は、そういうものを求めているのでは無いかもしれないとも思った。



だから、彼は考えた。


少女に似合う名前を。


これからも使ってくれるような名前を。



「……美樹(みき)


「なんで」


「そこに木があるでしょ」



少女の見つめていた反対側にある、一つの木。



「そんな印象を受けたから、君から」


「ふぅん、じゃあそれでいいかな」


「いいの?」


「別に、名前なんてどうでもいい」


「そっか。

それで、これからどうするの?」



「……別になにもすることない。

ここにずっといる」



彼は、流石に彼女をここに置いていくことは出来なかった。



「じゃあ、俺の家に来なよ」



それは、口からふと出た言葉だった。





そうして彼等は、駅を出た。


彼女は、

何も話すこともなくずっと彼について行った。


時折吹く風にワンピースを抑え、


地面の影を見つめ、


たまに後ろに振り向いて、夕陽と海を眺めていた。







彼と彼女は出逢った。


これから、彼等は『出逢わなかった世界』を知らずに生きていく。



道は、既に決まっているのだろうか。






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