17. 最果ての地で
生きた証は、必ず残る。
あれから、2時間は経ったのだろうか。
時間なんて気にしなくなった頃、
突如赤いランプが消えた。
そして扉の向こうから、人が出てくる。
俺たちがいる事に驚いたような顔をしていたが、
続けて状況を説明してくれた。
午前10時23分。
……広樹さんは、眠った。
決して目を覚ますことのない、永遠の眠り。
それはあまりにも受け入れ難く、
信じられない事実。
何年か前の、自分の家族の時のように、
突如引き起こされる悲劇。
阻むこと、阻止することはできない。
そのことを、これ以上ないほど痛感した。
「………」
言葉は出なかった。
何かを発しようとしても、
すぐに引っ込んでしまう。
これが、この世界なんだ。
これが、選ばれた世界。
どう足掻いても立ち向かえない現実。
解決法なんて、存在し得なかった。
数年前に発病し、
その時に治ったとされていた病が急に再発し、
死に至るなんてどう防げば良いのだろうか。
そんなこと、誰も知らない。
知る訳が、なかった。
何故、
俺の身の周りの人がどんどん死んでゆくのか。
どうして、俺の幸せを踏みにじってゆくのか。
幸せな人がいれば、どこかで不幸な人が現れる。
それはまるで、
神がどこかで線引きしているようで。
この腐った世界を、物語っているようだった。
このことは、
この世界にとってはちっぽけなことかも知れない。
この最果ての地で、たった1人死ぬことくらい。
でも、その地に居る人にとっては、
身の周りの人にとっては、
これ以上大きなことはないだろう。
この境界は何なのだろうか。
人の死に、違いなんてない。
でも、関係のある人が多ければ多いほど、
その死は大きなものに変わる。
たった一つの尊い命であることは
変わらないはずなのに。
戻ることのない、
かけがえの無いものであるはずなのに。
気づけば、外は既に暗くなっていた。
「ごめんな、帰ろうか」
「うん」
美樹は、ずっと待っていてくれた。
隣でじっと、何も言わずに。
帰っていつものように夕食を済ませ、
床に入って寝た。
そう、毎日と変わるはずないのに、
目が冴えて眠れないのは、
月明かりのせいじゃない。
いつもと違う、
あまりにも違い過ぎる変化があったからだ。
もう、俺の周りから誰も消えないでくれ。
どこにも行かないでくれ。
離れないでくれ。
そう、強く、強く祈る。
その願いは、一体誰に通じるのか。