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最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
4章 変化
16/24

16. 祈り



もしもこの世に神が存在するなら、


俺は、その神を許さない。






太陽も高く昇り、

俺たちはマンションに戻った。


帰り道は特に話すことも無く、

肌寒い風を受けながら、自転車を走らせていた。



到着し、自転車から降りる。




すると突然、

マンションの中から慌ただしい音が聞こえ始めた。



「ちょっと道空けてくださーい!」



そう言いながら、

救急隊は担架に乗せた人を運んでいった。


道を空けた俺たちは、その担架とすれ違う。



一瞬だったけど、間違えるはずがない。


そう、あの顔は、あの人は…


担架に乗っていた人が、

俺のよく知っている

広樹さんにしか見えなかったから。



担架は救急車の中に運ばれ、扉が閉められる。


ガタンという音が聞こえるまで、

俺は放心していたのだろう。


救急車が、走り出す。



「美樹!もう一度乗れ!」


「う、うん!」



状況を多分理解してない美樹は、

言われるがまま自転車の後ろに乗った。



そして、またペダルを漕ぐ。


前を走っていく車を追いかけていく。


そこから発せられるサイレンが、

朝の静かな町を勢いよく揺らす。


鳥のさえずりも、もう聞こえない。

風も、吹かない。

少し遠い海の波の音も、聞こえる訳がない。


聞こえてくるのは、

あの時の、忌々しい機械音のみ。


その記憶が途中蘇りながらも、

一心不乱に俺はペダルを漕ぎ続けた。





着いたのは、この町にある唯一の病院。


大きくて立派だが、使う数も少ないから、

今は一階部分だけが使われている。


その玄関近くには、

さっきの救急車の姿と、

担架が中に運ばれていく姿があった。



その近くに、自転車を停める。



「美樹、ついてくるか?」


「うん…」



まだ美樹は、状況を理解していなかった。


そしてすぐさま病院内に入り、辺りを見回した。


すると、廊下の奥に赤いランプが見えた。


それには、《手術中》の文字。


俺は、ただただその文字と扉を交互に見るしか出来なかった。




暫く時間が経ち落ち着きをまだ取り戻した頃、

美樹が俺に訊ねた。



「誰だったの?」


「広樹さん。今までよくお世話になった人だよ」


「そうなんだ」



それから、会話は無かった。


気を遣ってくれていたのかは分からないけど、

俺は、この方が良かった。


そして、神に祈る。


何があってどういう状況かは分からないけど、


とりあえず無事に治りますようにって、


そう、強く願った。








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