15.町の景色
川の流れは止まらない。
故にそれは、
一つの終わりがあることを意味する。
川は、何処かの山奥に源流があって、
そして、川の終わりは海に通じる。
流れが止まらないのであれば、
河口には必ず着いてしまう。
それは、避ける事の出来ないこと。
でも、一つ言うなれば、
川は、分岐する。
一つの元から、幾つもの川に分かれる。
なら、もしもその川がこの世界の流れであれば、
もしもその分岐が、
この世界での分かれ目であるとすれば、
結末を、選べるのであれば、
この世界は、
それほど腐ってはないかもしれない。
ただそれは、能動的な分岐での話。
川自身には、決定権はない。
だから、この世界は腐っている。
この世界を、信じてはいけない。
溢れるほどの分岐があるにも関わらず、
この世界は、これを選んだのだから。
ある日の、まだ陽もいない頃、
俺はふと目が覚めた。
部屋を見渡すとベランダへの掃き出し窓が開いていて、冬が近づく夜風が部屋に入ってきて、肌寒くも、どこか涼しげなようだった。
「俺、開けたっけな...」
開いているのが不思議に思い、
掃き出し窓に近づいた。
するとそこには、
見慣れた1人の少女がいた。
「あ、おはよー」
「おはよーって、結構はやいな」
今は、午前6時より少し前。
まだ、空には星が散りばめられていた。
「起きたんだから仕方ないじゃん」
「そうだけどさぁ」
「もう眠れないんだもん」
「ま、とりあえず中に入れ。
薄着過ぎる、マジで風邪引くぞ」
「わかりましたよーっと」
そうして、部屋の中に入る。
「でも、暇じゃん。なんかないの?」
「そう言われてもなぁ」
そう、そう言われてもこの時間に出来ることは限られてくる。
ただでさえ廃れているこの町に、何か...
「あ、」
「なになに」
「ちょっと出掛けるか、着替えて来いよ」
流石にずっと俺の服を着せるのもかわいそうと思い、あれから服屋に行ったりして美樹の服も揃えた。
...まぁ、殆どがワンピースだけど。
「...どこに行くの?」
「ん?いいとこ」
数分後、俺たちはマンションから出た。
自転車に乗り、美樹を後ろに乗せる。
「落ちるなよ〜」
「分かってるよ」
そうして俺は、ペダルを漕ぐ。
ある人に教えてもらった、あの場所へ。
着いたのは、少し離れた丘の上。
町を見下ろせて、
海も見えるちょっとした広場。
「はぁ...はぁ...」
「おつかれさま」
美樹に労いの言葉を貰い、自転車を停める。
そして、見晴らしの良い場所へ行く。
「わぁ...」
丁度その時だった。
海のはるか向こうから、太陽が顔を出す。
町の至るところが紅く染まっていく。
「な?いいとこだろ?」
「そうだね」
終始、美樹は朝日を浴びていた。
目をつむり、
静かに、
気持ちよさそうに。
「ま、悪くないかな」
「ひどいなそれ」
少女は、言葉と同時に俺の方へ振り向く。
ふわりと揺れる髪。
弱い風を受けるワンピースの裾。
手を後ろに組み、俺に笑顔を見せる。
背後に輝く朝日と、
少女の笑顔も相まって、
言葉には表せない、
そんな美しい光景が、
俺の目を、満たしていった。