11. 経緯
家に帰ったのは、
それからしばらくの事だった。
涙を流し続けていた時、
美樹は、ただ静かに見守っていてくれた。
笑う事もなく、驚く事もなく、
ずっと、
俺が涙を流し終えるのを待っていてくれた。
家に着くと、そこは音もなく静かだった。
誰もいないから、当たり前なんだけど、
あんなことがあったから、実感してしまう。
___ここには、誰もいない。
その事実が、
胸に深く突き刺さるようだった。
すると、美樹が話し出した。
「和人さんに何があったのかは、
詳しくは知らない」
「それは、
人に言いたいことじゃないかもしれない」
「でも、
もし差し支えなければ、教えて欲しいなぁ」
美樹は柔らかな微笑みを浮かべ、
俺に尋ねた。
あった時に比べたら、
少し表現が柔らかくなった気がする。
「あぁ…」
そうして俺は、美樹に全てを伝えた。
家族がいたこと。妹がいたこと。
祭りに行ったこと。綿菓子を食べたこと。
___事故が起こったこと。
それで、家族みんな死んでしまったこと。
全てを伝えた。
すると美樹は、俺の方へ改まった。
「私も、昔のことを言うよ。
聞いてばかりだと、不公平だから」
そして、こう続けた。
_____私はね、
お金持ちの家に生まれたの。
4人兄弟の、上から2つ目だった。
お姉ちゃんと私、それで妹と弟。
私の家は、普通の家じゃなかった。
私が生まれた時、両親は絶望に浸った。
両親は、息子が欲しかったって。
跡継ぎが欲しかったって。
…娘は、使えないって。
だから、名前もいらない。
そんな、歪んだ親だった。
4人目の弟が生まれた時、
両親は喜びに満ち溢れた。
ようやくこれで跡継ぎができたって。
それから、私たちの扱いは酷いものだった。
お姉ちゃんは長女で、
表に出す機会が多かったから
酷い扱いはされなかった。
でも、私と妹は、酷い仕打ちを受けた。
実の親に奴隷のような扱いを受け、
毎日毎日こき使われた。
まともな食事もなくて、
睡眠も出来るわけがなかった。
そんなある日、私たちは考えた。
私たちは、屋敷の外に出たことがなかった。
このままでいたら、
私たちはここで死んでしまう。
だったら、抜け出そうって。
捕まったらそこで終わりだけど、
何もせずにずっといるよりかは良いと思った。
そして次の朝早く、
門が開いたタイミングを見計らって、
私たち2人は屋敷を抜け出せた。
追ってくると思って、
私たちは全力で走った。
ここはどこかも分からない。
どこに向かっているのかも分からなかった。
でも、取り敢えず遠くに、
見つからない所に、逃げようとした。
そして着いたのは、駅だった。
そこで、タンスの中にあった幾らかのお金を二人で分けた。
そして、私たちは別れた。
もし一緒に逃げて一緒に捕まるんだったら、
別々に逃げようって、
そしてまたいつか、再会しようって。
そんな約束をして、
私たちは、反対方向の電車に乗った。
次話に続きます。