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最果ての地で。  作者: 織瀬春樹
2章 相互の過去
10/24

10. 忘れぬ光景




「むー」


「ドーナツ無いんだから我慢して、な?」



美樹はあれから、

ずっとドーナツをねだっていた。


子供っぽくて無邪気な、


まるで、俺の妹の優奈みたいだった。


…年は、俺と大して変わらない筈なのに。



「他に欲しいものはないの?」


「んー、じゃああの白いの」



そう美樹が指差したのは、

すぐそこにあった綿菓子だった。



「いいよ、じゃあ……」




そう言った時、ふと思い出した。



あの日、優奈が最後に食べたもの。


笑い合いながら食べた白いもの。


地面でぐちゃぐちゃになって、

赤く、赤く染まってしまった甘いもの。


最期まで手から、離さなかったもの。



それが、

今美樹が指差しているものだったから。


そこが、

あの日優奈も買った場所だったから。



「……っ!」




その日の情景が、

思い出したくもないのに、


目の前に、鮮明に広がった。



その瞬間の光景。


まるで、その場に居るように。



見たくない。


あんな事は、二度と………



過去は二度と変えられない。


過ぎ去ったことと書いて過去。


失ったもの、

終わったことは、もう戻せない。



でも、そんなこと美樹には関係ない。


それでも、優奈と美樹は赤の他人なのに、


何故か胸騒ぎがした。



地車も走ってないのに、


あの日とは、ほとんど変わってるのに。


あぁ、やっぱり来なければ良かったんだ。


こんなことを思い出すんだったら、


こんな気持ちになってしまうんだったら、




ここに来たのは、間違いだった。




「…どうしたの?」



気づくと俺の目の前で、

美樹が俺を覗き込んでいた。



「あぁ、なんでもないよ、優…奈………」



優…奈…………



……なんで、あんなににこやかだったのに。


あんなに、幸せそうだったのに。


美味しそうに、食べてたのに。


父さんも母さんもだよ。


なんで一緒に逝っちゃったんだよ。


なんで、俺を連れて行かなかったんだよ。


なんで………なんで…………



目には、涙がたまっていた。


正確には、とどまっていなかった。


溢れるほどの涙。



俺は人前だという事を忘れ、

ひたすら泣いた。


あの時泣けなかった分を、


あの時流せなかった涙を、


全てを吐き出すようにして泣いた。



もう、何を言っているのかも分からない。


周りがどう見ているのかも気にしなかった。


ただただ俺は地面に膝をつけ、

涙を流し続けた。




地面に染み込んだ涙は、

元ある血を流さない。


その涙は、隣接して共存するのみ。



ただ、それでも、


月の下、

彼女に、

大勢の人々に見られて、泣いた。





夜空には、あの時刻より星が多くなって、


その時見た3つの星は、

多くの星の中に混ざり、彼を惑わし続ける。


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