十五.いつまでもウッセーんだよ
テキパキと最後の昼食を作って、伸びをすれば、ちょうどいい感じにバスケ部が上がってきた。
「きー君。お昼まだ~?」「持ってくだけっスよ?今日は和食っスけど」
あっそ、と言ってツーは隣の食堂に行った。何故か、一緒に来てたルーやんは手伝ってやるよとの事で、運ぶの手伝ってくれた。昔はそんなに話してないけど、ルーやんって優しいんだ。新しい一面を見た気がする。
「ルーやん、サンキューっス!!」「いーよ、礼なんて。昼飯作んの大変なんじゃねーの?」
うわ、いい人過ぎるっスよ。
「うーん?そんな事ないから、平気っス」
中学時代からの事なので、もはや今更って感じだし。そう続ければ、そっかと言ってルーやんは葉誠の方に行った。するとマリっちが駆け寄ってきて一緒にご飯を食べようって事になった。
「それにしても、りーくんってハイスペックだよね」
「そんな事ないっスよ?マリっち達みたいに、策が練れるような人間でもないし」
そう言えば、りーくんはバスケできるじゃんと言われた。まあ、模倣っていう裏ワザあるから仕方ないっスかね。でも、こうして皆と一緒にいられるのはマリっちのお蔭だ。やっぱり、七宝のお姫様はすごいっスね。
話は明日でみんなが帰っちゃう事になった。再会できたのは嬉しいけど、またしばらく皆に会えないのは辛いっスよ~。タッキーたち東京組はいいとして、ツーとリューセーは関西と中部の高校だ。そう易々と逢える距離じゃない。だからこそ、今回の合宿は一人でそれぞれ来たと言えるのだけれど。
「あ、明日は気を付けないと駄目だよ?ツー君とか竜王君がりーくんを連れて帰っちゃうかもしれないから」「それはないっスよ~」「どうかな~」
そういうマリっちは、何処か悪戯を思いついた子供みたいに笑った。楽しい休憩時間はあっという間に過ぎて行った。
「あ」「どうしたんスか?」「ね、りーくん。テニス部に注意してきてくれない?」
それか。あー、リューセーが怒ったら練習どころじゃないっスね……。午前は何とか持ってくれたけど、午後もこうだったら噴火しそうだ。
「いいよ、言っとくっス」「じゃ、先にドリンク作ってるね」
私は赤沢たちに、マリっちはキッチンに向かった。
「赤沢~!!あのさ「ヒック、ヒック」……なんで泣いてんの?」
赤沢たちバスケ部の方へ行くと、姫川が泣いてた。なんで? 因みに、嘘泣きとバレバレなのに誰も突っ込まない事を不思議に思う。あ、観察力ないんスかね?
「お前が殴ったんだろ?」「はい?」
今日、姫川に接触したの今が初めてなんスけど。つか、バスケ選手が人を殴るなんて早々ねーよ、手を痛めたらどうすんのさ。あー面倒臭いっスね。遅れたらリューセーに外周行って来い、といい笑顔で言われるんスけど……。
「何言ってるんスか?今日は一回も体育館から出られなかったんスよ?リューセーはこき使うし、休憩もマリっちの手伝いしたり、七宝メンバーと喋ってたんスから」
バスケ部と一緒にいて飽きること無いッスよ。現に中で一 on一したり、話してた方が楽しい。どういう事か聞こうにも、私が話しかけたら絶対話さないんスよね~。誰かバスケ部来ないかな。
「あれ?木村ちゃんどうしたの?竜王くん怒っちゃうよ?」
「あ、もしかしていま、激怒プンプン丸っスか?」「それよりはムカ着火インフェルノになりそうだよ?」「うわぁ……」
丁度いい所に日向さんが来た。笑い半分にクラスで聞いた言葉を使ってみると、日向さんはにこっと笑って答えてくれた。知ってたんすね。
「で、これは何?」「え~と、姫川が私に午前中に殴られたらしいんスよ」
「いつの事?」「え?」「何時殴られたの?」
やばい。日向さんキレ掛けてる。怖いッスよ…。隣にいるだけで悪寒がする。
少しずつ距離をとろうとしても「木村ちゃんどこ行くの」とにっこりして言うから動けない。いや、私のために怒ってくれるなんていい人なんだけど、静かにキレてるから怖い。
「……一一:三〇位で「嘘だね」え?」
今までに無いほど、にこっと笑って毒を吐く日向さん。日向さんは、私が逃げないように手首を掴んでた手をグッと引く。必然的に私は日向さんの前に立たされる。ばっと日向さんの方を向くとぽんぽんっと頭に手を置かれる。何で?
「木村ちゃんはその時ちょうど3Pを決めたんだ。試合中に抜ける訳無いでしょ。ほら証拠。………これで分かっただろ?君達テニス部は彼女に踊らされてたんだよ」
何故か持っていたスコアボードをテニス部の連中に投げる。反射的に掴んだそれに、目を通すテニス部。もう私、知らないっスよ?
いつにもまして笑顔が光る日向さん……怖い。
「分かっただろう?この子は人を貶しめたりしない。いや、性根がいい子だから、喧嘩は売っても、悪口や一方的に攻撃なんか出来ないんだ。
それに、こんなに厚化粧したり、ネイルアートするとか、俺らマネ業舐めてるの?料理とかドリンク。こんな爪で作られて嬉しいの?」
それ、褒めてるんすか…?いや、もう止めた方がいいかな?テニス部ぐうの音も出せてないし。
「もういいっスよ、日向さん。テニス部も、もう懲りたみたいだし。」
「木村ちゃん。こういうのは灸を据えないと直らないんだよ?」
「もう十分っスよ。それに、別に仲いい訳じゃ無いから傷ついたわけでもないっス。そんなことよりリューセーに怒られるから早く行かないといけないじゃないっスか」
「そんな事って…。何気に酷いこと言うね」「え?」「……気づいてないならいいや」
なんか、日向さん溜息ついたんだけど!?私なんかしたっスか!?
「なんか腑に落ちないんスけど……。ま、いいや。赤沢!!午後は体育館来ないで欲しいっス!!」
「どうして?」「赤沢達だって、試合中に周りでうろちょろされたりワイワイガヤガヤされたら嫌でしょ?」「そんなに五月蠅かった?」
済まなさそうに下を向く赤沢。
「そうっスよ。お陰でリューセーの機嫌ガタ落ちだったんスから。キレなくて本当に助かったっス」
その言葉に隣の日向さんは頷く。リューセーが怖いのは、七宝擁する学校では知れ渡ってることだから仕方ないんスけど。基本は頼りになる主将っスよ。(念のため)
「分かった。すまないと伝えてくれる?」「OKっス」「じゃ行こっか」「はいっス!!」
日向さんと食堂を離れる。テニス部の連中はもう何も言わなかった。
体育館に着くと、日向さんは扉を開けてくれた。お礼を言って中に入ると
―――――――――パンっ!!
音とともに金や銀、色取りどりの紐が飛んで来た。え?
「「「「「「「「「Happy Birthday!」」」」」」」」」
私が怪訝そうな顔をしているとマリっちが駆け寄ってきて、クラッカーの紐を外しながらこういった。
「りーくん。今日誕生日だよ?」
笑いを堪えて言うから、声が震えてる。え?時計についている日付を見ると五月七日。………あ。
「人のは祝う癖に自分のは忘れてんのかよ」
「タッキーなんて殆ど忘れてるじゃないスか」
ジロッと見れば頭をガシガシして笑う。それはいいとして、いつの間にクラッカーとか用意したんスか?再開したの一昨日っスよ?
「きー君おめでと~、はいこれ」「竜崎に急に言われてビビった……」
ツーとルーやんがケーキを焼いてくれたようで、既に人数分回されている。そりゃビビるわな。私の皿には、ツー作のチーズケーキとルーやん作のチョコケーキがのっていた。羨ましい位綺麗に出来てる。どうやったらこんなに綺麗に作れるんスか!?
「もう!リーくん可愛い!!」
マリっちが私に抱きついてきて、何とか転けないことに成功。なんか、犬の耳と尻尾が見えたって。因みに喜んでる時の。皆も見えたって言ってた。リューセーにいたっては「だから犬なんだろ」って言ってきたのでむすっとしたら、笑って頭を撫でて来たんスけど…。
「麻里、離してやれ。涼、何か言うことは無いのか?」
「あ!!皆さん態々私のためにこんな事してくれてアリガトウっス!!いい思い出になったっス。午後もきついとは思うっスけど一緒に頑張りましょう」
「なんだ。その終わり方は」
「だって、リューセーの鬼メニューが待ってるんスもん」
タクが呆れて突っ込みを入れると、先輩達は楽しそうに笑った。
一三:四五までリューセーは誕生日会を開催してくれた。でも、誕プレと称して渡されたのが電話番号とメアドってどう言う事っスか!?いや、嬉しいのは嬉しいけど、もうちょっといいのが良かった。
因みに、余興としてユウが手品披露してくれたっス。中学時代から変わらず凄い腕前で今度教えてもらおうと画策中っス。
午後の練習は、気持ちのいい位シュートがぽんぽん決まる。タクもさり気なくシュートフォームを見てくれて、変な癖を指摘してくれた。
「木村くん調子いいですね」
「ユウ。忘れたのか?あいつ、嬉しい事があったらいつもあーだろ?」
「お前ら早く練習に戻れ。気にしているとノルマ残るぞ」
後ろの方でタクとタッキーとユウが話していることも気にせずに、ノルマをさくさく終わらせる。途中、休憩も挟み三時間半でノルマを終わらせて、まだ続けようとしたらリューセーに夕食作ってこいと怒られた。最後の夕食だし、ちょっと時間掛けよう。
と、言う訳で、中華を作ることにした。面倒臭いから今日はバイキングにしよう。チャーハンとエビチリと、青椒肉絲に八宝菜。出来るだけ作ってみよう。
無駄にこの合宿で上がった料理スキルのお陰で、思ったよりも多く作れた。さっきのに加え、杏仁豆腐にわかめスープ、棒々鶏も作ってみた。一九時からの夕食だったので、マリっちというお手伝いもいる事だし、余った時間にクッキーも作ってみた。
あ、フォーチュンクッキーじゃ無いッスよ。あれ、作るの面倒臭いんで。普通に初日に見つけた型抜きでいっぱい作った。絶対あの中じゃ、ツーがいっぱい食べるので、とにかく二〇〇個位作った。食後に皆とお喋りしながら食べるっス。
で、型抜きしたクッキーを天板にのせてオーブンに入れたところで、七宝とルーやんがやってきた。
「何作ってんだ?」「うーん。この匂いじゃクッキーかな~」
「ツーくん大正解。流石だね」
やっぱ、ツーって鼻と舌がいいっス。今日の中華、美味しいって言ってくれたらいいけど。
「食後に、皆でお喋りしながら食べようかなって思ってた所っスよ」
皆納得して「ああ」って言った。私の性格上、そうするのは当然だなって感じの反応だ。
「今日の夕食はビュッフェスタイルの中華っスよ~。運ぶの手伝ってくれないっスか?」
承諾してくれたメンバーと一緒に食堂に皿を運んでいった。(テニス部のも手伝ってくれた)
その後、夕食をワイワイ食べて(フルーツを挟み込んだ杏仁豆腐は好評だった)今回の合宿の反省的な事をリューセーが話し始めると皆口をつぐんだ。
「今日で合宿は終わりだ。皆、今日はゆっくり休んでくれ。また夏や冬にする事となったので、その時また会える事を楽しみにしている」
では解散とリューセーが言えば、先輩達は皆外に出て行った。
「ねえきー君。髪弄ってい~い?」「いいっスけど…」
クッキーを取ってきて、七宝メンバーで雑談をしていれば、急にツーはそう言い出した。別にいいけど、髪ゴム持ってないッスよ?と、思っていたら。マリっちがポケットから予備を取り出した。無駄にいい手つきに感心しながら仕上がりを待っていれば、タッキーが口笛を吹いた。え?何で?
「出来たよ~。スギちん、鏡ある?」「うん。はい、りーくん」「うわ」
私の髪はゆるふわの三つ編みになっていた。私じゃ無ければ可愛いと思うんスけど。やっぱ、違和感が拭えない。ツーって手先が器用なんスね。
「従妹に結ばされて慣れたんだよね~。きー君もそうした方が可愛いんじゃない?」
「確かに。もうアイドルとかって言われても納得できるわ。やったら木村ちゃん?」
「可愛いとか嬉しくないっスよ!!ってか、すずむー何言ってるんすか!?」
絶対ツーは確信犯だ。今口元が上がったっスもん!!何が楽しくて女の子の格好しなくちゃいけないんスか!?マジで、この病気治って欲しい。あと、すずむーもからかってくるのやめて欲しいっス。
「拓真。この病気は治るのか?」
「いや、父の話だと治った前例が無いらしい」「治るといいな」
目下研究中らしいけど、早く見つけて欲しい。てか、一番常識的な会話をしてくれるのがリューセーとタクとルーやんだけってどうなの?
「木村ならグラビアいけんじゃね」「木村くんの気持ちを考えて下さい」
タッキーはその後、ユウとマリっちに締められてた。もっとやってやれと思ったのはここだけの秘密だ。だって、言ったらタッキー怖いっスもん。
作ったクッキーが籠から姿を消しても、夜遅くまで高二メンバーは雑談をし続けた。いつもはストップを掛けるリューセーも今日は楽しそうにしていた。そのせいだと思うけど、タクとタッキー、ルーやんは、冷や汗をかいていたのが少し笑えた。明日からまた会えなくなるのがイヤっス。ちょっと所か凄く寂しい。相田先輩達と会えるのがまだ、せめてもの救いっスよ~。