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S.C.S.   作者: 麗羅
~海王中バスケ部は最強です~
12/19

十一.逃げるな

“オレ”は、ユウの声が聞こえた時、弾かれたように食堂の入り口を見やる。そこにはつーもいて、”オレ”をじっと見ていた。二人が、姫川の後ろから歩いて来るので、私はテーブルを回って、外に飛び出した。

「涼!」と叫ばれた気もしたけど気にする余裕なんてない。後ろで

「竜王君ですか?佑弥です。君の予想通り、木村君。飛び出していきましたよ」

とインカムのマイクに言っている事なんて全く気付かずに…。


<Side 麻里>


「ゆ、ユウくんっ!! どういう事っ!?」

いきなり入ってきたユウ君とつっくんに、私は驚く。

「竜王君は全てお見通しって事です。杉原さんは体育館に行ってください」

……流石竜王君。やっぱり、私じゃあ、りーくんとの関係は隠しきれなかったか……。海王中バスケ部のメンバーで、部長兼主将の竜王君の命に従わない人は、誰一人いない。だって、竜王君、切れたら何するか分かんないもん。君子、危うきに近寄らず、って言葉は、竜王君と関わる人のためにあるといっても、過言じゃないんじゃないかな?

「うん、分かった。じゃあ、後でね」私は走って体育館に向かった。あ、りんりんに連絡しとかないといけない。ばれたって。


<Side End>


つーとユウから無事逃げ切った”オレ”は、息を整えもせずに未だ走っていた。

食堂は合宿場の一階、一番隅に位置している。皆が泊まっている部屋は二階。特に”オレ”の部屋は二階の一番端っこ、つまりは食堂の上に位置している。なので、食堂付近の階段を使って部屋に駆け込もうとした。だけど、すずむーが降りてきた。

「あれ木村ちゃん? どうしたんだよ、こんなとこで?」

と、すずむーが声をかけてくれたけど、“オレ”に答える余裕なんてものはなく、Uターンして合宿場入口の方に駆け出す。バスケ部の人と今は話したくないから、ゴメンっス。

「ちょっ!?木村ちゃん!?」と、後ろから声がしたけど、私は走り去った。


食堂横の階段が駄目だったので、次は中央部にある階段を目指す”オレ”。そこに繋がる通路の大半は、秀央・葉誠・海南の人達がいて、通るに通れなかった。

けれど、”オレ”は逃げることに夢中で、誘導されるかのように、通路が塞がれている事を、思いつく余裕がなかった。まあ、よく考えもせず、がむしゃらにバスケ部に会わない様に駆けていると、行く方向は必然、外へ外へとなっていく。

途中、ルーやんにもあった。「おまっ、危ねーだろうが!」と言われた気もするけど、顔を見て、ガクッと九〇度直角に曲がった。

そのまま無我夢中で走っていると、ボールをドリブルする音が聞こえて立ち止まった。気づいたら、”オレ”が最近、お世話になっていたバスケコートに着いていて、今誰が使っているのかちらと眼を向けた。ら、そこにいたのはタクとタッキーの異色コンビだった。


「え?」

本来なら、逃げるべきだったのだろう。だけど、さっきのツーとユウのコンビや、この二人の組み合わせは滅多になかったので”オレ”の思考力を奪うには打って付けと言えた。


そして、その隙に、”オレ”の声に気付いた二人が”オレ”に気付き、近づいてくるためには十分すぎる時間を生む。直ぐに回復して慌てて逃げ出すも、如何せん、男子と女子の歩幅の違いから、すぐに追いつかれてしまう。それに、二人して一九〇近くの身長だ。逃げられないっスよ…。


しかし、諦め悪く逃げ回っていると、いつの間にか”オレ”の前方にはツーがいて、右手側(左手側にはバスケコートのフェンスがある)に逃げるけど、その場はユウが立ちふさがって。後ろから、タクとタッキーが来て逃げ道を失う。

……王手だ。ユウは”オレ”が逃げる事を諦め、立ち止まった事を見て、インカムに言葉を発する。

………って、インカムっ!?インカムとか、誕生日のサプライズパーティーの時以来っス。久々に見たっスよ……。


「お前は木村だな?」

”オレ”達、インカムを使ってない四人のうちで、副部長だったタクがイの一番に口を開く。

「―確かに木村ですけど、皆さんが捜している木……「俺たちが分かんねえーと思うのか!?あぁ!?」っ!?」

―――――ガシャンっ!!

タッキーは、”オレ”を後ろのフェンスに押し付ける。そして顔の横に両手をつく。

…確か、壁ドンとかいう状態。ってか、近いチカイ近い!!! “オレ”が、いくら姿が女子だからって、中身男だから!!”オレ”はめい一杯タッキーから顔を逸らす。精神的に参りそうだ。首を振ることもできない。

直ぐに、タクがベリッという音が聞こえそうな感じで、引きはがしてくれて本っ当に助かった。”オレ”は、ほっと胸をなでおろす。


「ほら行くよ、きー君。りゅー君は待たせると面倒くせーから」

ツーは”オレ”の左手首を掴んで引っ張る。抵抗すれば、ヒョイッと担がれそうなので、大人しく手を引かれて歩く。途中、つーが速すぎてこけそうになった所を、タクに助けられた。ま、隣から支えてくれたんスけど。

「あ、ありがと……」「小田、もう少しゆっくり歩いてやれ」「わかってるしー」

ユウは心配そうに”オレ”を見るけど、”オレ”は目を伏せた。ユウの、真冬の夜空のように澄んだ綺麗な目に、吸い込まれそうになるからだ。”オレ”の脆く弱い心は、その瞳に見詰められるだけで、全てを話してしまいそうになる。頭ん中はもう、グチャグチャっスよ………。


「竜王にどやされる覚悟位しとけよ、木村」

タッキーは何が面白いのかにやついている。

「全てを言わないと竜王君に何をされるか分かりませんから」

か、考えたくもなかったのに!!

リューセーに、体育館入った瞬間でゴメンナサイっ!!と叫ぶべき?いや、それで収まるリューセーじゃない。っていうか、七宝メンバーはこんな”オレ゛を確信を持って、木村龍として扱ってくれている。気味悪がってなんか、いない。その事に救われる”オレ”がいる。


考えていたら、もう体育館は直ぐそこじゃないっスか!?”オレ”は足が竦んだ。

ツーは、”オレ”の手を、ツーの性格上考えられないほど優しく離し、ユウを見る。ユウは溜息を吐いて、”オレ”の手を取った。

「大丈夫ですよ。ね?」

と優しくエスコートしてくれる。タッキーは、未だに竦んだいる”オレ”の頭をワシャワシャト撫でてから、タクをチラッと見て一足先に体育館に入り、タクは大きく息を吐いて入っていった。ツーに至っては

「きー君、クロ君。急いでよ。りゅー君とスギちんが待ってるからさー」

と言って、こちらを気にしつつ入っていく。”オレ”達は顔を見合わせて、くすっと笑い、中に入っていった。――気張っていた”オレ”が馬鹿馬鹿しくなった。


「遅かったな」

体育館に入ると腕を組んで待っていたリューセーと、居心地悪そうなマリっち、さらにはすずむ―までもが待っていた。七宝メンバーはすずむ―を見てぎょっとした。“オレ”の話知ってるの、会場じゃあこの二人だけだもんね。

「きー君が逃げようとするから悪いんだしー」

つーは”オレ”を庇う気がないんスか……。皆は”オレ”と対面するように並ぶ。

「座れ」

”オレ”が体育座りをすると「そうじゃないだろ」と、リューセーが言う。

“じ”の辺りで、”オレ”は正座をする。頭で考えるよりも先に、体が動く。

”オレ”達、海王の七宝と言えど、いやむしろ、七宝だからこそ決してリューセー――――キャプテン竜王蒼也の命には逆らえないのだ。すずむ―が場違いなほど爆笑しているので、呆れたタクがバシッと今日のラッキーアイテムでぶん殴った。ハリセンって……、占いが空気詠んだ、だと。とちょっと思ったのは秘密である。


「麻里は、入口を見張っていろ」「え、でも……」

マリッチは狼狽する。すずむ―はここに残るのかな?

「テニス部が入ってきたら困るだろう」

リューセーは涼やかな顔で言い放つ。そんなリューセーを見たマリっちは”オレ”にどうしよう、とアイコンタクトを取る。こんな時にも、”オレ”の考えを気にしてくれるマリっちには、感謝の念で一杯だ。

「マリっち、お願いするっス。テニス部入ってきたら、話どころの問題じゃないっスよ」

“オレ”の言葉に、マリッチは苦笑した。そして、”オレ”のことをチラチラと気にしながら、不安そうに入口に向かった。入ってきた扉以外は、すでに全て施錠がされている。

「さて、全て話せ。いいな」

”オレ”は、否定されることに恐怖を覚えつつ口を開いた。


「ねえ、ユウ。”オレ”が連絡取らなくなったのいつからか覚えてるっスか?」

「え? えっと、確か………WCが終わってから二週間ほどのことです。僕のところに週に二,三回メールが来るのに音沙汰がなくなったので不思議に思いました」

漸くボク離れしたのかと思ったので放置していましたけど。というユウに”オレ”はショックを受けた。周りはそんなユウの言葉に相槌を打っている。皆して酷い。

まあ、ユウ程でないにしろ、七宝メンバーの皆にも週に一回はメールを送っていたから仕方ないッスけど。

「”オレ”練習中にぶっ倒れたんスよ。そのまま病院に運ばれてさ……んで、病院でSCSだって言われたんス。タクなら知ってるでしょ」

「ああ。Sex Conversion Syndrome……男女性逆転症候群の事だ。父から聞いた覚えがある。未だに治療法が見つかっておらず、父も不治の病かもしれないと嘆いていた」

「たっくん、即答かよ。」とボソッとすずむ―が呟く。じゃなきゃ話、振らないって、すずむ―。

タクの家は医者一家。特にタクのお父さんは関東総合病院の院長さんだ。だからこういう病気についても知っていることが多いのでタクに話を振った。

皆もタクの言葉を聞いて、”オレ”の身の上について察しがついたようだ。まあ、病名なんてまんまっスから当然っちゃ当然だ。そしてみんなして渋面を作る。そんな顔してほしくないのに……。だからこそ、皆に会いたくはなかったんスよ……


「龍」「あ、続きっスか?女になって精神不安定になってカウンセリングとかも受けたッス。効果なんて全然「もういいです」なかったんスけど……。それで…「木村君っ!!」っ!」

ユウは思いっきり制止して”オレ”に駆け寄りしゃがみ込む。さりげなく”オレ”の正座している足の上に膝を置いた。・・・・・・ゼッテーわざとだ。まっ黒崎だもんね。めっちゃ痛い…!その後にリューセーがゆっくり歩いてきてユウとは反対側に座った。


「もう一度聞きます。なんで、ボク達の前から、何も言わずに、消えたんですか」

“オレ”が聞き分けのない子供のように言い聞かせるように聞いてくるユウ。それに合わせて“オレ”の膝に重心を移動してきていて、余計に痛い。実は無意識だったの!?ユウの真っ直ぐな目に射竦められ、堪えきれず”オレ”は目を伏せた。

「顔を上げて答えてください」

ユウは更に体重をかけてくる。痺れて感覚のない足には痛いだけッス・・・・・・。

「だ、だって・・・・・・…今まで仲良くしてきた奴が急に女になったんスよ?やっぱ、さ」

「気持ち悪いってか?ア?」

タッキーが”オレ”の言葉は引き継ぐ。なんで、幼馴染組はこうもきっぱりと言いにくいことを言うんだろ…。”オレ”は再び俯く。

「俺達がそんな奴だと思うか?木村」

静かだが心底心外だと言わんばかりにタクは言う。

「皆のことは信じてるッスよ!!チームメイトを信じられない程落ちぶれちゃいないッス」

「なら何故、俺達の前からいなくなったんだ」

タクが言及してくる。すずむ―はストップかけようとしたけど、リューセーの一睨みで硬直する。無理しなくていいよ。

「………じゃ、ないッスか」「あ?」タッキーの強面がいつもより酷くなる。

「皆が、”オレ”を気持ち悪がる可能性が一%でもあるかもしれないじゃないッスか……」

そしたら”オレ”は文字通りこの世から消えただろう。木村龍ではなく木村涼すらもいなくなったはずだ。それ程辛いことなんスよ・・・・・・。


「たっ君も、しょう君も、きー君泣いてんじゃん」

溜息混じりにツーに言われて涙が出ている事に気づく。拭っても拭っても止まる事がない。右でリューセーが動いた事に気づいて体が硬直した。リューセーが手を伸ばしてきたので反射的に目を瞑る。

……しかし、いつまで待っても衝撃がこない。恐る恐る目を開けてみると、リューセーは”オレ”の頭を撫でていた。余計に涙があふれ出る。ユウもスッと”オレ”の足の上から退いていた。

「木村テメ、いっつも突っ走ってんじゃねーよ」

「タッキーには言われたくないッスよ!!」

「滝沢のいう事じゃねーだろ、なーたっくん」「全くだ」

「翔、龍と臨の言う通りだ。悠弥が言うなら分かるがお前には説得力がない」

“オレ”を優しく撫でながらリューセーは言う。……これ、本当にリューセーっスか?優しすぎてなんかもう、別人なんスけど……。

更にいつの間にすずむ―のこと認めてたんスか。認めない奴全員苗字呼びなのに。

「よかったね、りーくん」

終わったのに気付いたマリっちが戻ってきた。その言葉に頷くとタクから不意打ちが。

「木村の場合は特に黒崎の学校に行った事だろう」「何で知ってるんスか!?」

いや、まあ、確かに?用事があったついでに、ユウの学校を覗きにいってちょっと話したんスけど・・・・・・。何でタクがその事知ってるんスか!?

「ボクが知らせました。木村君はやっぱりわんこですねって」

犯人、ユウッスか!?

……なんかもう疲れたからいいや……。まあ、後日行われた練習試合で負けた時に「だから駄目だなお前は」とか言いつつ、慰めてくれたタクは、もはやお母さんだったと思う。

「それはさておき、木村君。次また同じ事があったら、ここにいる七宝全員がキミを追いかけて地獄の果てまで行きますよ?」「ゆ、ユウッ!?」

こんな性格だったっけ!?

「冗談ですよ。周りの皆を見て下さい。心配してたんですよ?」

そう言っていつものように優しく微笑むユウ。周りの皆もホッとしたように見つめている。”オレ”の張り詰めていた緊張の糸がプツンと切れた。


「うわぁぁぁぁ」”オレ”はユウを巻き込んでリューセーに抱きつく。足が痺れていたことも、全く気にならずに久しぶりに泣いた。そんな”オレ”を優しく抱き留めたリューセーと、巻き込まれて苦笑を漏らしつつ”オレ”を撫でるユウ。気づいたら”オレ”は意識を失っていた。


<Side 悠弥>


「寝ちゃいましたね」

竜王君の腕の中で安心しきって眠っている木村君。竜王君は壊れ物を扱うかのように優しく頭を撫でています。

「俺達が拒絶するかもと心の何処かで思っていたのだろう。……そんな事するはずがないと分ってるだろうに」

「でも怖かったって言ってたぜ。俺と杉原ちゃんがお前等七宝に言う事を躊躇うくらいには、な」

加賀君は溜息混じりに話します。鈴村君の言葉に杉原さんが頷いてますね。

木村君は七宝メンバーにとって、手の掛かる末っ子のようなものですから、当然ですけど。本人はその自覚がないですから仕方ありません。本当に手が掛かる弟…いや今や妹ですね……。

それを見ているメンバーも微笑んで木村君を見ていますが、滝川君と小田君はどうしても違和感が拭えません。鈴村君、君は笑い袋か何かですか?いくら二人に違和感を抱えていても蹴られたりしますよ?杉原さんも僕たち、正確には木村君に駆け寄り顔にたれた髪を耳にかけました。木村君がすやすやと眠っている姿を見てホッとしたようです。


「竜王君。黙っていてごめんね。りーくんの精神状態じゃ、皆に会わせたら壊れちゃいそうで怖かったの。でも、こんなに安心するなら会わせた方がよかったかな」

「それはないだろう。おまえの判断は正しかったよ、麻里。僕達に無理矢理会わせていたら、それこそ龍は壊れていただろう」

今でさえ壊れてしまいそうな木村君ですから、信じていた杉原さん達が、ボク達に会わせようとしていたと知ったら壊れていたかもしれません。

「ところで麻里。龍の部屋は分かるかい?」「え?ああ、そういう事か。うん」

どうやら解散のようです。ボク達は互いに目配せをして戸締まりに掛かる。とはいえそんなにする事はないですけど。

「翔、お前が連れて行け。麻里、後は君に任せる」「「了解」」

「各自、自分の高校のメンバーに連絡を入れろ。明日から龍をこちらに引き込む」

「「「「「「了解」」」」」「では、解散」

竜王君の指示でてきぱきと後始末をしてボク達は体育館を後にしました。


<Side end>


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