十.え、嘘でしょ!?
次の日、朝食を作ってマリっちに配膳とかを頼んでる間に、外で一人で張れるようになったネットを張った。その後。キッチンで朝食をとり、戻ってきたマリっちとともに、お皿を洗ってからドリンクを作る。
マリっちがドリンクを所定のところに持っていく間に、私は洗濯室に洗濯物を洗いに行った。昨日より量が少ないので、回している間に干したやつを取り込みに行った。すると、マリッチが半分くらい畳んでいた。
「ごめんマリっち。大変だったでしょ?」「いいよ。洗ってたんでしょ?」
二人でぱっぱと畳んでいく。マリッチがカートにおきに行ってる時に、洗っといたタオルを干しに行く。
マリっちも、すぐに合流しておしゃべりをする。内容は勿論……姫川についてだ。
「本当、姫川って子何考えてるのかな!?りーくんが仕事してないっていうけど、やってないのはあの子の方じゃない!!」
「まあ、まあ。”オレ”気にしてないからいいっスよ。逆にあの子の顔見なくてせーせーするし。香水臭いのなんのって。嫌じゃないっスか?それに、マリっちと話す方が楽しいし」
にかっと笑って、マリっちを見ると、私もそうだよと言って、笑いかけてくれた。かわいい。
正直、ユウに抱きついたり、タッキーとばかやって、ルーやんと1 ON 1して、つーと新作のお菓子について話したり、常識人のタクと、皆(ユウ以外)の非常識さに突っ込んだり、リューセーの俺様(いや、今は僕様っスね)の命令を聞きた……くないから(Mじゃないし)、褒められたいな。ゼッテー怒られるのが先だけど。
その後、ドリンク作りにキッチンに戻ると赤沢がいた。え、なんで?
「どこ行ってたの?」「マリっちとタオル畳んで干してたんスよ。ね? 」
「うん。バスケ部のもやってくれて本当にありがとね」「良いんスよ。好きでやってるし」
そういうと、赤沢は本当にほっとしていた。なんでスかね? 姫川について尋ねられたので、答えようとするとマリっちが答えた。……若干マシンガントークで。
「知らないよ。全然手伝いに来ないし、先輩ばっかり働かせて何様のつもりなのかな。応援でもしてるんじゃないの? でさ、あんな迷惑な子の事を聞くよりも、戻った方がいいんじゃないの?赤沢君がいるのと、いないのじゃ、部活の活気も違うと思うんだ。いいの?」
「うん。そうだね。じゃ、オレは帰るよ、ごめんね二人とも。お邪魔しました」
ま、マリっち意外と怖い。それをさらっと流した赤沢も、流石っスね。正直、赤沢よりもリューセーの方がえげつないとは思うけど……。赤沢は忙しい時にゴメン、と言って出て行った。
その後、おしゃべりを交えて四〇人以上のドリンクを作った。手馴れているので早いんス。次は一四時半でいいってマリッチも言ってたからそれまで外でバスケして来よう。ボールは部屋に転がってるからね。バスケ、バスケ~。
<Side 勝>
「どうだった?」戻ってきて早々、高尾先輩はオレにそう尋ねた。
「これを聞けば分かりますよ」
オレは、ポケットからボイスレコーダーを取り出した。これは伯蓮の副部長、新島に借りたものだ。毎回大事な話を取っているらしい。オレも、これからはミーティングの時とかに使おうかな。
「赤沢センパイ!!涼センパイは?」
大輝はオレに駆け寄る。……犬の耳と尾が見える。懐くまでに時間がかかったもんね大輝は。周りに突っかかっていたころが懐かしく思う。
「杉原さんと仕事していたよ。姫川はいなかったけどね」
うちのレギュラー陣は、皆ほっとしていた。今までの働きも見てきたから、当然なんだけど。確証を得たらほっとするものだ。
「すいませ~ん。ドリンクとタオルを持ってきました」
……けど、ドリンクを持ってきたのは姫川だった。
「ありがとう。涼は?」「いっ、いませんでしたよ、木村センパイ」
おかしい。先程までドリンクを作っていたのは、涼と杉原さんだった。オレもこの目で確認したから。でも持ってきたのは姫川だった。なぜだろう。
「そっか。もういいよ」
そういってオレは愛想笑いを浮かべるしかなかった。
<Side end>
一二時半になるようにアラートをセットして、バスケをする。マジで相手ほしい。先輩達と一緒に、バスケしてきたから一人は寂しい。……もういいや。タッキーのマネでもしよう。
目の前に、高一の時の”オレ”を想像する。そして、その時のタッキーの動きも思い浮かべる。
ゴール裏からボードを超えるようにシュートを決めたり、背中の後ろからシュートを入れたり、果てにはいつかの様にセンターラインより内側からゴールにボールをぶん投げたりもした。
やっぱり、一人は辛いっすね……。皆が目の前にいるのに、その中に飛び込んでいけない。自分が臆病なだけなのは、解ってる。分かってるけど、怖い、恐い、コワイ……。
“オレ”は、雑念を振り払うかのようにバスケをした。
Pi pi pi pi pi pi pi・・・・・・
「もう時間っスね。食堂に行かないと……」
昼は一二時四五分から弁当で配られるんス。ボールを部屋に置いて食堂に行く。
あ、洗濯物を食べ終わったら、取り込まなくちゃいけないっスね。ま、食べ終わってからでも十分っス。
私が食堂に入るとジーというような目線が来た。………ウザイ。
「お前、愛理にだけに仕事させてんじゃねーよ」「は?」
仕事してるし、裏方オンリーで。何が楽しくて、テニスしてるの見なきゃいけないんスか。
「しかも、自分が一番可愛いとかありえねーだろ」
「いや、一番可愛いのはマリっちだし。しかも、私が応援しかしてないって言うんスか? はっ、ありえねーのはそっちっスよ。私は朝と夕方しかテニスコート行ってないんスから。ドリンクとタオルを私が作って、持って行ってもらうのは悪い事なんスか?」
全て本当の事だ。というか、姫川の顔とか手とかみてよ。この格好 (厚化粧に、ネイルアートしてる。なんか、ポ○モンのルージ○ラみたい) で料理とか、できると思ってるんスか?ただのバカじゃん。
マリっちや……今日に限っては赤沢という証人がいるからね。
「お前、バスケしてたじゃねーか」
「だから?ちゃんとタオルもドリンクも食事も作っているんだから、空き時間に何したっていいじゃん。本人(姫川)がコートにいたがるんだし、私がいてもする事ないじゃないッスか。あと、アンタ高一でしょ。先輩に敬語も使えないんスか? ルーやんより頭悪いんじゃない?はぁ……。赤さ「え?」……勝、弁当ってどこ?」
取っているそうなので、もう一度盛大な溜息を吐いた私は、光定の集まっている所に向かう。目の前の一年は無視だ。バスケ部来る前に逃げなくてはならないので、急いで食べなきゃいけない。
「ねえ、涼」「何スか?」
先程の一件で期限が急降下している私はついぶっきらぼうに返してしまう。それを気にせず赤沢は真剣にこちらを見てきた。いや、変な目じゃないっスよ?私は受け取った弁当を食べつつ答える事にした。
「俺たちそんなに頼りない?それとも信用できないのかな?」「え?何でっスか?」
「杉原さんとかは渾名呼びなのに、オレ達はずっと名字で呼ばれているからさ」
そう、何度も下の名前で呼ぶように言われていた。確かに信用はしてるけど、信頼はできていない、かな。だけど、本当の理由は、心を許してて拒絶されるのが怖いからだ。言えないけど。
「そんな事ないっス。信用してる。ただ慣れたないだけっスよ」
ちょっと良心が痛むけど仕方ない。文句は私じゃなくて、神にでも言う事を勧めるっス。“オレ”をこんなのにしたのは神なんだから。
「…まあいいや。オレ達光定は、涼の事信じてるから。仕事振りも見てきたしね」
やっぱ、馬鹿じゃないみたいッスね。鵜呑みにしない所とか流石名門って感じがする。それが正しいんスけど。
「ありがとっス。んじゃ、私、朝干したタオル取りに行かないと」
「うん。なんかごめんね」「良いんスよ。じゃあね」
私は弁当が包んであった袋をキュッと縛って、3Pシュートのように綺麗なループを描いてゴミ箱に入るよう、投げた。(真似しちゃ駄目っスよ)ん、これは入るな。
私は颯爽と、食堂を出ていく。私が出て行ったあと、ガコッと音を立ててごみ箱に入った。如月が、「かっこいい」と呟いてたのは、聞かなかったことにした。
一三時半。タオルを畳んでたら、マリっちが来た。手には、洗った山盛りのタオルが入った籠を持って。私は慌てて駆け寄り、マリッチからタオルの入った籠を受け取った。
「午前の分、洗ってたら遅くなっちゃった。テニス部のも洗っておいたよ」
「了解ッス。バスケ部のも、畳んでその籠に入れといたよ」
私達は互いにお礼を言ってにこっと笑いあい、タオルを干し始めた。楽しく話していると、タオルは直ぐに干し終わり、ドリンクを作りにキッチンに戻る。
……さっきの一年のドリンクだけ減らしてやろうか。とは思ったけどテニスで疲れているだろうから、我慢してやる事にした。私ってば大人~。一応、年上だから、その位の分別はあるっス。練習後のきつさやドリンクの重要性は分かってるし。
「今日の晩はパスタにしよっか」「教えてくれるなら何でもいいよ」
二人で、パスタを作るのに必要な道具の準備だけした。ま、冷蔵庫の取り出しやすい所に置いたりしただけだけど。次の集合は一六時半。夕食は一八時からだ。さ、早くバスケしよ~。
バスケの練習中、午前よりも視線が増えたのを感じる。サポートするのが好きなマリっちみたいな子なら、絶対にこんな事はしないんスけど。バスケが大・大・大好きな”オレ”は、日に何回かバスケしないと落ち着かない。
先程まで考えていたことを無視して……いや、振り払って視線すらも無視して、ゴールにボールを放り投げる。あ、やべ外れた。3Pよりは離れていても、いつもは外れるはずないのに……。
「不吉っスね」
今日は大人しくしとこう。そう決めた時アラートがなった。もう行かなきゃ。
キッチンに行くと、超偉そうな部長がいた。名前は忘れたけどね。
「どうしたんスか?」
私は手を洗い、冷蔵庫から先程準備しといたものを取り出し、テキパキ道具を出す。場所は初日に確認しているから、私は淀みなく動ける。
「いや、姫川はどうした」
「…またっスか。だから知らないってば!あと、料理するからご退場お願いするっス」
「……邪魔したな」
皆して、何が楽しくてここに来るんスかね。暇じゃないだろうね。
入れ替わるかのように、マリっちがキッチンに入ってくる。何かあったか聞かれたけど、曖昧に答えを返して一緒にパスタを作る。人数が多いから、めっちゃ大変だった。選択ミスったかもしれない。まあ、早めに調理開始したから5分前には準備が完了した。危なかった~。
食堂でパスタバイキングの準備をして、出て行こうとしたら、走ってきた如月に抱きつかれた。い、意外と勢いつけて抱き着くと痛いんスね。今までゴメン、ユウ。いつも走ってきて抱き着いてて、本当にごめんっス。
で、捕まったまま、光定の領域に連れてかれた。マリっちも一緒の分視線が痛い。穴が開くように見つめられた。夕食を食べつつ、時計をちらちら見る。あと三〇分で一八時四〇分。バスケ部の夕食が始まる一〇分前には逃げなくちゃ。マリっちも、光定メンバーと一緒に食べてる。先に食べ終えていた方が片付けしやすいしね。
「ごちそーさま」
自分で作っといて言うのも変な気分だ。いつもは省略しちゃうんだけど人前では言うようにしてるから別にいいけど。
「じゃ、マリ「木村センパイっ!やっぱり一緒に仕事しましょうよっ!」っち?」
姫川が前方で騒ぐ。こっちは急いでんのに何で邪魔するんスか?マリっちも私も光定メンバーすらも固まった。
「いや、してないの姫川でしょ」「オレもしてる所見たよ」
やば、あと一〇分で來るし。逃げなきゃヤバい。
でも、前方の姫川とその他の取り巻き(さっきから騒いでてうるさい。リューセーが来たら、どうしてくれるんだ)が邪魔で食堂から出ていけない。自分たちの世界にこもってればいいのに、迷惑な人たちだ。
「バスケ部の人達にも失礼ですよ」「「え?」」
私とマリっちは顔を見合わせる。失礼な事したッスか?そんなことないよ。七宝だよ?会ってないしさ。アイコンタクトで話を進める。仕事一緒にしてるだけアイコンタクトの精度も高い。無駄な技能だけど便利っスね。マリっちとできるレベルになったのも嬉しいけど。
「だって先輩。『バスケ部は私を追いかければいいんスよ』って言ってたじゃないですか」
光定メンバーと伯蓮の部長以外は「うわっ、最悪」「バスケ部見る目ねえな」と言っている。
――――”オレ”の大切な、大切な仲間を目の前で馬鹿どもに口々に罵倒される。
―――――――――――ダンッ!!!!!!!
「っせーんだよっ!アンタらに、皆の何が分かるって言うんスか!?
あの人達が”オレ”如きを追う?
っんな訳ねーじゃん。追ってんのは”オレ”の方なんだよっ!アンタらみたいな周りも見れないような馬鹿が、あの人達のこと、悪く言うんじゃねーよっ!!」
マリっちも、光定のメンバーですら”オレ”の剣幕に息を飲む。怒号を上げることは、ほぼなかったからね。叫んだらいくらか落ち着いた。
――――――その時
「じゃあ、なんでボクたちに黙って消えたんですか。木村君」
聞きたくて、聞きたくない優しい声がした―――――――。