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去年のウィンターカップが終了して何ヵ月もたったある日。オレは来年のインターハイに向けて、先輩達と練習してた時、ぶっ倒れて緊急搬送。目を覚ますと、そこが病院の一室だった。体調を崩すようなことは一切していないので、自分が何故ここにいるのか、全く見当すらつかなかったんス。
その後、先生に「君はSCS(性逆転症候群)になったようだね」と言われて固まった。
だって、そうッスよね? 練習中にぶっ倒れ、イキナリ、性別が代わる病になったって言われたら、誰しもそうなるはずっス。先生からも、奇妙な病だから前例が多くないし、治ったという話も聞いたことが無いと言われた。
もう、海王の七宝の皆や、先輩達とバスケが出来なくなる。たったそれだけの事実にオレは打ちのめされた。それが一番辛かったんス。
親以外面会謝絶にして、その後一ヵ月半くらいオレは荒れに荒れた。病室のものも全て壊したようだ、……完膚なきまでではないッスけど。そんなオレを見て、回りは慌てていた。悪いとは思うんスけど、自分では押さえられなかった。
後日、「男性発症者はそういう風に荒れに荒れるから、病院側も覚悟してた」という話を聞いた。なら、申し訳なくなるのは必要なかったのか? と思ったんス。けど、「ここまで暴れたのは、君が始めてらしいけどね」と先生からにこやかに言われ、やっぱ、申し訳なくなった。先生や看護師の皆さんは、仕方ないさと笑ってたのが、余計に申し訳なさを引き立てたのは言うまでも無いっスね。てか、先生!? 遠回しに攻めてたっスよね!?
まあ、カウンセリングなどのお蔭で精神状態も安定したし、今は普通に女として、行動できるようになった。一八〇に近かった身長も、薬と病のせいで一五cmくらい縮まり、胸にも脂肪がついた。髪も胸の所くらいまで伸びたし、顔つきも女らしくなった。……じっくり見ると、オレって分かるんスけど。
体のラインは柔らかくなり、バスケで鍛えた筋肉は衰えていった。ま、大半寝たきり………は違うけど、病室から出れないし、出歩くのも何かヤだったから、引きこもってたオレが悪い。筋肉のついた女子ってのも嫌っスけど、せっかく鍛えてたのに………。女子じゃあ、体の構造的に筋肉つかないじゃないっスか!?
そしてつい最近、ようやく退院することができた。名前も龍から、涼に改名。そして、桜凛高校からの転校を決めた。どうせ通っても、先輩達やクラスメイトと気まずくなるだけっス。
先輩たちには絶対に嫌われたくない。先輩達から拒絶されたら、オレ、もう絶対に立ち直れないッス…。
それは、海王中バスケ部レギュラーの仲間たちも同じだった。だから、何も言わずに転校し、ケータイも変えた。電話番号も、メアドも全て電話帳から消して……。
そして、”私”が、新しいブレザーに腕を通したのは十分前のことだ。(一人称を“私”って変えるのにはこれでも、苦労したんスよ!!) 目前に広がる、大きな校舎を見て目眩がする。何で何処もここも、大きければそれでいい、みたいに迷いそうな校舎を作るんスか!! 私は溜息を吐きながら、これから卒業するまで通うであろう高校、光定大学付属高校の校内へ歩き始めた…。