第8話~勇者と魔将と冒険者~
朝の騒動から数時間後、僕とシルフィアはセントリア皇国へと向かうための準備をギルド内でしていた。準備をする中で、どのようにしていくのかを話し合っていた。話し合うといっても、シルフィアの出す意見に賛成するか。それとも反対するか。その程度のことしか僕はできなかったのだけれど。
「あとは、何で行くかですね。」
「何でってことは、徒歩以外の手段で行くということ?」
「ええ、街中で見たとは思いますが、馬やコルクルなんかに乗って行こうと思います。」
コルクルという動物は、多少は空を飛ぶこともできる、二足歩行の鳥だ。
ここ、聖フィローネ王国は馬の需要のほうが多いのだが、セントリア皇国ではコルクルのほうが、需要があるそうだ。
「じゃあ、セントリア皇国へ行くんだしコルクルにしませんか?」
「分かりました。じゃあ後で卵を買いましょう。」
「へ?なんで卵?」
「安いというのもあるのですが、幼い時から育てたほうがよりその人の生活にあうようにそだつんですよ。」
「へぇ、そうなんですか。」
そりゃあ、1から育てたほうがなついたり、戦闘ができたり、気品があったりとそれぞれに違いが出るのだろう。
ただ育てるのに時間がかかるかな?
「では、魔物商へコルクルを買いに行きましょう。」
ギルドを出ると、そこには聖フィローネ王国の3勇者
万能の勇者こと 一之瀬 達也
遊撃の勇者こと 中条 英美
支援の勇者こと 久世 春奈
僕と一緒に召喚された3人が
「よ!3勇者!!」
「この世界を救ってください!勇者様!」
などとそばにいる人たちに声をかけられながら、門の外へと行こうと歩いていた。
手を振り返しながら・・・
勇者というだけあって、なかなかに洗練されたデザインのいかにもな防具に身を包んで、さらには強そうな武器を片手に持って歩いていた。
別に3人に恨みがあるわけじゃあないけど・・・
あそこの立場にいたかもしれない。
あれを見ると恨みがましく思ってしまいそうだったから、今は見たくない。
会いたくないと思った。
3人はどうやら僕に気づいていないようだ。
「あれが、勇者様・・・」
シルフィアが何か願うような目で彼らを見ていた。
「あの、やることがあるし、もう魔物商のところへ行きませんか?」
焦っていることを見せないように、とてつもなく警戒しながらシルフィアに、早く行こうと促した。
「・・・そうでした。それでは行きましょう。」
気付かれる前に、その場から離れるように魔物商のところへ向かった。
◇ ◇ ◇ ◇
「ここが、魔物商・・・」
なんというか、名前からしてもう少し怪しい雰囲気があると思っていたのだけれど・・・
どう見ても人気なペットショップだった。
「眺めてないで買いに行きますよ。そらくん。」
「あ、はい」
引っ張られるようにして、コルクルの卵売り場についた。
卵は、町のコルクルのような色の違いがなく、みんな真っ白な卵だった。
「いっぱいありますけど、みんな白いんだね。」
「まあ、卵の状態ですしね。」
「これはどれか一つを選べばいいんですか?」
「はい、これだって思うものがあったらそれを買いましょう。」
そうやって眺めていると・・・
一か所。他と離されている小分けされている場所が目に入った。
「あれはどうしてこっちとは違う置き方をしているんですか?」
「あ、あれですか。こっちが飼われているコルクルの卵なのに対し、あっちのほうは野生のコルクルの卵だってことですよ。」
どうやら野生と飼われているのでは置く位置が違うらしい。
僕は野生のほうの卵を見ていてなんとなく気に入った卵があった。
他との違いは一応ないんだけれどね・・・
「あの卵でもいいですか?」
「あれですか・・・わかりました。じゃああれにしましょう。」
「やった!」
自分の選んだのが買えた分嬉しかった。
◇ ◇ ◇ ◇
「いや~早く生まれないかな~」
「少なくともあと一週間はかかるのではないのでしょうか?」
そんな他愛もない話をしていたら。
バサッ
目の前に、見知らぬ黒い人影が現れた。
「ナァーーハッハァー!魔将ケルビィムたぁ~俺のことだ!!おい!そこの少年、ちょっと殺りあわねぇか!」
いきなり魔将とかいういかにもな敵が現れた・・・
戦闘をご希望のようですね。
どうしょう?
って
「どこのゲームだよ!!!」
見た瞬間に脊髄反射よろしく声が出た。
「何を言っているのですか?」
バカじゃないの?
と、でもいうかのような視線を向けてくる。
「え、いや・・なんでもないです。」
うんその目線やめて。
「とりあえず・・・『アル・ハイド』」
シルフィアは、周りから見えないようにする闇魔法を使った。
「あれま?どこ行きやがった?まぁいいや、誰でも戦いてぇ奴はこっちきな!木端微塵にしてやるぜぇ!」
う~ん・・・魔将様は戦闘狂のようだ。
「あぁ!」
「ぐあっ!」
「や・・・やめっ!」
近くにいる町人を殺している。
というより殺し放題だ。
このままじゃ町人がみんな殺されてしまう。
放っては置けないっていうのはわかるんだけど・・・
今は勇者ではなく護衛なのだから。
でも・・・
「あのっ!戦ってもいいですか。」
「周りの人には申し訳ないですし・・・3勇者がくるまでなら時間でも稼いでもいいですよ」
「ありがとう!」
その答えとともに僕は
隠密結界から出た。
「どこ行っていた!少年!!早く戦おうぞ!!」
そういうと魔将ケルビィムがいきなり手に持っていた破壊刃で殴りかかってくるように切りかかってきた。
「なっ!」
速すぎて動きがぶれて見えるのか!?
それを両手の剣をクロスした中心で防ごうと思ったのだが、
ガギン!ザッザァーー・・・
「ぐうぅぅぅ」
何とか体への一撃は止められたが、石畳を盛り返しながら後方へと押しやられる。
立った一発でこの威力、しのぎきれるのか?
「なかなか粘るではないか少年!この攻撃に耐えるのはセントリア皇国騎士団長以来だぞ!」
「それはどうも!」
仕返しとばかりに、振り切った格好になっているケルビィムの腰に突きを放った!
ギィィィイイイイ!!!
「か・かたい!?」
一応切り傷は与えたのだが、かすり傷も同然の浅い傷にしかならなかった。
斬ったのに大した量の血は吹き出ていない。
物理防御力が今まで戦ってきた相手とは違う!
そういえば何Lvなんだ?
そう思ってケルビィムのステータスを開いてみる。
魔将ケルビィム
Lv61
Lv61!
今の僕と20Lv近く離れている!
ステータスが並み以上じゃなかったら即死の差だ。
強いとは思っていたけど・・・
ガギイイィィィーーー!
「っちい!」
バックステップで距離を開ける。
しかしケルビィムはすぐに詰めてくる!
「もっと!もっと!俺をたのしませろよおおぉぉ!!!」
「はああぁぁぁ!『ダブルスラッシュ』!!」
キィン!
ガキン!
「そう来なくっちゃなあ!」
スキルを使えば互角に戦えるようだ。
「まだだ!『思考加速』!!」
なんでこのスキルを使わなかったんだろう?
使えば、判断力なども上がるのに・・・
まあ今はそんなことはいいや。
「ぉぉおおおるううぅぅぅぅらぁああ!!」
右下段から振り上げてきた。
今度はしっかりと、相手の動きが見える。
剣の降る方向へ向かいながら体を下げて破壊刃をぎりぎりでかわす。
そして再び構えをとれる間合いへ戻ってから・・・
「『ダブルスラッシュ』!」
今だ元の態勢へと戻れていないケルビィムの破壊刃を狙い打った。
キィイン!!
今度は跳ね飛ばせた。
こっちにはもう一撃ある!
「いっけぇぇーー!」
ザシュッ!
ドバァ
今度はしっかりと相手の左腕を斬り飛ばした!
「ふふふふふ!ハハハハハ!!」
腕を斬られたなおケルビィムは笑っていた。
まるで、痛みなんてないかのように・・・
「いいぞお前!俺は気に入った!!」
そういいながら破壊刃を振り下ろす構えをとった。
「そうはさせるか!」
僕はまだ速度の出ていない状態で押し込めば何とかなると考えて突っ込もうと構えた。
その時。
「『ウインドスラッシュ』」
その一声とともに、ケルビィムの横腹に切り傷がいくつもできた。
「うおっ!」
「なんだ?」
そう思って声のほうを向いた。
すると・・・
声の聞こえたところには、
初級遊撃の勇者。いや、中条 英美が立っていた。
魔法を放った態勢で。
「『バーチカル』」
その一声とともにケルビィムの首から上が切り捨てられた。
『思考加速』なしでは視認できるかどうか・・・
そんな次元の違う剣速だった。
その一斬りで勝負が終わった。
僕の攻撃でそれなりのダメージを受けていたとはいえ、相当な威力だ。
『ダブルスラッシュ』を全て相手の弱点に当てた時とおそらく同等の攻撃力である。
そんな攻撃を起こしたのは
万能の勇者である、一之瀬 達也だった。
「大丈夫か?」
「ええ、一応無事です。」
「お前・・・空か!無事だったのか!!」
驚いたような声とともに、とてもうれしそうな笑顔を達也は見せた。
「はい。無事です。まぁ冒険者として日々戦ってはいますけどね・・・」
そんなことを口にしたら・・・
「そらー!よかった。生きていたんだね!」
そういいながら涙を流した英美が抱き着いてきた。
「そんな簡単に殺さないでよエイミィ。もう!」
「ごめんごめん!でも嬉しくって」
僕は共にに巻き込まれた友達の達也とエイミィにここで再開を果たした。
「ところで春奈は?」
「春奈は今王宮にいるよ。今回復魔法を練習しているところ。」
「そうか・・・」
そんなことを話していると、
「えっと・・・そらくんと勇者様は知り合いなんですか?」
シルフィアが話しかけてきた。
「ええ、僕も3勇者と一緒にここへと召喚されたんだ。」
「は・・・はいぃぃぃ!?」
シルフィアの驚いた声があたりに響いた。
誤字脱字など文章的におかしいところがあったら感想で書いてください。