第6話~迷宮ボス~
「それで、これからどうする?」
先ほどまでのやりとりとは一転、真面目な表情で全員にたつやが問いかけてきた。
「こちらの当初の予定は次の層にいる迷宮ボスを討伐することだ。そのための準備も含めて準備していたところにそらたちに遭遇したわけだからな。」
「私達の目的は迷宮をクリアして安全な洞窟に戻すこと。その一点のみにあるのでよろしければ協力させて頂きます。」
たつやの振りにシルフィアが凛とした面持ちで答えた。
「なら。一緒に攻略だね!人が多い方が楽なはずだし。」
「僕もそれでいいと思うよ。」
「じゃあ~いこう!れっつご~!!」
「「おう!」」
◇ ◇ ◇
迷宮『フィアー』最終フロア
「この先が、迷宮ボスのいる部屋・・・」
このフロアにたどりついた僕たちは50メートルほどの一本道を通り、高さ6メートル弱もある大きな扉の前にたどり着いた。
「じゃあ・・・あけるよ。」
声を潜めてエルがみんなに言うと、ギィィィィと重く響く音を出しながら、扉を押し開ける。
「何も・・・いない?」
「でも、ここが最後だよ?」
内部は光一つとしてない、『暗黒』という表現が最も似合いそうな空間だった。前も横も上も全く見当がつかない空間。
「少しだけ進むぞ。」
「了解。」
最大限の警戒をしながら、そらとたつやの2人が前に進む。
10歩ほど進んだところで変化は訪れた。
ボオオオッ!
「なんだ!!」
「眩し!?」
突然目の前に強烈な閃光を放たれ、そらとたつやは目を瞑る。
その時、フロアに衝撃が走った。
「ググルオオオォォォグガァアアア!!!」
地鳴りのような雄叫びにそらは身震いした。
やっと目が光に慣れてきて薄ら薄ら目を開くと、そこには圧倒的存在感を放つ単眼巨人がいた。
「あれは!?」
「なっ!?キュクロプスだと!!」
そうたつやが驚愕の表情と共に言い放ったのを受けてそらは目の前のモンスターを視る。
【キュクロプス】
迷宮『フィアー』ボス
Lv75
分かっていたとはいえ、自分とは20Lv近くの差があるボスモンスターを相手にそらはため息を吐く。よく相手を見てみると無骨な戦斧を腰から取り出し戦闘のために構え始めているのが分かる。
さすがは迷宮ボス。
とても強そうな武器だ。
一人勝手に考え込みながら、一つ思ったことを口にした。
「うぇ。気持ち悪い・・・」
「「そんなこと言ってる場合じゃない!!」」
何気なく一言つぶやいただけなのに、なんか後ろでエイミィとエルから文句がきた。これ以上考えていたらなんか面倒なことになりそうだと思ったそらは、後方に向かって叫び返す。
「分かっているよ!」
そらは渋々と知覚速度を上げるためのスキル『思考加速』を発動しつつ、すぐに愛用の双小剣『夜空』を腰の鞘から抜き放つ。そして一切迷わずにスキルを放つための構えをとるや、
「まずは『ツインストライク』!」
相手の反応速度を見ようと突進系スキルで一気に詰め寄る。もともと『双小剣』スキルがスピードと連撃性に優れているために距離を一瞬で詰めることは十八番である。視界の外から高速で襲ってきた一撃を『キュクロプス』は躱しきれずにあっさりと攻撃を食らう。さすがにボスモンスターというだけあって、全然ダメージを与えられてはいなかったが、そんなこと百も承知で放ったんだ。と言わんばかりにそらは連続して攻撃を入れていく。少しでも隙があれば、
「いっけぇ!『ダブルサーキュラー』!!」
といったふうにスキルを放って的確に腕や足などの動きを阻害させる部位を攻撃していく。そらはじわじわと、だが確実にダメージを与えていく。それは長い年月をかけて岩を削る波のようであった。
そんな時間の掛かりそうな戦闘を続けながら、
ーそれにしても・・・エイミィにエルにアルに似た名前の知り合い多いなぁ・・・
などと考え込んでいた。
やっぱり戦闘する気はないそらであった。
◇ ◇ ◇
一方、たつやは『キュクロプス』が本当にいたのか!と、嬉しそうについつい叫んでしまっていた。しかし後方でそれを見ていた春奈に呆れられ、ジト目で睨まれていることに気付き、
「あーもう!なんでこうなるんだよ!!『ツイストインパクト』」
半分八つ当たりに気味になりつつ、麻痺効果のあるスキル『ツイストインパクト』を『キュクロプス』に向かって放った。
そらとは違い、たつやはもともとLvが高く今はLv72だ。
それと同時に攻撃力が高く一撃が重い『両手剣』を使用しているという二つの理由が重なり、
「グオオオッ!?」
まともな攻撃力のある一撃を『キュクロプス』に向かって放つことに成功した。
さすがにたつやの攻撃にはイラついたのか、『キュクロプス』は攻撃対象をたつやに定めた。
しかし、たつやにとってそれは好都合な話だった。
『両手剣』は相手との正面対決を得意とするスキル構成でできているために、相手に自分を攻撃対象にさせるということはつまり、
「いくぜ!『ライジングクラッシュ』!」
大技を発動させられる状況を作るということなのだから。
「グギャアアア!?」
「たつや!下がって!!」
「おう!」
後方のからエイミィ一時退避するよう言われ、たつやは即座に左後方へとバックステップを行う。そのタイミングをまるで見計らったかのようなベストタイミングでエイミィは魔法を発動する。
「~の者を切り刻みたまえ!『ウインドスラッシュ』!!」
無数の風の刃が『キュクロプス』へ向かって一斉に放たれる。風魔法というだけあって、発動したのはわかってもあくまで風であり、視認することはできないために何が来るか理解できなかった『キュクロプス』は容赦なく切り刻まれる。
深くはなかったが、そらの攻撃と同様に無数の浅い傷が刻み込まれ、鮮血が舞い散った。
「ググウルゥギャァアア!!」
『キュクロプス』は咆哮すると、広範囲火炎魔法『フレアウェーブ』を放ってきた。その範囲には、なんとボス部屋の半分以上が含まれた。
「な!?」
「くそっ!避けられっ!」
「あっつぅ!」
今まで迷宮モンスターで魔法を使用したモンスターはいたが、これほど広範囲の魔法を放つものはいなかったがために、近接攻撃を仕掛けていたそらやたつや、エルは躱しきれずに炎の海に巻き込まれる。
「みんなが!」
「私が防御魔法を放ちます。だれか回復を!セントリアス第~」
即座にシルフィアが防御魔法の詠唱に入る。
「私が回復魔法をかけます。支援の勇者が~」
続けて春奈が回復魔法の詠唱を始める。
「~彼の者を守りたまえ『ウォーターシールド』」
シルフィアの魔法が前衛の3人を炎から守る水の泡で包み込む。
「~に癒しの光を『ヒーリングライト』
春奈の魔法が発動すると泡の中が暖かさの感じられる日光のような輝きでいっぱいになる。目で見ても分かるくらいダメージを食らっていた3人にできた火傷の後が消えていった。
「ありがとう。」
「たすかった~」
「サンキュー!」
3人が魔法に包まれたことを確認したシルフィアは、
「こちらも魔法で対抗しますよ。セントリ~」
反撃のために攻撃魔法を詠唱し始める。
「オッケー!遊撃の勇者が~」
エイミィも同様に魔法を構築していく。
「~の者を飲み込め『オーシャンウェーブ』」
「~の者を吹き飛ばせ『ストロングハリケーン』」
大きな波が竜巻の中を通って『キュクロプス』に襲い掛かる。
まるでスクリューのような攻撃になった。




