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辺境護民官ハル・アキルシウス(改訂版)  作者: あかつき
第2章 シレンティウム造営
35/88

第12話 辺境護民官のある一日 1

 シレンティウムにおける、辺境護民官の一日

 

 辺境護民官ハル・アキルシウスの朝は早い。

 今日も既に薄暗い内から目を覚まし、手早く衣服を身に着ける。

 春間近とは言え北方辺境のこと、外はまだまだ寒い。


 ほんのり温かいシレンティウムの水道水を使って洗顔を済ませ、ハルは同じ建物の下の階にある執務室へと向かった。

 その途中に木刀を2本持った楓と出会う。

 楓の部屋はハルと同じ階の階段脇にあり、ハルはその前を必ず通る為早起きして待ち構えている楓とは必ず毎朝会うのである。


「ハル兄おはようっ!」

「楓、頼むからもうちょっと静かにしてくれ、まだ寝ている者達も居るんだ」

「えっ、なんでっ?せっかくの朝なのにっ!」

「だ……だから、まだ寝ている者もいるって、さっき言ったろ」


 ハルが再度窘めると、楓は不満そうに口をとがらせながらも大人しく従う。


「む~っ、ま、いいや、分かった~それよりハル兄!今日もお願いっ、はいっ!」

「全く、毎日毎日飽きないなあ……」


 元気一杯に左手の木刀を差し出して朝稽古のお誘いをする楓に、ハルは苦笑しつつもそれを手に取った。


「じゃあ裏庭へ行こうか、それ程時間は無いからな?」

「うん!」

 


 時間は無いと言いつつも結構な時間を費やしてハルが楓と朝の剣術稽古を終えて執務室へ入ると、良いパンの匂いがふわっと2人を包む。


「ハルさん、おはようございます」

「おはよう、ロットさん」

「朝食をお持ちしましたよ」


 いつものことだが、プリミアがやって来て朝食を用意していたのだ。


「やっ、プリミア~今日もありがと~」

「おはようございます、楓さん」


 楓がプリミアに近づき、プリミアが胸の前に差し出した両手のひらへ自分の手のひらをぱちんと打ち合わせる。


「どおりで良い匂いがすると思った、いつもありがとう」

「いえ、これぐらいしかお役に立てませんので……」


 ハルが楽しそうにはしゃいでいる楓とプリミアの横から声をかけると、プリミアは少しはにかみながら答えた。

 雑談を交えながら旅館の経営状況や設備で不備があったことなどを報告しつつ、楽しそうにしているプリミアを見ながら楓がつぶやく。


「むむっプリミアめ……でも、プリミアの焼くパンはいつも美味しいし……」


 ハルの机に置かれた籠からパンを一つ取り、もしゃっとかぶりついた楓はもぐもぐと口を動かしながら2人の様子をいつものようにうらやましそうに見つめるのだった。





「おはようございますアキルシウス殿。今日も宜しくお願いします」


 食事が終わり楓とプリミアが執務室から出てしばらくすると、両手に資料を持ったシッティウスがいつも通りのしかめっ面で執務室へ入ってきた。

 毎日ぴたりと同じ時刻に執務室へ入ってくるシッティウスは今やシレンティウム行政府の時計代わりであり、彼が廊下を通った時が始業時間とされている程である。


 シレンティウムにもかつてアルトリウスが設置した青銅製の水時計が修復、整備されており、40年前に製作、設置されたとは思えない正確さで時を刻んでいる。

 当番兵が朝昼夕にそれぞれ交代の際に見回り、水時計の時刻を確認した後に時鐘を打ち鳴らすという方法で都市への時刻告示をしているが、シッティウスの出勤、昼休憩、退庁の時刻はそれに劣らず正確であるので、専らシッティウスによって時刻を確認しているシレンティウム行政府。


 一度当番兵がうっかりして昼の時鐘を鳴らし忘れた時でさえ、シッティウスは正確に昼のお茶の準備を始めてハルやドレシネスの度肝を抜いた。

 本人曰く“自分の能力とその日のやる気、体調を勘案すればどの程度の時間が経ったのかは仕事量で分かります”とのことである。

 


「あ、おはようございますシッティウスさん。今日の案件は?」

「まず、最初ですが……要望の出ていた街路の整備についてですな。建築資材の置き場所を通り以外に確保するよう触れを出したいと思います」


 ハルの前にある自席へ資料を一旦置き、その中から2枚程紙を抜き出してハルへと示すシッティウス。


「なるほど……建築資材は街路上では無く隣接する空闊地に置くようにするのですね。それでも駄目な時だけ通りへ一時的に置くことを許すと……」

「はい、加えて建築資材は使用予定分を搬入させるようにしまして、夕方には通りに建築資材を残さないように致します」

「街路表示はどうしますか?」

「これは今すぐという訳には参りません。シレンティウムは日々成長しておりますので、まだ通りの名前がきっちり決まっていない所もあります。ただそれではいかにも不便ですので、とりあえず大通りへの進行方向とその先の大通り名を記した看板を辻へ設置したいと考えておりますな」


 シッティウスがもう1枚の資料を取り出してハルへと示す。


「そうですね……加えて頂けるなら街区の地番表示をして頂けますか?街区や番地については既に決定をしていますから、例え空き地でも表示は出来るはずです」

「なるほど、自分のいる場所をまず把握できるようにする訳ですな……良いでしょう、早速手配をする事にします……それからこちらが今日の決裁です」


 シッティウスは資料へ書き込みをしながら決裁書類の束をハルへと手渡した。


「はい、分かりました。いつも通り目を通しておきます。何か特に注意することはありますか?」

「それもいつも通り重要なものを一番上にしておりますが、特に注意をして頂きたいのはこの案件……そうです、それに記してありますが、アダマンティウス市長からの報告書です。帝国東部の東方の各属州から有事の際の派兵要請があったそうですな」


 ハルが尋ねるとシッティウスは一番上に置いた紙を示しながらそう答える。

 西方帝国の東部及び北部の諸属州で治安が悪化しており、様々な影響が出ているという報告は以前から受けていた。

 シレンティウムへやってくる行商人が口々に申し立てたこともあるが、一番顕著な影響は西方帝国製品の物価高騰である。

 盗賊や山賊、果ては海賊の横行によって流通が滞り始め、またそれを見越したあくどい商人達が物品の買い占めや売り渋りを始めた影響である。


 幸いにもシレンティウムの生活用品生産は順調で、西方帝国から買い入れるのは専ら貨幣と資源金属、それに武具類であるので、これについては西方帝国の行政による統制がある為それ程価格に変動は無い。

 しかし治安の悪化を是正する帝国軍は南方へ集中しており、討伐や警備もままならない状態に陥っているのが今の西方帝国北部と東部であるのだ。

 ハルが資料から顔を上げてシッティウスに質問する。


「それは……無理なんですよね?」

「はい、辺境護民官の権限については、西方帝国国境外のみとするという法令が確かにございますな」

「ううん……」


 属州総督達も法令を知らない訳は無く、これは苦渋の決断であろう。

 裏を返せばそれほど事態は悪化しつつあると言うことである。

 悩ましげに唸るハルへシッティウスは帝国法典を開き、ぱらぱらとその分厚い本をこともなげに片手で操りながらページをめくった。

 そして目当ての法令が記された箇所を探し当てるとハルへと示す。

そこには辺境護民官権限について記されており、任命権者やその権限の条文の最後に特例措置についての記述がある。


「但し一つだけ。ご覧になっておられます条文の通り、内乱があった時と外国勢力が進出してきた時は直近の属州総督や軍司令官の要請と承認により西方帝国国内に戻ることが出来ますが……おそらく辺境護民官が創設された時はアキルシウス殿のように力を持った辺境護民官の存在を想定していなかったのでしょう。その際の軍権や行政権については特に規定はありませんな。ですので……」

「可能ではある、ということですか」

「はい、ただ法の抜道を使うと言うことになりますので本来余り褒められた方法ではありません。しかしそうも言っておられない事態に陥ることもありますので、想定をしておいて損は無いと思いますな」


 ぱたんと帝国法典を片手で閉じてシッティウスが言った。


「それでは、私は各所を回って参りますので、その件を含めご検討下さい」


 シッティウスは自席へ帝国法典を置き、今度は先程置いた資料を片手にハルへ一礼すると執務室を退出する。

 シレンティウム行政府はハルのいる2階と1階に各部署によって事務室が設けられており、シッティウスは各部署を兼務している為1日かけて担当する部署を回るのである。


「ご不便をおかけしますが私の知り合いを伝送石通信にて呼び集めておりますので、もうしばらくお待ち下さい。いずれも偏屈であったり貴族嫌いであったりではありますが、仕事は出来る者達ですな。きっとシレンティウム行政府に無くてはならない存在になるでしょう」


 最後にそう言い置いてシッティウスは去って行った。

 後はハルの仕事。

 書類に目を通し、許可の署名を行っていくのだ。

 単調だが重要な仕事、しかし眠くはなる。


「ううっ……きついなあ……」


 文字を必死に読み下しながらハルは書類の処理に時間を費やした。






 昼は軽くお菓子を食べるだけで済ますのが帝国の流儀である。

 戦争時はともかくとしてクリフォナムやオランにも昼食を食べる習慣は無く、1日2食が基本でこちらは特に昼時は何も口にしない。

 しかし帝国人達がお茶と共に軽食を口にしているのを見て、まず女性や子供達がまねを始めた。

 やがてそれは市民全体に広まり始め、そうしてシレンティウムでは昼時の軽食が習慣として根付きつつあったのである。


 ハルは薬草の分類と整理が終わったという報告をエルレイシアから受け、その書類と標本を受け取りに太陽神殿へとやって来たが、そこでエルレイシアからお茶に誘われた。

 アルスハレアはアルペシオ族の村へ薬草指導に出かけていてここ数日は不在であり、今太陽神殿はエルレイシア1人だけ。

 隣の薬事院には薬師や薬師見習達がいるが、彼女等は彼女たちでお茶を楽しんでいるのだろう、太陽神殿の方へ来る気配は無い。

 太陽神殿の裏庭に設えられた椅子と机には、エルレイシアが淹れたハルが好きな香草茶が2人分、それに小麦と蜂蜜を混ぜて練り上げて焼いた菓子が出されている。

 蜂蜜はエルレイシアがフィクトルから購入した非常に質の高い物で、香り味とも申し分ない。


「ハル、こちらの蜂蜜菓子はとても美味しいですよ」

「そう?じゃあ……」

「はい、どうぞ」

「エルレイシア……さすがに、その、それは、あの……」


 暗にあ~んの姿勢を要求するエルレイシアにハルは恥ずかしさで赤くなる。


「良いじゃないですか、誰もいませんし……今ここには私達だけですよ?」

「ううっ……」


 先日の族長からの要求が効いているのかいつもと違って強く意識してしまい、どうにも断り辛く、ハルは周囲に人影が無い事を念入りに確かめてからエルレイシアへと向き直った。


「はい、あ~ん」

「あ、あ~ん?」


 ぱくり


「美味しい……蜂蜜の風味がよく生きているなあ……」


 恥ずかしさで顔が赤くなるのが自分でも分かるが、それをお菓子の解説で誤魔化そうとするが、エルレイシアの攻撃はそれだけでは終わらない。


「うふふふ……ではこっちのお菓子もどうぞっ」

「あ、あのう……その」

「あ~ん、ですっ」


 ……ぱく


 1度やってしまって抵抗感が薄れてしまった事と、2度目を断る理由が思いつかなかったハルは目をつぶったままエルレイシアの要求に応じた。

 心底嬉しそうに微笑むエルレイシアの顔に見とれているハルの目の前に、すいっと同じお菓子が差し出された。


「うふっ、じゃあ、今度はハルが私にして下さいね」

「え……ええっ!?」

「はいどうぞ……あ~んっ」

「うう、は、恥ずかしい……」


 更なるエルレイシアの要求に抗しきれず、お菓子を優しく手渡されたハルは恐る恐るエルレイシアの口元へお菓子を差し出した。


 ……かぷり


「あ!?ちょっ!!」

「あんっ……どうして指を引くんですか?」


 指ごとお菓子を口に含もうとしたエルレイシアに驚いたハルが指を引くと、エルレイシアが拗ねたように抗議する。

 と、その時、太陽神殿の裏扉が勢い良く開かれた。


「ハル兄っ!なにしてるのっ!?」

「な、何だ楓じゃないか……ど、どうした?」

「何だ、どうした、じゃな~いっ!今変なことしてたでしょっ!?」

「し、してないぞぅ」

「そうです、変なことではありませんよ?」


 楓の剣幕にしどろもどろで答えるハル。

 それとは対照的に優雅な仕草で香草茶を喫しつつ平常に答えるエルレイシアへ楓が噛み付いた。


「……してたっ!」


 見えない火花を散らす2人に耐えきれなくなったハルが声をかける。

「楓……お前も一緒にどうだ?」

「とうぜんっ!ボクも良いもの持って来たんだっ」


 ハルの言葉に楓はころりと態度を変え、笑顔を見せながらそう言いつつ早くもハルの隣に椅子を持ってきて座った。


「あっ……ハル、酷いです。せっかく2人きりでしたのに……」

「ま、まあ、まあ……あの、また、夕食は一緒に」

「……お待ちしています」


 その様子を見たエルレイシアが少し悲しそうにこぼすと、ハルは何かを袋から取り出そうと悪戦苦闘している楓に聞こえないよう小声で埋め合わせを誓う。

 エルレイシアもそれで少し機嫌を直したのか笑顔を戻した。


「ハル兄!これこれっ!エティアさんから貰った果物のジャムだよ!」


 2人の遣り取りを余所に楓がそう言いながら取り出してハルへ示したのは、お茶へ入れるジャムが入った小さな壺。

 エティアはヘリオネルの妻でシレンティウムへ到着した際は身重だったが、今は無事子供も生まれ、今は子育てをしつつ元気にヘリオネルを助けて街区を束ねている。

 因みにこの子はシレンティウムで生まれた最初の子供で、太陽神殿でエルレイシアの生誕詩を送られてマリアと名付けられた。


「エティアさん、もう動いて良いのか?」

「うん、赤ちゃん見せて貰ってきたよ。すっごい可愛かったあ~女の子だったよ!」

「そうか、赤ちゃんかあ。」


 目を閉じ、うっとりした楓がジャムの入った壺を胸に抱きしめて言い、それに対して感慨深げにつぶやくハルを見るエルレイシアの視線に熱が籠る。

 そしてふと何かを感じたハルがエルレイシアの方を見た途端、ハルはその視線に絡め取られてしまった。

 しばらくしてその静寂に気付いた楓が怪訝そうに目を開くと、目の前でじっと見つめ合う2人の姿がある。


「だ、ダメッ!?」


 とっさに楓はジャムの壺を持ったまま慌てて2人の間に分け入った。







 午後過ぎの闘技場。



 今この場所はまだ寒さが残る季節にも関わらず強い熱気に包まれている。

 先程の甘い空気が嘘のような厳つく暑苦しい空間に身を置き、ハルは姿勢を正した。


「気を付けっ!辺境護民官殿に~敬礼っ!!」


 クイントゥスの厳めしい号令で壇上のハルへ兵士達が一斉に胸に手を当てる帝国式の敬礼を送る。 

 その光景にハルは少し面はゆいものを感じながらも何とか照れ笑いを堪え、声を張り上げた。


「この厳しい訓練こそが実戦に生きる!今日の訓練は明日の為に!」


おおおおおお!


「それでは、個人戦闘訓練を開始する。それぞれ2列に分かれっ……準備良いな?よし、訓練開始っ!」


 ハルの言葉に力強く応じた兵士達を満足そうに眺め、クイントゥスが訓練開始の号令をかけると兵士達は一斉に雄叫びをかけて走り出した。


ぬおおおおおおおお


激しく木剣を打ち合わせ、柳の枝で編んだ模擬盾をぶつけて戦う北方軍団兵。

 激しい戦闘訓練では時に流血する者や昏倒する者も出るが、そういった者は相手と救護担当者が素早く訓練場から連れ出して安全な場所で処置を施す。

 気合いが入っているためか再起不能な者は1人として出ず、負傷した者も一時休憩したのみで再び訓練に戻り木剣を振るい、盾を打ち合わせている。


「うん、随分上手くなってきたなあ……」

「はい、訓練のたまものです!」


 ハルが感心した口調で言うと、クイントゥスはまんざらでもなさそうな顔で答えた。





 帝国軍団兵、フリード戦士、オラン戦士、東照武士などと言った呼び名が既に存在していたが、オランやクリフォナムの諸族から集まり帝国風の訓練と装備で戦うシレンティウム兵は最近“北方軍団兵”と呼ばれている。

 大柄で膂力に優れ、かつ高い技術力で製作された帝国の武具を使用する彼ら北方軍団兵は次第に周辺地域から注目される存在となりつつあった。


 実際北方軍団兵はシレンティウム同盟を結ぶ際、ベルガンが率いてきたフリード戦士やアルペシオ族長が率いてきた勇猛なアルペシオ戦士との模擬戦闘に勝利している。

 また以前から周辺の盗賊や山賊掃討戦、魔獣退治にと八面六臂の活躍をしており、周囲や同盟部族にその存在感を見せつけてもいるのだ。

 その為地元出身者で構成されていることも相まって人気と勢威を高めており、今や北方軍団兵は辺境護民官ハル・アキルシウスの率いる最精鋭と目されているのである。


現在シレンティウムに入っている兵は

第21軍団 北方軍団兵5000名、補助騎兵2000名

第23軍団 北方軍団兵5000名、補助騎兵1000名、部族兵1000名

シレンティウム都市守備隊 帝国軍団兵1000名、北方軍団兵1000名、部族兵1000名

特殊工兵隊 帝国兵1000名

の合計18000名である。


 ハルが指揮権を直接行使できる軍兵は他にアダマンティウス指揮下の

第22軍団 帝国軍団兵5000名、補助騎兵500名、補助弓兵1500名

メリディエト都市守備兵 帝国軍団兵500名、補助弓兵500名

の合計8000名が居る。  


 そして今やシレンティウム自体の人口も5万人を超え、フレーディアを抜いて名実ともに北方辺境最大最強の都市へと成長を遂げた。

 同盟部族の戦士たちを加えれば優に5万以上の軍を持つことになったハルは、西方の小国家をしのぐ力を既に手に入れているのである。

 

 その辺境護民官であるハルは訓練開始からしばらくしてそわそわし始めた。

 最後は訓練に熱中して誰もこちらを見ていないのを良いことに、そそくさと壇上から降りてしまう。


そして……


「クイントゥス、一戦どうかな?」

「はあ、私で良ければお相手致しますが……」

「どうにも人の訓練を見ていると身体がうずいてしょうがないんだ」


 訓練風景を熱心に見ていた所へ突然話しかけられ、驚いて答えるクイントゥスにハルはそう言葉を継ぐといたずらっぽく笑った。


「はは……そうですか、ではどうぞ」

「よし、じゃあやろう!」


 予備の木剣と模擬盾を受け取り、ハルはそれを笑顔で手渡したクイントゥスと共に訓練の列の端へ並ぶと、一礼を交わした後に周囲の訓練に負けぬ勢いで激しく打ち合いを始めるのだった。

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