第9話 人外生物平定戦
水路開削が順調に進むシレンティウムであったが、1つ問題が生じていた。
「巨大な……亀の魔物?」
報告を受けたハルが怪訝な表情で問い返すと、当の報告を持ってきた本人であるクイントゥスが顔を顰めて答える。
「はい、北の台地から流れる小川の1つを堰き止める堰堤を建造しようとした所、突如亀の魔物が地中から現れて堰を破壊し、作業に従事していた族民の労働者や農民、警備の兵士達をなぎ倒してしまいました」
「早い段階で現場責任者が撤退の指令を出したので幸い死人こそでませんでしたが、居座ってしまったこの魔物のお陰で作業が滞っておりますな」
続いてシッティウスが資料を繰りながら説明を補足した。
「何でそんなものが……?」
「おそらく太古からこの地に眠っていた魔物でしょう。今まで人の活動が無かった場所でしたから、封じられる事も退治される事も無く生き存えてきたのだと思います」
シッティウスから報告書を受け取って一読したハルが絶句していると、エルレイシアが言葉を発した。
南西の湿地帯に巣喰う水生魔獣の対処にも頭を悩ませていた所へ、兵士の攻撃すら撥ね除けてしまうような巨大亀の魔物が現れたのである。
ハルはため息をつきつつベリウスに質した。
「軍は派遣しましたか?」
「現場の警備兵達も交戦したし、その後一度、私が指揮して守備隊50名で攻めたが効果無しだ。甲羅が固いのか瘴気が強いのか分からんが、武器の刃が通らない。酷い物になると溶け落ちている」
「おまけに北の台地の急斜面に居座っているので、弩砲や機械弓が持ち込めないのです」
ベリウスに続いてクイントゥスが言葉を発した。
『ハルヨシよ、アクエリウスに聞いてきたが、あの化け亀は知らんということである。故に少なくとも齢百年以上の大物中の大物である』
再びため息を吐いたハルの背後にじんわりと陰が浮き出るように現れたアルトリウスが声を掛けた。
「先任、それって……」
『うむ、寿命の長い魔物となれば生半可な手段では排除出来んから、ちと厄介であるな。然りとて北の水源はシレンティウムに欠かせぬものであるから、放置するわけにもいかんのであるが……』
「私がいますから」
アルトリウスから意味ありげな視線を向けられたエルレイシアが微笑んで応じると、アルトリウスはにんまりと笑みを返し、ハルに向き直って言葉を継ぐ。
『と、言うことである。新任大神官殿であれば身体も頑健であろうから進退に問題あるまい。頼みになる護衛もおるしな』
「はいっ、ハル、守って下さいね」
ハルが何か答える前に、エルレイシアは花が咲いたような可憐な笑みでじっと見つめながら言った。
「う~ん、この場合先任の方が……」
『むろん我も同行するが、そうでは無いだろう?』
「いやあ……あっ?」
ハルが渋っていると、エルレイシアは皆が驚く程の勢いでその肩を掴んで自分の方へ引き寄せ、ぐいっと顔を近づけてから今度は笑顔に怒気を込めた表情で言う。
「守って下さいね!」
「わ、分かりました」
北の台地、東側斜面
「あそこだ、アキルシウス殿」
ベリウスが示す先を見れば、巨大な黒灰色の岩と見紛うべき巨大な亀の甲羅がハルの視界に入ってきた。
よく見れば周囲に黒いような紫のような、禍々しき煙状の瘴気を纏っており、この巨大亀が魔物である事を如実に示している。
「おっきいですね」
「ええ、これはまた……何と言う」
『うむ、如何にも魔物と呼ぶに相応しい威容であるな』
神官用の長衣の上に、帝国製の鎧兜を身に着けたお馴染みの格好のエルレイシアが小さな声で言うと、同じく完全武装のハルが小さな声で応じ、更にアルトリウスが言った。
その巨大亀の想像以上の巨大さに圧倒され、この場にいる全員緊張に顔を強ばらせている。
「部隊、攻城亀甲隊形作れっ」
「投げ槍準備っ」
後方に続いていたシレンティウム守備隊の兵士80名に亀甲隊形を作らせるベリウスと、攻撃準備の指示を出すクイントゥス。
斜面である為若干歪ではあるが、兵士達は訓練通りに盾壁を築く。
そして大弓を抱えたまま先行して巨大亀を偵察していたハルは、アルトリウスとエルレイシアを引き連れ、兵士達の陣形の中へと入った。
「……エルレイシア、お願い出来るかな」
「はい」
ハルの言葉に嬉しそうに頷くと、エルレイシアはゆっくり大神官杖を捧げ持ち、低い声で祝詞を唱える。
「……太陽神の遍く照らす大地に逆らいし存在の、その瘴気と悪気を失わしめ賜え、浄化術!」
エルレイシアの祝詞が終わると同時に、周囲の陽光が強さを増して巨大亀に降り注ぐ。
異変を感じた巨大亀がのそのそと動き出すが、既にその時には瘴気が失われていた。
『今である!』
「射撃開始!」
アルトリウスの言葉にすかさず反応したクイントゥスが命じ、兵士達が一斉に投げ槍を投じる。
普段の装備である手投げ矢で無く、今回投げ槍を装備しているのは威力を鑑みてのことである。
鋭い風切り音と共に飛翔した投げ槍が、方向転換中の巨大亀に次々と炸裂し、がががっと固い音を周囲に響かせた。
「くっそ!ダメか?」
ベリウスが舌打ちしながら言った通り、それ以前は全く体に達しなかった投げ槍は確かに亀の身体や甲羅を撃つことが出来た。
しかしそれでも固い甲羅は僅かに傷付くのみで、巨大亀自身にダメージは無い。
手足に数本の投げ槍が刺さったが、それも意に介していないようだ。
そしてようやく方向変換を終えた巨大亀がその口腔から真っ黒な煙を吐き出す。
『むう!いかんっ、エルレイシア!』
「はいっ、悪しき空気を祓い、良き空気こそ満たし賜え、洗空術っ」
アルトリウスが咄嗟に叫ぶとエルレイシアは落ち着いて洗空術を使用した。
光る壁が部隊に迫る巨大亀の吐いた毒の息を遮断する。
次いで巨大亀はそのまま開いていた口から石玉を放った。
「ぐわっ?」
「おごっ!」
石玉の炸裂した場所で大盾を構えていた兵士が吹き飛ばされ、石玉が土塊を巻き込んで斜面を転がり落ちる。
「くそ!」
「大丈夫か?」
別の兵士が負傷した数名の兵士を後方へ引き摺り出し、出来た盾壁の穴を埋める。
「ぬがあっ!」
「うげ?」
しかし再度飛来した石玉がまたも数名の兵士を大盾ごと吹き飛ばした。
「ちい、でかすぎる!」
ベリウスが負傷兵の応急処置を命じながら忌々しげに巨大亀を見ると、その強大な魔物はゆっくりとハル達の居る場所へと近づいてきている。
石玉が体に見合った大きさで、他の魔物達が使う物よりも威力が高いようだ。
「微後退!」
「アキルシウス殿?ここで後退してしまっては……」
驚くベリウスにハルは真剣な表情のまま頷いて言葉を継ぐ。
「大丈夫です、態勢を整えるだけですから」
『部隊長、ハルヨシの言う通りにせよ』
「お願いします」
アルトリウスとエルレイシアが言葉を添えたことで、ベリウスも反対出来ずに頷いた。
「分かりました……部隊、微後退!」
負傷兵を伴い、微後退して態勢を整えた部隊の後方から、ハルは大弓を引き絞った。
がつんと強力な機械音に近い発射音を響かせ、ハルの大弓から黒矢羽根の矢が放たれる。
一直線に飛んだ矢は、今正に石玉を放とうとしていた巨大亀の口へと飛び込んだ。
ぐええっ?
さすがに口腔への攻撃はきいたようで、巨大亀が呻き声を上げた。
「……天地に渡る神子の雷、神々の怒りを不浄なるもの達へと降し賜え、雷撃!」
どんと腹に響く音を立ててエルレイシアの放った雷撃が巨大亀の甲羅に落ち、その動きを止める。
『どれ……ふんっ』
次いでどす黒い煙を吹き出させたアルトリウスが亀の前足に触れ、その巨大な足を砂に変えた。
がくりと移動速度を落した巨大亀はそれでも残った脚で足掻くが、その巨体は十分に動かない。
ぐえええ
「よっし……と」
苦しそうな呻き声を上げている巨大亀にハルの黒矢羽根の矢が鋭い風切り音を立てて飛来し、その口と両目を相次いで射貫いた。
「今だ!突撃!」
うおう!
ベリウスの命令でようやく出番の来た兵士達が一斉に突撃し、巨大亀の首や手足の穴から槍を突き込んだ。
60人余りの兵士達からよってたかって力一杯短槍を突き込まれ、血を噴き上げる巨大亀はとうとう堪らず手足を甲羅の中へ仕舞い込む。
しかし既に右足を奪われた部分は弱点となって残っており、兵士達が次々に槍を差し込んだ。
最後に逃走を図り、体を持ち上げかけた巨大亀は、断末魔の叫び声を上げて力尽きる。
どっと斜面に甲羅を纏った巨体を落とし、がくりと残った手足と首をだらしなく地に放り出し、巨大亀はとうとう息絶えた。
部隊の兵士達から歓声が上がる。
「やれやれ……とんでもない化け物でしたね」
『うむ、古代の生き残りであるな。かつて竜や鳳と共に生きた物であろう。最早この様な連中は生き残っておらんと思っていたのであるが、いやはや……』
大弓を背負ったハルとアルトリウスが感心しきりに巨大亀を見分していると、エルレイシアがやって来た。
「お疲れ様でした」
『うむ、今日の殊勲はエルレイシア、そなたこそ相応しい。見事な術であった』
ハルとアルトリウスから労いの声を掛けられて嬉しそうに微笑んだエルレイシア。
彼女が巨大亀の瘴気を祓わなければ、ハルの矢も兵士達の槍も通らず、アルトリウスと雖もその巨体に触れることは出来なかっただろう。
「いえ、太陽神様のお力を少しお借りしただけです。私の力ではありません」
『謙遜せずとも良いのである。実に見事であった』
エルレイシアに再度労いの言葉をかけるアルトリウス。
ハルも大弓の弦を外しながら笑顔をエルレイシアに向ける。
「お疲れ様でした」
「……ハルも格好良かったですよっ」
「そうですか?」
「はい」
エルレイシアの言葉に照れたように応じてから弓弦をしまう為に背を向けたハル。
それを見たエルレイシアの目が光った。
「今ですっ」
「うわ?」
いきなり駆け込みざまにハルの背中に飛び付いたエルレイシア。
エルレイシアの鎧とハルの鎧がぶつかり、がちんと鉄同士のぶつかる金属音が響く。
「うふふ~ハル~カッコイイですうっ」
「うわあ?」
驚いて立ち上がったハルの背中にそのままぶら下がるエルレイシア。
巨大亀をどう始末しようかと話し合っていたクイントゥスとベリウス、そして縄をかけたりころを準備したりといった作業を行っていた兵士達がその騒ぎで振り返った。
そしてハルの背中にかじりついているエルレイシアを見て微妙な笑みを浮かべる。
「ちょ、ちょっとっ!放して下さいっ……うっげほ、く、首がっ?」
「嫌です~」
『やれやれ、全く緊張感という物が無いのであるか……』
じゃれ合っている2人を見て、さすがのアルトリウスも愚痴をこぼすのだった。
更に数日後、シレンティウム南西湿地
シレンティウム市南門前に、帝国装備に身を固めた大柄な兵士達1000名が寸分の狂い無く整列し、ハルの到着を待っていた。
帝国風の鎧兜に身を固めてはいるが兜からもれる髪の色は金色や銀色がほとんどで、その兵士達の体格と相まってクリフォナムやオラン出身の者達である事が一目瞭然である。
そしてしばらくした後、クイントゥスを従えたハルが兵士達の前の立った。
引き締まった顔付きの兵士達を見回しハルが徐に口を開く。
「今日は実戦だ!慌てず油断せずそして上官の指揮を違えず、戦友と名誉を守れ!」
おおう!!
力強い答えが返り、それを聞いたハルが満足そうな笑みを浮かべて傍らのクイントゥスを見ると、何か言いたげな視線を向けられる。
「どうかしたか?」
「今日は神官様は連れて行かないのですか?」
「今回そんな強力な敵は居ない事が分かっているから大丈夫だ。それに……」
「それに?」
「ウカウカしていると背後を襲われるかも知れないだろう?」
ハルの言葉にクイントゥスが吹き出した。
「あのような襲撃でしたら大歓迎では?」
「……無駄話をしている暇は無い」
形勢不利とみたハルがそう言うと、クイントゥスは笑みを漏らしながら頷く。
「了解」
そして表情を一変させると兵士達へ気合いの入った号令をかけた。
「第21軍団前進!目標南西湿地帯敵性魔獣掃討!」
因みにクイントゥスの剣帯にはティオリアから贈られた真新しい結符が付けられていることは言うまでも無い。
連日の排水作業で順調に水量を減らす湿地であったが、その一方で追い詰められた水生魔獣の攻撃が活発化していた。
それまでは減る一方の水にすがるような形で湿地の中央部へと追いやられていた魔獣たちであったが、ついにその原因に気が付いたのか堰や水路への攻撃が始まったのである。
シレンティウム行政府は度重なる設備の破損や作業員への攻撃に対し、湿地に巣喰った魔獣の一掃を計画して水生の魔獣の力が弱まる晴天の日を選んで計画を実行へと移したのであった。
しばらく前進した後、湿地帯の乾燥土壌を慎重に選んで前進する第21軍団。
干し上げられているとは言え元が水を大量に含んでいる軟弱な土壌である為に、堅さや加重の度合いによっては重装備の兵士達の臑あたりまで埋まってしまうこともある。
それを確かめつつ漸進する他無く、兵士達の進撃は快調とは言い難い。
それでも重装備に身を固めた兵士達は音を上げること無く進んでいると、程なく目的の魔獣達の集まる湿地帯最後の水場が見えてきた。
魔獣達は早くも重装備の兵士達を見て興奮し始め、届かない水弾や泥玉をちらほら放ち始めている。
「良いか、訓練通りやるんだ!」
今日ハルが連れてきたのは5000名で構成される第21軍団の兵士達の内、特に戦法の習熟と敢闘精神に優れた精鋭1000名。
ハルは各部族からシレンティウム籠城戦の際に送られた志願兵を各部族と交渉してシレンティウムの兵士として採用した。
ハルがフリードの英雄王を一騎討ちで倒す場面を目の当たりにした彼らに否やは無く、ハルは彼ら基に、第21軍団を再建したのである。
未だ新設の第23軍団は兵士集めも完了していないが、ハル・アキルシウスの盛名を聞付けクリフォナムやオランの自由戦士達が各地から単身、あるいは家族連れで続々と集まってきており、程なく構成は終了するだろう。
各軍団に付属する補助部隊の騎兵隊や槍兵隊、剣士隊の募集も順調で、春が終わる頃にはシレンティウムの基礎戦力は編制が終了する見込みである。
「大楯構え!漸進開始!」
その帝国の装備に身を固め、更には帝国風の戦法を訓練してその技術や戦術を会得したクリフォナム人のかつての戦士達はハルが下した命令に従い、じりじりと足場の悪い湿地帯を進む。
魔獣達の射程に入ったことから次々に水弾や泥玉が飛来し始めた。
時折石の混じった固い泥玉や威力の強い水弾が大楯に当たり、ぐわんと大きな音を発してその兵士を盾ごとぐらつかせるが、周囲や後方の兵士に身体を支えられて威力に耐え、そのまま大楯を自身の前にかざしつつ水弾や泥玉を防ぎながら確実に一歩一歩前進する。
「停止!弩兵用意!……発射!!」
ハルの指揮でぴたりと前進を止めた兵士達。
そしてその直後、最前列の兵士達は大楯を僅かに開く。
その隙間から弩兵が筒先を突き出して一斉に短矢を放った。
鋭い風切り音と共に短矢が次々と魔獣へと炸裂する。
気味の悪いうなり声や吠え声に断末魔の悲鳴を残し、青い体液をまき散らして倒れる魔獣達。
「盾閉じろ!装填!……よし、第2射用意っ……発射!」
ハルの矢継ぎ早の命令で盾が閉じられ、素早く装填を終えた弩兵が再度開かれた盾の隙間から短矢を発射して容赦なく魔獣達を打ち倒す。
第21軍団はそのままの位置で数回一斉射撃を繰り返して魔獣達を次々に打ち倒した。
遂に連続した攻撃に堪りかねた水生魔獣達が乾燥土壌の上へと上がり始める。
直接の攻撃に切り替えるつもりだろう。
「来るぞ、投矢準備!」
帝国製の投矢を盾から外す兵士達。
帝国兵は基本装備として2本の投槍を持っているが、ハルはそれより軽くで数多く装備できる投矢を基本装備とした。
投矢は投槍の半分程の長さであるが錘が付けられており、必ず穂先が進行方向を向くよう調整されているため使用法にも汎用性がある為である。
「放て!」
次々と投矢が放たれ、水生魔獣に降り注いだ。
湿地や泥地、水中では動きの速い水生魔獣達も、陸に上がればずりずりと無様に這いずる蛇やナメクジ、貝や魚のお化けに過ぎず、兵士へ近づく前に次々に撃ち倒される。
軟性で弾力ある皮膚も垂直に刃先が立てば意味をなさず、山形に撃ち込まれる投矢を背中や頭へ次々と受け、水生魔獣達は生臭い青色の血と息を吹き上げながら事切れていった。
「射撃止め!」
しばらくした後、ハルが中止命令を下した時に動くものはなく、水生魔獣達はほぼ壊滅となるが、第21軍団に損害は皆無であった。
「油断するな!生き残りが居るぞ!右方向!」
接近戦を挑む間もなく壊滅した水生魔獣の群れに、油断無く目を走らせるクイントゥスが、目敏く生き残りを見つけては命令を下して弩で仕留めてゆく。
「敵性魔獣壊滅確認!」
数刻後には水の中にいた魔獣達も仕留められ、クイントゥスが兵士整列後にハルへ作戦終了報告を行い、湿地帯の魔獣退治は成功裡に終わったのだった。
「……これでこの土地も耕起が可能になりましたね」
「ああ、また土地が増えたからたくさんの人を受け入れることが出来るようになった」
魔獣の死体を1カ所に集めて油をかけ、燃やしている配下の兵士達を見ながらハルはクイントゥスの言葉に応える。
「そうですね、最近は特に移住者が爆発的に増えていますからね」
クイントゥスが言うようにシレンティウムの人口はここ最近で爆発的に増え、軍人や官吏も含め既に人口は4万人を超えている。
しかし今日の作戦で南西に広がる広大な湿地帯に巣喰う魔獣は一掃され、その土地が耕作可能地となった。
これで更なる人の受け入れと開発が出来るようになったということである。
シレンティウムへの移住者は様々で、帝国からは退役兵とその家族だけで無く、一廉の技術を持った工人や職人達とその家族や弟子達が新天地を求めて多数移住してきている。
その一方、帝国内で働いていたオラン人やクリフォナム人の兵士や職人達、また帝国内で技術を学んでいた族民が引き続きシレンティウムへと集まってきてもいる。
翻って北方辺境各地からはハルを新たな英雄と認めて指揮下に入りたいという自由戦士とその家族に加え、土地を相続できないクリフォナム人の子弟達が土地と家を求めてやって来ているのだ。
最近はわざわざ募集をせずともやってくる者達が多くおり、ドレシネスは戸籍作りに追われているという。
「よし、帰還する!整列!」
作戦終了、第21軍団はハルの号令で整列を始めた。