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辺境護民官ハル・アキルシウス(改訂版)  作者: あかつき
第1章 廃棄都市復興
20/88

第20話 籠城戦前夜

 シレンティウム開拓民専用居留区、深夜


 明かりは無いが満月が地を照らし、闇に慣れた目であれば十分物を見ることが出来る夜。

 掘っ立て小屋に泥土で汚れた男達が集まりなにやらひそひそ話をしていた。


「城壁は大分高くなっているが……狙撃できる地点は多く無さそうだ」

「志願兵や義勇兵に紛れ込むにしても戸籍を一々作ってやがるから、難しいんだ」

「いっそシレンティウムの市民として戸籍登録してから義勇兵に参加してはどうだ?」

「だめだ、シレンティウムの友好部族の推薦が無いと戸籍が貰えない。俺らが帝国人を装うには容貌から無理があるしな……」

「毒も無理だ、直ぐにばれっちまう……何にしても水が良すぎるんだ」   


 フリード族の間諜達は開拓民の募集に紛れ込んでシレンティウムのあちこちへ潜入していたが、いよいよ攻撃が始まるという段階になり一旦集まって策の確認を行うことにしたのである。


「帝国製の弩は用意できた、これで狙撃は可能になった。策は狙撃でいく、良いな?」


 1人が言うと他の全員が闇の中で目だけを光らせてこくりと頷いた。


「そこまでだ!!シレンティウム行政府だっ!!」


 掘っ立て小屋の扉が帝国兵に蹴破られ、ルキウスが指向灯で部屋の中を照らし出した。

 その直前にルキウスの顔を見た間諜の1人が叫ぶ。


「な、なぜここがっ!!?くそっ、アエティウス治安官だっ!」


 いきなり光を当てられて一瞬目がくらんだ間諜達であったが、相手がシレンティウムの治安を預かる曲者治安官であることを知り抵抗を試みず即座に脱出をはかる。

 しかし周囲を既に帝国兵に取り囲まれ、逃げ道を塞がれた間諜達は儚い抵抗の末に全員が捕らえられた。

 数名は激しく抵抗したので帝国兵が剣で突き殺してしまったが、首尾は上々であろう。

 間諜達を縛り上げて行政府へ連行した後ルキウスが掘っ立て小屋の中を改めると、弩が20挺、毒の入った瓶、毒を塗ったナイフ数本、それに剣や投げ槍などの武器が用意されていた。

 そして奥の方には籠に入れられた伝書鳥が8羽。

 指示と思しき木の葉の手紙も数枚ある。


「うっし、これで任務終了だな!」


 ルキウスは掘っ立て小屋の中に散乱していた物品全てを持参した木箱に入れさせ、自分は鳥籠と木の葉の手紙を大事そうに持って行政府へと引き上げた。





 同時刻、シレンティウム北城門


 城門の閂付近でなにやらうごめく陰がある。

 その陰はやがて大きな木槌を取り出した。


『この様な夜更けに何をしているのか?死霊の出歩く深夜ぞ?』

「うっ!?くそっ、何故見つかった?」


 アルトリウスの声に木槌を振り上げようとしていた男がうめいた。


『答える必要は認めんなあ……』

「ううっ……くそう!」

『その大槌を捨てて悔い改めるというのであれば措置を考えてやらんでも無いぞ?』


 ニヤニヤしながらアルトリウスがすいっと近づくと、男達はじりじりと後ずさった。


「ぐっ……うわああっ!!」

『ふん、馬鹿め!』


 破れかぶれになって木槌を閂金具へ振り下ろそうとした男へアルトリウスは一瞬で間合いを詰めると右手で軽く触れ、更に金槌を叩き付けようとしていた男を左手で触る。

 そして最後に斧を閂に叩き付けようとした男を両手で触った。

 ゆらりと揺れた後、アルトリウスに触れられた男達は次々に昏倒し地に倒れ伏す。


『かっ……やはり不味いであるな。アルフォードの所も人材不足であるか……』


 心底不味そうな物を口にした顔でアルトリウスはぼやき、待機していた戦士達を呼び寄せて後始末をまかせると、その場を後にした。




 同時刻、シレンティウム北東城壁


「よし、ここに紐を仕込め……そうだ、これでこれ以上石を積んでもこの紐を引けば、この高さから崩れ落ちる……紐は上手く泥で隠すんだ。早くしろ!!」


 1人の指示で複数の男達が城壁に取り付き、石の間に詰められたセメントを削って太い紐を仕込もうとしていた。


「それは困りますので、取り除いて頂けますか?」

「……困るどころの話じゃないでしょう」


 女の言葉に男が呆れたような声を出す。 

 突如現れた男女に男達の緊張が頂点に達するが、2人だけである事を見て取った指揮者が冷静に指示を出した。


「はっ……何だ?2人だけか……びびらせやがって、おい、やっちまえ」


 面倒だがこいつらを始末した後で別の場所に仕掛けを再度仕込めば良い。

指揮者の命令を受け、無言で懐から短刀を抜いて構える男達。


「月の神よ……害意を持つ者の力を失わしめ賜え……」


 女が杖を前に出し静かな声でそう唱えると、ふわっとした空気が周囲に満ち、次の瞬間指揮者を除いて全員が短刀を取り落とす。

 そして男達は更にガクガクと震えながら地面へと崩れ落ちる。


「くっ!何っ?」


 指揮者が倒れる部下を目の当たりにし慌てて剣を抜いて女に斬りかかったが、前に出た男に振り下ろそうとした手の肘を拳で叩かれて剣を宙に飛ばされた。

次の瞬間腹に男の膝が突き刺さり、指揮者は空気を全て吐き出さされて気を失う。


「……危ない危ない」


 飛んだ指揮者の剣を空中で受け止め、崩れ落ちる指揮者を横目に男はそう言って安堵のため息をついた。

 そして女がその背にそっと寄り添って言う。


「ああん、ハル怖かったです……助けてくれて有り難うございます」

「今……ワザと隙を作ったでしょう?」


 ハルはエルレイシアの言葉に呆れてそう言い、むーどないです、とすねるエルレイシアを促しながら、気絶した間諜達を縛り上げて搬送の兵が来るのを待った。





 翌日、シレンティウム行政府執務室


「……という訳でアルトリウス先任軍団長のご協力の下、フリード族の間諜は一網打尽にしました」

『うむ、我が都市のことである、当然であるな!』


 シレンティウムの主立った者が集まった席で為されたルキウスの報告に胸を張るアルトリウス。

 昨日の一斉摘発を逃れ得た間諜は1人もおらず、籠城準備でこれから出入りを厳しく制限する為、シレンティウムとフリードの人を介しての繋ぎはほぼ不可能になる。

 間諜達はその為に伝書鳥を複数持ち込んでいたが、それもこちらで無事確保が出来た。

 後はフリード軍が戦を開始するまで、フリード側の策が順調である事を偽装し続けられれば良い。

 アルフォード王の動き以前は一切シレンティウムにいなかったフリード族の者達が多くなっていたので、ルキウスはヘリオネルとレイシンクに依頼して目端の利いた者をそれとなく監視に付けていた。


 またフリード族は元来戦士の部族でこの様な間者働きに向いているとは言えず、随所で不審な動きをしているフリード族の者がいるとの通報が市民から寄せられてもおり、ルキウスはそのアジトについてはかなり正確に把握していたのである。

しかし今回の作戦はその性質上失敗は許されないことから、念のためにアルトリウスの索敵能力を加えた上で昨晩の一斉摘発の大成功につなげたのだ。


「間諜を取り調べた結果なんだが、策は狙撃に決定しかかっていたみたいだ。狙撃場所もいくつか聞き出せたし、アジトに帝国製の最新式弩が準備されていた。因みに王に流れ矢が当たっても不問にされることになっていたらしいぜ~」

「……ということは、アルフォード王の臣下ではありませんな。やはり王子か……」


 ルキウスの報告にアルキアンドが不快そうにつぶやいた。

あわよくば王を撃って帝国が卑劣な手を使ったと言うことを宣伝する為、わざわざ帝国製の弩を用意したのだろう。

 ルキウスはアルキアンドの言を肯定しながら言葉を継ぐ。


「ああ、王子のダンフォードとか言う奴の臣下らしいぜ。全く……ひでえ子供だ」

「……あの馬鹿王子か」


 アルマール族への貢納徴収に最も熱心だったフリード族の王子だ、アルキアンドの不快な顔が更に嫌悪へと変わる。


『アルフォードの主導では無くなっているのか……宮宰は何をしている?』

「宮宰ベルガン殿はむしろ戦いを避けたがっていると思います。元々帝国そのものはともかくとして、制度や技術の導入にやぶさかではありませんでしたからな」


 間諜が王子の臣下と聞いてアルトリウスが尋ねると、アルキアンドがそう答える。

 さらにアルキアンドは、王子達の人望の無さやフリード族の個人主義的な特性について説明を加えた。

 シレンティウム攻めの発案と発動はアルフォード王が行ったかもしれないが、それ以後の取り仕切りは明らかに王子達の手によるものである。

 未だ戦いのカナメはアルフォード王にあることは変わらないが、シレンティウムの敵は王子達に定まりつつあった。



「しかし、よくそんな簡単に聞き出せたなあ……どうやったんだ?」


 感心するハルにルキウスはにたっと笑みを浮かべる。


「酒飲ませてやったんだ。みんな酔っ払うと良くしゃべったぜ?」

「おいおい……地下牢で酒盛りかよ?」

「まあまあ堅いことは言うなよハル。相手は間諜なんだ、尋常の取り調べじゃ口を割らないし、かといって拷問じゃあ心証も効率も悪いからな。ちょいと酒おごってやったんだ。牢番には悪かったが、牢から出しちゃいないし大丈夫だよ、問題無い」


 クリフォナム人最大の悪癖の一つ、大の酒好きという弱点を突いた手法に呆れるハルへルキウスはニヤニヤしながら言葉を付け足した。

 確かに良いか悪いかはともかくとして効率的であることは間違いない。


「今も牢内でクダ巻いてる奴が一杯いるぜ~わはは」

「わははじゃないだろ」


 ルキウスの言葉に顔をしかめるハル。

 牢番の兵士達が負わされる苦労を思うと、帝都で酔っ払いの対処に四苦八苦した経験のあるハルは少しいたたまれない気持ちになったが、とにかく相手とその出方が分かったのは大きい。

 手法としては穏便であるし間諜達も酔っ払ってしまっているのであれば、むやみに逃走を図ることも無いだろう。

 ただ、ルキウスの報告で懸念材料が一つあった。


「しかし、帝国製の弩か……」

『うぬ、確かに入手経路が心配であるな』


 ハルが手を腕を組んで難しそうな顔をすると、アルトリウスが言葉を発した。


「性能の良い西方帝国製の弩で成功率を上げる為と考えれば自然ですが、これを入手するとなるとなかなか難しいと思うんですよね……」

『確かにな、で、ルキウスよ、その辺はどうであるか?』


 ハルの懸念については尤もであることから、アルトリウスがルキウスに情報の有無を尋ねるが、ルキウスは肩をすくめて答える。


「それについてはあんまり良い情報は無かったな。帝国の商人から買い付けたというんだが、実のところ武器を商う帝国商人はこの辺まで来ちゃいない」


 シレンティウムを訪れる西方帝国の商人は生活雑貨を主に取り扱う行商人ばかりで、武器防具を扱うような大きな商人は関所を越えて北方辺境へは入ってきていないのである。

 個別に頼めば用意はするだろうが、それでも20挺の最新式弩。

 一般的な行商人が直ぐ用意できるような代物では無い。


「何者かの支援を受けたと言うことかな?」

『そう考えるのが妥当であろう……何、後にも敵は居るということを忘れさえしなければ良いのだ。今どうこうできる問題では無いのであるし、それを使う間諜は既に抑えてある故に差し当たっては心配あるまい』


 ハルの懸念を含んだ疑問を払拭するようにアルトリウスが言った。

確保された間諜は30名。

 ずさんな作戦の割には大人数であり、王子が曲がりなりにも本気で策を練っていたことをうかがわせる。

 確保された木の葉の手紙には王命である事が記さされてはいたものの、間諜に出す指示にわざわざ発出先を書かねばならないというのが既にお粗末である。

 恐らく王命と称し王子達が指示を出しているのだろう。


「それで、伝書鳥なんだが……とりあえずハルの指示通り、策は狙撃、狙撃手は20名って入れて飛ばしといたぜ」


 ルキウスが最後にそう報告すると一同は策の仕上げが終わったことを実感した。





フリード軍、アルフォード王本営



 張られた豪奢な天幕の中で若い男の怒声が響く。


「食料の確保が出来ないって……どういう事だ!」

「南部諸族はこぞって余剰食糧をシレンティウムへ売却してしまったそうです。物自体が無いので供出できないと……」


 冷静な男の声が窘めるような響きをもって答えると、更に激高した様子で若い男の怒声が響いた。


「な、何!?裏切りか!?」


 天幕の中では上座に位置する若い金髪の男が、中年の物静かな雰囲気を持った男を苦々しく睨み付けていた。

 しかし中年の男、宮宰ベルガンは若い男、ダンフォード王子のとげとげしい視線に動じた様子も無く淡々と言葉を返す。


「いえ、そうではありません。開拓民を養う為に既に買い付けを終えていたようで、アルフォード王が兵を発する以前の日付で契約書が残されています」

「くっ……くそ!!族民の分の食料はあるんだろう!?無理にでも供出させろ!!」

「それは下手をすれば武力を伴うことになりますが宜しいのですか?南部諸族を敵に回すことになりますぞ?」


 ついに発せられた無理な要求にため息をつかんばかりの様子でベルガンがはっきりと窘めたが、王子は窘められたことにすら気付いていない様子で言葉を継ぐ。


「ああ?それもやむを得んだろう?戦いに食料は必要だ!とにかく何でも良いから出させろ、それが駄目なら徴発するんだ!」

「……分かりました、今一度各村邑に働きかけを致しましょう」

「手ぬるい!良いから村一つ焼き払って我々の本気を知らしめろ!そうすれば他の村は食料を供出する!」


 妥協案を示したにもかかわらず納得しない王子に、ベルガンははっきりため息をついた。


「王子、そのような事をすればクリフォナムの結束が揺るいでしまいますぞ」

「おい貴様……王命に逆らうのか?いいからやれっ!南部諸族など気にするな!」

「……」


 人差し指を突き出して出口を示したダンフォードに呆れたベルガンは、ダンフォードの背後を見遣り、黙って一礼を残して立ち去る。

 天幕から出るベルガンの背中を憎々しげに見送ったダンフォードは、その宮宰が見た自分の後方で居眠りをする父王アルフォードを振り返った。

 黒い箱と大剣を手放さず器用に船を漕ぐアルフォードを苛立った様子で見た後、ダンフォードはうろうろと天幕の中を行き来する。


 シレンティウムへ大量に潜り込ませた間諜から、工作活動が順調であるという内容の知らせが既に届いている。

 また別の間諜からは王諸共弩での狙撃が可能になったとの知らせも来た。

 西方帝国の協力者との連携も成功したようで、どうやらシレンティウムでは予想以上に事が上手く運んでいるようである。

 最後にエルレイシアから誇りに殉じるという内容の言づても届いた。

 しかし自分が率いる軍には食糧不足という大きな不都合が生じ、宮宰は口やかましくて自分の言うことを聞かない。


「くそ、戦士は十分集まったというのに……どうして上手くいかない!策も上手くいっているはずなのに!」


 ダンフォードは叫ぶと同時に立てられていた燭台を蹴り倒した。

 派手な音を立てて転がる燭台。

 その近くには鎧を身に纏った神妙な顔のシャルローテとデルンフォードの姿もある。

 しかしアルフォード王は騒音を気にもせず眠り続け、その姿にダンフォードはより一層苛々を募らせた。


「くそっ、何故だっ!」


 苛立ちを隠そうともせず戸惑う弟妹を余所に、ダンフォードは頭をかきむしって叫ぶのだった。




 軍を催すにあたりダンフォードは王直卒の軍であること、自分達がその軍を直接指揮することを名目にして、アルフォード王の身柄を宮廷官や宮宰から切り離すことに成功した。

 久々の戦いということもあり、この時期においては破格とも言える7000名余りの戦士が集まり、フレーディア城は戦争直前の活気に湧いた。

 他部族についてはベルガンが強硬に反対意見を述べたことから招集は諦めたが、それでもまともな防備も戦力も無いシレンティウムを攻めるには十分な数である。


 直ちに進軍を開始したが直ぐに問題は発覚する。

 戦士達はクリフォナムの伝統に従い3日分の携帯食料を持参しているが、それ以降の食料は戦士長や王が用意する。

 おおむね現地調達という名の略奪によって確保されるが、今回はクリフォナム人の住まう地域においての戦いでありむやみに略奪をすることも出来ず、結果ベルガンにより進軍先の部族や村邑に食料の用意を求めたのだが、これがはかばかしくない。


 理由はハルの仕掛けた食料買い占めである。

 おまけにハルはその際に各部族の者達が責めを負わないように、日付を偽装した契約書を作成して各部族に必要な枚数を配布していたため、ベルガンの抑えも利いている事と併せて各村邑は今のところ無理な徴発をされていない。

 しかし余りにも食料の集まりが悪く、ダンフォードが遂に堪忍袋の緒を切ったのであった。


「ちっ……やってられんな!アルフォード王が掲げたクリフォナム人の総結集も最早これまでか」


 ベルガンはやりきれない思いであったが、それでも未だアルフォード王は存命。

 そして存命である限りは義理がある。

 義理がある限りは、例え無能と雖も子供の面倒は見てやらなくてはならない。

 そして戦いに勝たねばその義理は果たせないのだ。


「最低限のことはやらねばいかんか……仕方ない」


 肩を落とし、ベルガンは自分付けの戦士達を率いて食料調達へ向かうことにした。





 アルフォード王本営直近、アルゼント族ナルテア村


 フリード軍の本営から最も近い村の広場で、戦士長と村長が会話とも言えないような話し合いを持っていた。


「そ、それでは略奪ではありませんか!」

「そうだ、出さねば奪う」


 戦士長の言葉に一瞬絶句した村長は次の瞬間怒りに顔を赤く染めた。


「わ、我々にどうしろと……飢え死にしろというのか!」

「ははは……シレンティウムとやらに面倒を見て貰えば良かろう?」

「そ、それが同胞の言葉か!?ほ、本気なのか?」


 信じられないものを見る目で戦士長を見る村長だったが、それを意に介す様子も無く戦士長はごく普通に言葉を発した。


「では始める、抵抗すれば村を焼く事になるぞ。抵抗はするな!」

「そ、そんな無茶苦茶な……!」


 村長が止める術も無く見守る中、フリード戦士達の家捜しが始まった。

 家捜しとはいっても別段村の族民達は食料を隠している訳では無い。

 余剰食糧が無いので供出をしなかっただけであり、自分達の分は家々に普通に保管してあるのだから直ぐに見つかってしまう。

 剣を手に家々の扉を乱暴に蹴破った戦士達は、突然の侵入者に驚く村人達を余所に食料を奪い、あるいは剣で脅しつけて運ばせる。


 抵抗する者は殴りつけ蹴り倒す戦士達。


 たちまち村は騒然とした空気に包まれたが、剣を取り出し抵抗しようとする村民達を村長はかろうじて押し止めた。

 村の広場に集められた食料は村民が次の収穫までに食い繋いでいくはずだったもの。

 その量にひとまず満足した戦士長は、村の族民達を使って村にあった荷車へ食料を積み込ませる。


「では村長。辺境護民官に宜しく伝えてくれ」


 戦士長の捨て台詞にわなわなと拳を振わせる村長であったが、どうすることも出来ずに自分達の食料を積み込んだ荷車を眺めることしか出来なかった。


「村長!何で抵抗しないのだ!」

「何ですかこの仕打ちは!黙っているんですかっ!」

「みんな持って行っちまいやがった!!」

「わ、私の子供が……うあああっ」


 村人の声に振り返った村長の視界には、怪我をして倒れた者達や蹴破られて無残な姿をさらす家々がある。

 集まってきた村人達は皆殴られた顔を腫らし、また別の者は口から血を流し、女達は泣き叫ぶ子供を腕を抱えている。

 そんな村人達に囲まれた村長は怒りに震えながら言い放った。


「黙ってなどおらん!わしらの食料だけで無く、誇りも奪ったあ奴らには必ず仕返しをしてやるぞ皆の者!荷を纏めよ!こうなったらシレンティウムへ加勢に行くぞ!」


 村長の言葉で、途方に暮れていた女子供や男達に生気がよみがえった。

 もうフリード族になど従う義理は無くなった、西方帝国だろうがシレンティウムの辺境護民官だろうがこの際構わない。


 自分達がより良く生きていける方に付くだけだ。

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