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辺境護民官ハル・アキルシウス(改訂版)  作者: あかつき
第1章 廃棄都市復興
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第16話 東照大使介大成

 水路開削工事開始から2か月後、シレンティウム東門前


 隊商と言うにふさわしい馬車の群れがぽっかりと開いた平地に出ると、正面に石造りの城門が見えた。

 街道が以前通った時とは異なり、古い煉瓦造りから石畳へ変わっていた事でその隊商を驚かせていたが、切り開かれた農地や水路、そして視界に入る都市の発展振りがさらにその一行を驚かせる。


「お~見えたヨ、あれがシレンティウム城市ヨ」


 東照商人のホーは、一行を護衛する位置にある東方の武将に嬉しそうに声を掛けてシレンティウム市を指さす。


「へえ……死霊都市のなれの果てとは思えない、立派な西方城市じゃないか」

「それ当たり前ネ、ワタシが出発する前から州牧さん色々考えてたネ、その施策はワタシ見ても無駄無かたヨ、帰る頃だいぶ発展してるは思たネ」


 感嘆の声を漏らしたのは、馬に乗った柔らかい雰囲気をもつ40歳代の東方の武人。

 背丈は言うに及ばず肩幅も胸板も武人らしく厚いが、威圧的なものは感じられない。

 東照人特有の浅黒い肌に彫りの浅い優しい風貌で、真っ黒な髪は頭上で結い止め、前袷の衣服に袴服を穿き、東照風の革札を縫い合せた軽甲を身に着け、腰には美麗な装飾を施した直剣を履いている。


「なるほど、その見立てに間違いはなさそうだな。奉が熱心に推すだけはある、此処まで来た甲斐があったという訳だ」


 感心する武人にホーは得意げに言い返した。


「それ当然ネ、介大成大使、でなければわざわざお前さんに声掛けないヨ」


 幼馴染みの格式張った物言いに苦笑を漏らす東照の武人、介大成を余所に、ホーは後ろに続く隊商を励ました。


「皆シレンティウムはもうすぐヨ~見たとおり普通の西方城市ネ、死霊は……い、一応居ないヨ!水は凄い美味いネ、もうちょっと頑張るヨ!」


 おうと元気のある返事が先頭を行く介大成と振り返ったホーの耳に届いた。

 間もなく東照からの人や物が初めてシレンティウムに到着する。

 ハルの思い描く交易構想の一端がこれで確立される事になるのだ。





 ホーの率いる隊商がシレンティウムに到着した事は直ぐさまハルに知らされた。


 ハルがエルレイシアとアルトリウスを連れて行政府となっている元第21軍団司令部の玄関へ赴くと既に隊商は到着しており、ホーの指揮で荷をほどいて行政府の倉庫へと商品を運び込んでいる所であった。


「ホーさん」

「お~エルレイシアさんご無沙汰ネ~やあっと戻ってきたヨ~州牧さんも元気かヨ~!」


 指揮を執っているホーの姿をその中に見つけたエルレイシアが声を掛けて笑顔で手を振ると、ホーも嬉しそうに手を振り返しつつ隣のハルにも如才なく声を掛ける。


「大事ありませんでしたか?」


 ハルの労いの言葉にホーが頷く。


「無いヨ!お陰様で借金全部返した上に東照で良い繋ぎも出来たネ~これからバリバリ働くから期待して欲しいヨ!」


そう言いつつホーは背後を振り返り、隊商員達に指示を出して持ち込んだ荷物から厳重に封をされた大きな木箱を数個ハルの前に並べた。


「これは?」

「お~依頼にあった行政用品ヨ!東照の官吏も使テル一級品揃えたネ~」


 ホーが得意げに胸を反らしてそう言うと、商隊員達が手持ちの釘抜梃子を使ってその蓋を開いた。

 それをのぞき込むハル達が目にしたのは……

 東照で公用文書に使用される、東照紙と封筒、厚紙などの東照紙製品。

 東照製のインクと堅筆、毛筆などの筆記具。

 東照製の文箱や版木となる台木。

 東照製の簡易木版印刷機とそのインクや部品などの消耗品。

 その他帝国製、東照製の各種文房具。

などの物品であった。


「これ、アツメタよ~どうか?」

「ありがとうございます……もちろん全部買います」


 ハルが驚きながらも即決すると、ホーは得意満面でさらに言葉を続ける。


「おー良かったヨ、考えた甲斐があったヨ!馬車にたくさん積んできたネ、あと、お塩と帝国や東照の升と秤も持て来た、必要かヨ?」

「全部買います」


 またも即決するハル。

 隊商員も満足そうな笑みを浮かべて蓋を開いたまま箱を行政庁舎の中へと運び込む。

 周囲から人影がなくなった所でハルの近くに腕組みをしてたアルトリウスが現れ、関心しきりな様子で頷きながらホーに言葉を掛けた。


『何と、見事な先見の明だな、その方本当に商人か?』

「前も思たけど……死霊と話しても呪われ無いかヨ?」


 アルトリウスに話しかけられて不安そうに振り返るホーへ、エルレイシアは笑みを浮かべて答えた。


「この方は大丈夫ですよ」

「そ、そうかネ……亡霊将軍もお元気……で良かったかヨ?」


 ホーが振り向いて東照の礼法である包拳礼を送りつつアルトリウスに返答しかけるが、途中で尋ねるような口調になってしまう。


『うむ、元気である』

「あ~何よりネ……」


 顰め面しくアルトリウスに答えられ、ホーの笑顔が微妙なものになった。

 未だに苦手意識があるようだ。

 その様子を見たアルトリウスが悪戯っぽい笑みを浮かべて言葉を継ぐ。


『ふふん、まあ感謝せよ?普通の死霊であればかつての敵国人、すぐに憑き殺してやる所であろうが、我はその様な分別無しではないのである!』

「は~そうかヨ……」


 エルレイシアとアルトリウスの言葉に一応は納得するホー。


『……但し、その方が裏切った場合は容赦せんぞ?』

「ぎゃーッ!?」


 しかし次の瞬間火の玉を浮かべて青白い顔で迫るアルトリウスに、ホーが叫び声を上げてハルにしがみついた。


「あっ、ホーさんっ!ずるいですっ!」

「うわっ?」


 がたがた震えるホーの背中をハルが苦笑しつつ撫で擦っていると、エルレイシアがその反対側である背中に飛びついたのだ。


「ちょ、ちょっとエルレイシア」

「む~ハルの匂いがします……」

「あっ?ぎゃーっ??」


 後ろからしがみつかれたエルレイシアに首筋へ鼻先を押しつけられ、悲鳴を上げるハル。


「あ~邪魔して悪かったヨ……」


 ハルから身を離したホーがもみ合う2人を見ながら冷や汗を掻きつつ謝ると、アルトリウスがにやにやしながら言った。


『気にするでない、いつものことである』






 なんとかエルレイシアをはがしたハルが気を取り直してホーに向き直ると、ホーは生暖かい視線をハルに向けつつ口を開いた。


「あ~取り乱して悪かったネ……今回持ってきたのは州牧さんから借りたお金の一部返済分と、帝国で売れそうな商品ネ。既にこの商品の代金はワタシの借金からさっ引かして貰てあるネ」


 そう言いつつ幾分身なりが立派になったホーがハルに東照紙の目録を手渡した。

そこには返済分として東照金100両、東照製の絹反物や翡翠、懐紙、東照薬品が同じく東照金100両分あることが記されていた。

 東照金1両の金含有量は帝国の大判金貨1枚分とほぼ同じくらいである為、ホーはたった1回の商いでシレンティウムへの借金を約半分返した事になる。

 しかも仕入れてきた東照の商品はいずれも帝国内では1.5倍から2倍の値段で売れるものばかりである。


「商品の差額分は借金に計算しないで良いネ、それは利子分ヨ」


 ホーは驚くハルにそう言って笑顔で片目をつぶって見せた。






『そろそろそちらの出来る御仁を紹介して貰えぬかな?』


 介大成が手持ちぶさたにしている事に気付いたアルトリウスが、ハルやエルレイシアに土産話を披露していたホーに声を掛ける。

 ホーはアルトリウスの言葉に顔を引きつらせた。

 やはり苦手意識はそう簡単に拭えないようである。

 しかし気を取り直したように笑顔を無理矢理戻し、アルトリウスの求めに応じるべく自分の隣にいる介大成を前に出した。


「あ~遅くなったヨ、こちら東照帝国のシレンティウム城市大使になる介大成大使ネ。実は私の幼馴染みネ。介、こちらが州牧のハル・アキルシウスさん、隣が夫人のエルレイシアさん、私がここに来る事になったきっかけを作ってくれた人ネ~」

「介大成と申します、お世話になります」

「いや、エルレイシアさんは夫人じゃ無いですから、って……えっ、大使さんですか?」


 淀みの無い奇麗な発音の帝国共通語を話す東照人というよりも、その来訪理由に驚くハル。

 一旦はエルレイシアの紹介に問題があると抗議しかけたが、それすらどこかへ飛んでしまった。


「はい、東照皇帝より任命されて只今シレンティウム城市の城市大使として赴任して参りました。以後御世話になりますのでどうぞよしなにお願い致します」


 介大成の自己紹介を聞き、ハルは慌ててアルトリウスを手招き近くに呼び寄せてひそひそ声で話し始める。


「これって……まずいんじゃ無いですかね?」

『いや、まずくは無かろう。東照が隣国の都市に城市大使を置くのはそう珍しい事では無いのである。実は我の頃にも打診があったが、その時代は東照と帝国の関係は緊張していたので断ったのであるがな』

「確かに今の西方帝国と東照は緊張関係にありませんね。むしろ積極的に交流をしていますし……」


 ハルの言葉通り、現在東照と西方帝国は今までに無い良好な外交関係を結んでおり、断絶状態の国交を復活させるという名目で使節の遣り取りが年に1度以上行われている。

 帝都でも東照産の絹や翡翠、それに東照茶は貴族の間で持て囃されており、その内茶は帝都の市民にも広まりつつあることはハルも知っていた。

 しかし今まで帝国と東照の間で直接交易をした事実は地理的な理由から無い。

 北は蛮族跳梁する辺境の地であり、またセトリア内海の東側沿岸部を押さえているのはシルーハ王国で、東照と帝国を直接結ぶ道は存在しないからである。


 かつてアルトリウスが直接交易をハルモニウムで手がけたが、わずか10年でそれも途絶え、それ以降はシルーハを経由しての船舶交易が主流である。

 その為帝国内での東照商品は割高になり、一部の貴族の嗜好品としての意味合いが強くなってしまっている。

 東照の商人も危険性と儲けを天秤に掛けた結果、無理をして航路や交易路を開くよりもシルーハを経由して交易を行った方が安全で確実との結論に達し、帝国との直接交易には積極的で無い。


『法令的には特に問題無いと思うのである。東照の城市大使は外交的な使節では無い。どちらかというと現地行政府と自国民の折衝や商談、トラブルの際の相談窓口や仲介役である故にな……かつてリキニウス将軍が東照を打ち破るまでは、セトリア内海諸国の都市国家に城市大使が居た事実もある。いれば何かとこちらにとっても便利な存在である』

「う~ん、しかし……」


 エルレイシアと楽しそうに話している介大成の様子をうかがいながらハルが決断をためらっていると、その理由を察したアルトリウスがハルの胸中を代弁するように言った。


『ハルヨシが心配しておるのは中央のあほ貴族共が騒ぐやもしれん……ということであろう?』

「そうですね、それが一番面倒くさいですし……」


 ハルがその言葉の内容を認めると、アルトリウスは少し考えた後に口を開いた。


『しかし不利な事だけではあるまい。城市大使を受け入れれば、東照からの文物がより一層ここに流れ込む事になろう。それこそ我がかつて治めていたハルモニウムの頃以上にであるぞ?東照帝国との繋ぎも出来る。あほ貴族は東照商品が安くなればそれだけで喜ぶ愚か者もおろうしな、大事は無いと思うのである』

「う~ん、どうしたものか……確かに東照もシルーハを通過したくないっていうのがあるのでしょうけれども」


 腕を組んで悩むハル。

 確かにハルが目指す東照との直接交易、それによって得られた文物を使用しての帝国や北方辺境、果ては西方諸国との交易には非常に都合が良い。

 東照の意図もおそらくは西方との直接交易であろう。

 シルーハ商人の強欲ぶりは群島嶼でも有名であるし、帝国でも広く知られていた。

 シルーハの中間搾取がなくなれば東照物品も廉価になり、より多くの輸出が可能となるので利が得られる。


「ハル、悩む事は無いのではありませんか?」

「えっ?」


 きっぱりというエルレイシアに驚いて顔を上げるハル。


「あなたがこの地で何を為すかそれが重要と最初に会った時に言いましたよね?あなたが、何を為したいのか、今はそれも重要な事だと思います」

「何を為すか……」

『うむ、そうであるな。くよくよ考えておるのでは何を為すかがぼやけるばかりであるからな。あほ貴族の出方を気にするのも確かに大事であるが、それよりもまずこの地で何を為そうとしているのか何を目的に動くかである。ハルヨシよ、そなたはこの地で何を為す?そのためには何が必要か?』


 アルトリウスの問い掛けに周囲を見回すハル。

 日に焼けた隊商の面々に、街の大通りを通るクリフォナムやオランの族民達。

 隊列を組んで歩く帝国の兵士に、大荷物を抱えながらも笑顔の帝国人商人。

 皆一様に明るい顔で街を行き来している。

 かつて帝国との戦争で諦念と自嘲の混じった暗い笑顔を多く見たハル。

 生を失った我が子の身体を力なく抱きしめて呆然とする母親、家財全てを失って地面に座り込む商人、戦場となった自分の農地を見て立ち尽くし静かに涙を流す農民達。


 一度は失敗した、朗らかで明るい笑顔を群島嶼から失わしめてしまった自分であるが、遠く北の地にやってきてまたこの笑顔を身近で見る事が出来るようになるとは思わなかった。

 出来れば……いや、必ずこの笑顔を守り続けていきたい、みんなが笑い続けられるようにしたい。

 左遷されてヤサグレていた頃を思えばハルの心境は大きく変化していた。

 周囲からの協力があったとは言え自分の行動でこの地に人が集まり始めた今、ハルには責任感と小さな達成感が生まれ、アルトリウスに説かれたこの地の繁栄を目指すという目的が自分の目的として自覚できるようになっていたのである。


「為すこと……でしたね。分かりました介さん、辺境護民官として、またシレンティウム担当行政官として城市大使の赴任を認め、歓迎致しますよ」


 迷いを吹っ切ったハルの決断に介は包拳礼で応じる。


「受け入れ有り難うございます辺境護民官殿、そのご判断を決して後悔されることはありませんよ。夫人、どこか提供して戴ける適当な建物はありませんか?」

「神殿の隣に丁度整備の終わった建物がありますから、そこではどうでしょう?」

『ああ問題は無かろう。他に適当な建物も無いであるしな』

「そうですね……エルレイシアさん、案内お願いします」

「はい、では介大使こちらへどうぞ」


 アルトリウスの言葉に頷くハルの指示で、エルレイシアが介大成とホーを案内して太陽神殿の方向へと向かう。

 それを見送るアルトリウスがハルに声を掛けた。


『さて……不本意な形ではあるが大陸最大の大国が動いたのであるな?』

「どう転びますかね?」

『ふふん、ハルヨシよ、お主が上手く転がさねばならぬのであるぞ?』

「分かっています、頑張りますよ先任」


 自身の言葉に以前とは違って快活な返答をするハルに、アルトリウスはにやりと笑みを浮かべてからもう一言発した。


『エルレイシアの事もよく考えておけよ?』

「はっ?あ、え?」

『いずれは……であるぞ?』


 一転して狼狽えるハルに笑みを向けたままアルトリウスはゆっくりとエルレイシア達の消えた方角へと向かう。

 それを見送りハルはぼそりとつぶやいた。


「ど、どうしろと……」






 直後、東照帝国シレンティウム城市大使事務所



「早速なのですけれども、東照からシレンティウムに1つお願いしたい事がありまして……これは直ぐには無理だと思いますし、直接こちらの物でなくても構いませんが……」


 アルトリウスに続きハルが遅れて城市大使事務所に赴いたところ、早速介大成からエルレイシア共々東照茶の振る舞いを受けた後にそう切り出された。


「お願い、ですか?」

『条件によるであるがな』


 ハルが言葉を発した隣でアルトリウスがそう付け足した。

 介大成は、それはご尤もであると頷きながらも言葉を継ぐ。


「特に難しい問題や要求ではありません。お願いしたいのは東照帝国西方府に対する食糧の安定供給です。道すがら見たところシレンティウム城市は盛んに農地開拓を行っていますね?このまま5年も経てばこの地は北方随一の穀倉地帯に変わるでしょう」

「……何故でしょうか?東照国内で飢饉でもありましたか?」


 ハルの質問に介大成は首を左右に振った。


「いえ、そうではありません。元々東照西方は土地の塩が強く、特に塩畔には満足な農地がありません。群島嶼出身の辺境護民官殿はご存じないかも知れませんが、塩畔は書いて字の如く塩湖と岩塩鉱山に面しており、逆にその塩で交易を成り立てて食料や必要物資を仕入れている街なのです」

『うむ、塩畔の塩と言えば西方帝国でも有名であるな』

「クリフォナムの東部諸族や南部諸族でも塩畔から塩を買っていますし……」


 介大成の説明にアルトリウスとエルレイシアが頷きながら言葉を足した。

 確かにハルは塩と言えば海浜において塩田を利用して行う製塩法しか知らないし、群島嶼ではそれ以外に塩は採れない。


「へえ~知りませんでした」


 素直に感心したハルへ笑顔を向けながら介大成が言葉を継いだ。


「群島嶼と同じような塩田は塩湖でも使用していますが、塩畔の塩の多くは岩塩です。これまでは距離的な関係から東照本国より主にシルーハから穀物や野菜を輸入していたのですが、正直申しまして最近あの国とは上手くいっていません。主に交易の利益配分を巡って紛議が持ち上がっています」

「全くヨ~シルーハ商人の強欲さには参るネ~」

「そうなのです」


 ホーが呆れたような声を出し、それを横目に頷きながら介大成が説明したところに拠ると、西方帝国内での東照商品の人気上昇により東照商品の販売価格が上昇しているにもかかわらず、シルーハの商人は仲買料金を据え置いてその利益を独占しよう図った。

 東照側はこれに気付いて抗議したが、シルーハを介さない事には帝国内へ商品を運ぶ事が出来ず、結果言いなりにならざるを得なかったとのことである。

 しかし事はそれで終わらず、東照はシルーハを介さざるを得ないという弱みを握ったシルーハ側が足下を見て商品価格の更なる値下げを求めてきたのだ。


 これを東照が拒んだ所、一時的ではあったがシルーハは東照帝国西方府に対する食料品の輸出を停止するなどの措置で恫喝に及んだことから、東照帝国西方府の都督黎盛行が他に活路を求めようと動き出した所で、ホーがシレンティウムから帰ってきた。

 ホーは帝国金貨で借金を全て返済した上商会を再興し、伝を使って介大成に接触を求めてきたので、都督である黎盛行にシレンティウムの存在が知れたのである。


「皇帝の認可を得ては居ますがこれは東照の国策と言うよりは東照帝国西方府の意向が強く働いている施策です。帝国との直接交易の道が開ければ……いや開かれる可能性があると知れるだけでもシルーハに一泡吹かせられるのです。もちろん、対価は金、物どちらの形でも構いません、きっちりお支払いします。当面はシレンティウムのもので無くとも構いません、クリフォナムやオラン、西方帝国の食料品でも構いませんから我が西方府へ供給して欲しいのです」


 介大成の説明と提案に対しアルトリウスが眼光鋭く問いただした。


『ふむ、それでシルーハから譲歩を引き出そうという腹であるか?なかなか考えたようであるな……だがそれが成った暁には我らを切り捨てるのか?』

「……いえいえ滅相もない。シルーハの商人が運ぶ強欲まみれの食い物は不味くていけません。全くもって東照人の口に合いませんので、こちらの美味しい、新鮮で汚れの無い食料が欲しいのです。それにシルーハへの道は煩わしいフィン人やシャン人がおりまして通行料を求めてきます。未だその様な勢力下にない安定した交易路を確立できそうなシレンティウムへは末永いお付き合いをお願いしたいと思っています」

『で、あるそうだが、如何する?』


 介大成の言葉に嘘はなさそうであったが、アルトリウスからそう問い掛けられたハルは出された東照茶を飲み干し徐に口を開く。


「分かりました。ではこちらからの要請ですが、塩と東照の産品は必ずシレンティウムを通過することにして頂きます。但し、それはこちらも食料品が輸出できるようになってからになりますね」


 それを見た介大成の笑みが深まる。


「良いでしょう、辺境護民官殿とは公正公平で得る所の多い、非常に良い取引が期待できそうですね……まあ、いずれにせよ我々としてもここにしか活路はありません。宜しくお願いします」

「いえ、こちらこそ……」


 そう言いつつ立ち上がったハルと介大成は、卓越しに固い握手を交わすのであった。




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