灰色ノ星
「わたしの分も、生きて……ごめんね……」
ピーーー…………。
鳴り響く、機械音。
目に映るのは、白くて綺麗な肌をした、彼女。
ゆっくりと閉じた目から、
一筋の涙の線を、ゆっくりと落として、
逝ってしまった。
僕には、もう、到底迎えには行ってやる事の出来ない、世界へと。
ひとりで、逝ってしまった。
目の前がグシャグシャと、
気持ち悪く激しく……歪んでいく。
崩れていく……
壊れていく………潰れてゆく…………。
色を失う。
音を失う。
心を失う。
生だけが…残る。
風の吹く、この小高い丘で、
僕はただ、灰色の空を見上げることしか、出来ないで居た。
君を失ってしまった僕の世界は、まるで、色を失くした。
生きている。
死んでいる。
どちらでも良かった。
僕は心を失った。
どうやっても取り戻せない心を。
でも。
歩き出さなければ…。
いつまでも、ここには居られないのだ。
僕が消えれば、
君の存在は、
本当に姿を消してしまうから。
君の言葉を、最後に受けたのは、僕。
僕は君の全てを請負うと約束したから。
だから、ゆくよ。僕は。
君のいない世界を、今ゆっくりと、歩いてゆく。
天気は、曇。
気温は、暖か。
君が好きな世界。
「あなたと生きていければ、私は、もう何もいらないの…」
手を取り合った記憶。
君の匂いを感じた記憶。
鼓動を、
熱を、
確かに感じていた、この記憶。
今も僕を、蝕む。
君を生きる為には、荷が重過ぎるんだ……。
だから。
ごめんね。
置いてゆくのは、
思い出と、君の白い骨が入った、綺麗な瓶。