記憶という羽衣
「よーし、着いたな!歴史好き必見の倉吉に!」
新幹線から降りると、私の夫、悠人さんはそう言います。私も頷き、
「そうですね。心結さん、蒼空さん、早く行きますよ」
「はーい!」
と子供たちを呼びます。心結さんは女の子、蒼空さんは男の子で、今年で7歳になるそうです。
改札をくぐり、倉吉駅を出ます。自分が育った街であるはずなのに、新しい場所に来たように感じます。不思議な感覚です。
ところで、ここに来た理由は、里帰りです。今から私の実家に向かうことになっています。
「タクシーで行くか? それとも歩き?」
悠人さんは親切に聞いてくれます。
「……歩くのは大変そうですし、タクシーにしてもらっていいでしょうか?」
私は言います。
「そんなに畏まらなくとも……」
少しだけ悠人さんの顔は曇りましたが、すぐにいつもの調子に戻ります。
「よし、じゃあ捕まえてくる! 二人とも、ママは任せたぞ!」
『アイアイサー!』
「ママは僕が守るから大丈夫!」
悠人さんが行くと、となりで蒼空さんがそう宣言してくれました。
すると心結さんが、強く反論しました。
「蒼に守られるほどママは弱くないよ ー パパより強いんだから!」
蒼空さんもまた、言い返します。
「そんなわけない! パパのほうが強いもん!」
二人の口調が強くなりすぎていたので、私は注意します。
「二人とも、喧嘩はいけませんよ」
「だって! 心結が始めたじゃん!」
「違うよ! 私は正しいことを言っただけ!」
それでも言い合いが続くので、私は困ってしまいました。
「おいおい、また喧嘩か? ママが困っちゃうだろ」
やっとそのとき、悠人さんが戻ってきてくれました。
『……ごめんなさい』
悠人さんの一言で、二人とも下を向いて謝ります。
喧嘩が治ってよかったと、私は胸を撫で下ろしました。
◇◇◇◇
「お父さん、お母さん、ただいま帰って参りました」
実家に着くと、母親だと言う人が出迎えてくれました。
「お帰り!」
と。
「さあさあ上がって!お昼にしましょ」
「わーい!」
その声に喜ぶ子供たち。
「ありがとうございます、お義母さん」
お礼をする悠人さん。
そんな中、私はどう答えて良いのか分からず、
「ありがとうございます」
とだけ、ほぼ悠人さんと同じことしか言えませんでした。
「結菜、それに悠人、よく来てくれた。……それで、大丈夫だったか」
居間に入ると、どうやらお父さんらしい人にそう聞かれました。
「大丈夫だったか?」の意味を理解するのにしばらく時間がかかりましたが、はっと気づき、
「はい、大丈夫です」
と答えます。
もちろん、この状況で「いいえ」と答えれるはずもありません。
「で、実際のところ、どうなんだ」
その人は悠人さんの方を向き、急に声の大きさを落としました。
悠人さんは目を逸らし、
「手紙で……お伝えした通りです」
と気まずそうに話します。
「そうか……。まだ、戻らないんだな」
しばらくの間、はしゃぐ子供たちの声以外は、何も聞こえなくなりました。
その沈黙を破ったのは、蒼空さんです。
「ねえ、お昼食べたら町を見たい!」
さっきまではしゃいでいたと思っていたのですが、いつの間にか私の横に立っていました。
「それはいいな! 昔来た時は蒼空も心結もまだ小さかったから忘れてるだろうし、それに・・・」
私の方をチラリと悠人さんは見ます。
あまり期待はしない方が良いと思いますが、私の記憶のためにも、やってみますか。
◇◇◇◇
私たちは蒼空さんの行きたがっていた、旧国鉄倉吉線廃線跡に向かいました。
「日本一美しい」とされる、廃線跡だそうです。
「やっぱり、何度来ても飽きないなー、この場所は! はっはっはっ!」
悠人さんは子供たち以上に、はしゃぎまくっています。
この人、本当に大人なのでしょうか?
疑いたくなります。何故こんな人と結婚したのか、自分は分かりません。
でもおそらく、素直で優しい部分に惹かれたのだと思います。
今だって、長い歩きに疲れて少しどんよりとした空気を、持ち上げようとしていますし。
ですが、さすがにみんな疲れすぎているので、
「子供たちも疲れているようですし、一旦休みませんか?」
と私は提案しました。
「さんせーい! 僕も休みたい!」
「私も!」
蒼空さんも心結さんも、賛成しましてくれます。
悠人さんは明るく頷きました。
「お、確かに! でも、もう少し進んでからにしないか? この先にいい休み場所を知ってるんだ ー そこの方がいいだろ?」
「はい、そうしましょう」
私は悠人さんの言葉に賛同しました。
「よし! そんなに長くは掛からないから大丈夫だ!」
『え〜』
ですが、子供たちからは不満の声が上がります。
「おいおい、特に蒼空はこれを見たがってただろ?」
「そうだけど疲れた〜」
悠人さんは軽くツッコミを入れましたが、蒼空さんのへこたれた様子は変わりません。
なので、彼はため息を吐いて言いました。
「仕方がないなあ。じゃあ背負うからこっちこい」
蒼空さんは喜んで悠人さんの背中に勢いよく飛び乗ります。
しかし、これには心結さんが怒りました。
「待ってよ、なんで蒼だけなの? 私も疲れてるのに!」
「うーん……参ったな」
悠人さんは悩んでいるようです。
「それなら、心結さんは私が背負いますよ」
私は口元を緩めてそう言いました。
「ほんと!? ママ、ありがとう!」
心結さんは喜んでくれます。
「えー、ズルい!」
蒼空さんは羨ましがります。
そこに、悠人さんは
「蒼空は重いからママを潰しちゃうだろ」
と、また軽いツッコミを混ぜます。
「そんなわけない!!」
「ふふふっ」
気楽な会話を交わしながら、私たち薄暗い竹林に覆われた、明るい木漏れ日の差し込む小道を、線路に沿って進んで行きました。
どこか、懐かしい気分です。
「……綺麗ですね」
思わず、私の口からそんな言葉が漏れました。
景観に言ったつもりでしたが、よく考えてみたら、この状況自体に向けた言葉だったのかもしれません。
悠人さんは微笑して、小さく、でも聞こえるように、
「……竹林の隙間から差し込んでくる光より、結のその一言の方がずっと輝いてるよ」
と呟きます。
私は、なんだか急に熱くなりました。
きっと、残暑か何かでしょう。
「……はっは! 本当に歩くだけで幸福追求ができる、素晴らしい道だ!」
悠人さんは取り繕うように次の言葉を繋げます。
「それは……大好きな歴史的遺産だからでは……?」
ちょっとだけ、とんちんかんなことを私は言ってみました。
悠人の、『違う!』っていう言葉を聞きたくて。
悠人さんは固まって、あの明るいノリで答えてくれました。
「そんな薄っぺらい理由なわけないだろ!」
その通りです。
私はそれを知っています。
でも、悠人はからかい甲斐のある人だから。
「あなたなら、あり得ます」
私たちはお互いを見て、クスッと微笑み合いました。
ふと後ろに背負っている心結さんのほうを向くと、寝てしまっています。
蒼空さんも、同様です。
少し、心地良すぎる暖かさだったのかもしれません。
ゲームのシナリオ制作をしたときに、作ったものです。グッドエンド版だけ小説に直してみました。なお、ゲームに関しては、YoutubeのSniper's Squad (ハンドル:Sniperiscalm)の公式ディスコード内のボットに内蔵するという、大胆な計画で作られています。




