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記憶という羽衣

作者: ネコダヨ
掲載日:2026/06/13

「よーし、着いたな!歴史好き必見の倉吉に!」


 新幹線から降りると、私の夫、悠人さんはそう言います。私も頷き、


「そうですね。心結さん、蒼空さん、早く行きますよ」


「はーい!」


 と子供たちを呼びます。心結さんは女の子、蒼空さんは男の子で、今年で7歳になるそうです。

 

 改札をくぐり、倉吉駅を出ます。自分が育った街であるはずなのに、新しい場所に来たように感じます。不思議な感覚です。


 ところで、ここに来た理由は、里帰りです。今から私の実家に向かうことになっています。


「タクシーで行くか? それとも歩き?」


 悠人さんは親切に聞いてくれます。


「……歩くのは大変そうですし、タクシーにしてもらっていいでしょうか?」


 私は言います。


「そんなに畏まらなくとも……」


 少しだけ悠人さんの顔は曇りましたが、すぐにいつもの調子に戻ります。


「よし、じゃあ捕まえてくる! 二人とも、ママは任せたぞ!」

『アイアイサー!』


「ママは僕が守るから大丈夫!」


 悠人さんが行くと、となりで蒼空さんがそう宣言してくれました。

 すると心結さんが、強く反論しました。


「蒼に守られるほどママは弱くないよ ー パパより強いんだから!」


 蒼空さんもまた、言い返します。


「そんなわけない! パパのほうが強いもん!」


 二人の口調が強くなりすぎていたので、私は注意します。


「二人とも、喧嘩はいけませんよ」


「だって! 心結が始めたじゃん!」

「違うよ! 私は正しいことを言っただけ!」


 それでも言い合いが続くので、私は困ってしまいました。


「おいおい、また喧嘩か? ママが困っちゃうだろ」


 やっとそのとき、悠人さんが戻ってきてくれました。


『……ごめんなさい』


 悠人さんの一言で、二人とも下を向いて謝ります。

 

 喧嘩が治ってよかったと、私は胸を撫で下ろしました。


◇◇◇◇


「お父さん、お母さん、ただいま帰って参りました」


 実家に着くと、母親だと言う人が出迎えてくれました。


「お帰り!」


 と。


「さあさあ上がって!お昼にしましょ」


「わーい!」


 その声に喜ぶ子供たち。


「ありがとうございます、お義母さん」


 お礼をする悠人さん。

 そんな中、私はどう答えて良いのか分からず、


「ありがとうございます」


 とだけ、ほぼ悠人さんと同じことしか言えませんでした。


「結菜、それに悠人、よく来てくれた。……それで、大丈夫だったか」


 居間に入ると、どうやらお父さんらしい人にそう聞かれました。


「大丈夫だったか?」の意味を理解するのにしばらく時間がかかりましたが、はっと気づき、


「はい、大丈夫です」


 と答えます。

 もちろん、この状況で「いいえ」と答えれるはずもありません。


「で、実際のところ、どうなんだ」


 その人は悠人さんの方を向き、急に声の大きさを落としました。

 悠人さんは目を逸らし、


「手紙で……お伝えした通りです」


 と気まずそうに話します。


「そうか……。まだ、戻らないんだな」


 しばらくの間、はしゃぐ子供たちの声以外は、何も聞こえなくなりました。

 その沈黙を破ったのは、蒼空さんです。


「ねえ、お昼食べたら町を見たい!」


 さっきまではしゃいでいたと思っていたのですが、いつの間にか私の横に立っていました。


「それはいいな! 昔来た時は蒼空も心結もまだ小さかったから忘れてるだろうし、それに・・・」


 私の方をチラリと悠人さんは見ます。

 あまり期待はしない方が良いと思いますが、私の記憶のためにも、やってみますか。


◇◇◇◇


 私たちは蒼空さんの行きたがっていた、旧国鉄倉吉線廃線跡に向かいました。

 「日本一美しい」とされる、廃線跡だそうです。


「やっぱり、何度来ても飽きないなー、この場所は! はっはっはっ!」


 悠人さんは子供たち以上に、はしゃぎまくっています。

 この人、本当に大人なのでしょうか?

 疑いたくなります。何故こんな人と結婚したのか、自分は分かりません。

 

 でもおそらく、素直で優しい部分に惹かれたのだと思います。

 今だって、長い歩きに疲れて少しどんよりとした空気を、持ち上げようとしていますし。


 ですが、さすがにみんな疲れすぎているので、


「子供たちも疲れているようですし、一旦休みませんか?」


 と私は提案しました。


「さんせーい! 僕も休みたい!」

「私も!」


 蒼空さんも心結さんも、賛成しましてくれます。

 悠人さんは明るく頷きました。

 

「お、確かに! でも、もう少し進んでからにしないか? この先にいい休み場所を知ってるんだ ー そこの方がいいだろ?」

「はい、そうしましょう」

 

 私は悠人さんの言葉に賛同しました。


「よし! そんなに長くは掛からないから大丈夫だ!」

『え〜』


 ですが、子供たちからは不満の声が上がります。


「おいおい、特に蒼空はこれを見たがってただろ?」

「そうだけど疲れた〜」


 悠人さんは軽くツッコミを入れましたが、蒼空さんのへこたれた様子は変わりません。

 なので、彼はため息を吐いて言いました。


「仕方がないなあ。じゃあ背負うからこっちこい」


 蒼空さんは喜んで悠人さんの背中に勢いよく飛び乗ります。

 しかし、これには心結さんが怒りました。


「待ってよ、なんで蒼だけなの? 私も疲れてるのに!」

「うーん……参ったな」


 悠人さんは悩んでいるようです。


「それなら、心結さんは私が背負いますよ」


 私は口元を緩めてそう言いました。


「ほんと!? ママ、ありがとう!」


 心結さんは喜んでくれます。


「えー、ズルい!」


 蒼空さんは羨ましがります。

 そこに、悠人さんは


「蒼空は重いからママを潰しちゃうだろ」


 と、また軽いツッコミを混ぜます。


「そんなわけない!!」

「ふふふっ」


 気楽な会話を交わしながら、私たち薄暗い竹林に覆われた、明るい木漏れ日の差し込む小道を、線路に沿って進んで行きました。

 どこか、懐かしい気分です。


「……綺麗ですね」


 思わず、私の口からそんな言葉が漏れました。

 景観に言ったつもりでしたが、よく考えてみたら、この状況自体に向けた言葉だったのかもしれません。


 悠人さんは微笑して、小さく、でも聞こえるように、


「……竹林の隙間から差し込んでくる光より、結のその一言の方がずっと輝いてるよ」


 と呟きます。


 私は、なんだか急に熱くなりました。

 きっと、残暑か何かでしょう。


「……はっは! 本当に歩くだけで幸福追求ができる、素晴らしい道だ!」

 

 悠人さんは取り繕うように次の言葉を繋げます。

 

「それは……大好きな歴史的遺産だからでは……?」


 ちょっとだけ、とんちんかんなことを私は言ってみました。

 悠人の、『違う!』っていう言葉を聞きたくて。


 悠人さんは固まって、あの明るいノリで答えてくれました。


「そんな薄っぺらい理由なわけないだろ!」


 その通りです。

 私はそれを知っています。

 

 でも、悠人はからかい甲斐のある人だから。


「あなたなら、あり得ます」


 私たちはお互いを見て、クスッと微笑み合いました。


 ふと後ろに背負っている心結さんのほうを向くと、寝てしまっています。

 蒼空さんも、同様です。


 少し、心地良すぎる暖かさだったのかもしれません。

ゲームのシナリオ制作をしたときに、作ったものです。グッドエンド版だけ小説に直してみました。なお、ゲームに関しては、YoutubeのSniper's Squad (ハンドル:Sniperiscalm)の公式ディスコード内のボットに内蔵するという、大胆な計画で作られています。

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