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異教信仰を持ち込むなと言われましても、あなたが召喚した聖女は八百万の神の国日本から来た女なので

作者: 七茶
掲載日:2026/05/02

いつも通りの家への帰り道、ちょっとコンビニ寄って帰るかなー?なんて思いながら角を曲がった瞬間突然この世界に召喚された。

聖女として――少なくとも彼らはそう呼んだ。王子の婚約者として、この王国の「希望」として。


「お前が聖女か。せっかく召喚してやったのだ。聖女として俺の婚約者にしてやる。せいぜい王子である俺の役に立てよ」


「…絶対にお断りよ!」


突然の出来事に一瞬遅れを取ったが、私はヲタク女子である!異世界召喚は嗜みなのだ!

突然誘拐しておいて、自分達の力になって当然だという態度と婚約者にしてやるとか宣う異世界だからか色鮮やかな青頭男にこの世界の倫理観どうなってるんだ!?と怒りのままに言い返した。


「なんだこの生意気な聖女は!おい!お前たち!こいつをなんとかしておけ!」


断られるとは想像もしていなかったのか、怒り心頭で怒鳴りつけると王子は去って行った。


すわ、酷い扱いの始まりか!?と思いきや、侍女さんや騎士さんは普通で、申し訳無いと言ってくれるので問題は王家だけか、もしくはあいつだけだ。

夜ひとしきり、帰れない事実に泣きそうになりつつもあの青頭に弱みを見せるものかと心を奮い立たせて眠りについた。


翌日には聖女の服?らしきものに着替えさせられ、唯一神だと言う女神像の前に立たされる。


「これが我が王国の唯一神ラミリス神だ。さぁ!我が国の繁栄を祈るのだ!」


昨日の今日で断られた事実をすっかり忘れているのか、指示した通りに誰かが一晩で言う事聞く聖女に仕上げていると思っているのか――後者だろうな。


他の方達は良い人ばかりだったので、あの人達に迷惑がかかるのはいただけない。

不本意ながら祈りは捧げる。

しかし、私の心は常に故郷を想っていた。

日本の八百万の神の思想――森羅万象に神が宿るという考えを。

私はこの世界でも、全てのものに神はいるはずだと考えた。

この世界では、妖精だったり、精霊だったりするのかもしれない。

でも、現代日本人の私にとってはすべからく神だ。

土地神も付喪神もすべからく神だ。


そんな事を考えながら祈っていると、声が聞こえてきた。

小さい子供がきゃっきゃと喜んでいる様なそれはそこらじゅうから聞こえる様だった。


『祈りをありがとう!』

『お名前は?なんて言うの?』


(莉奈、佐藤莉奈と言います)


脳内に響いてくる様なその声に心の中で答える。


『りな!りなありがとう!お礼に加護をあげるね』

『ぼくも!』

『私もー!』


多くの声が重なる様に響くと、自分の体がうっすら光りだして声をあげそうになった。


「おぉお。こんな生意気な女でも確かに聖女ではある様だな。お役目に感謝してしっかり働けよ!」


声は、聞こえなかったらしい王子が満足そうに言って去っていく。

さて、先ほどの声の話は…言わない方が良いか。


「お疲れ様です。聖女様。私は、聖女様の護衛騎士となりましたレオンと申します。お部屋までご一緒します」


言われるがまま、一緒に歩き出す。

にしても、レオンさん…イケメンでいらっしゃる。

あのわめく王子の様にいかにも異世界な青とか緑の色合いじゃなく金に近い茶髪なのもほっとする。


「あ、聖女って呼ばれると違和感しかないので、莉奈でお願いします」


「分かりました。莉奈様。我が国の王族の為に申し訳ございません。お力になれる事がありましたら、何なりとお申し付けください」


やっぱ他はみんな良い人なんだよなぁ…と黄昏る様な気持ちでぼーっと考えているうちに部屋へと着いた。

そうして自分の部屋と祈祷室の往復ばかりの日々が始まったのだ。




******




「聖女である上に王子の婚約者である以上、恥ずかしい真似をするな」


第三王子アルフォンスは、私が庭で小さな花に話しかけているのを見るたびに、そう言った。彼にとって私は「聖女」という称号を持つ装飾品でしかなく、婚約者という立場は政治的な道具に過ぎなかった。

この青頭め家具の角に小指をぶつけろ、と次祈祷室で祈ろう。


「この花にも神が宿っています。神様は一人だけではないのです」


私が聖女ぶってそう言うと、彼は嘲るように笑った。


「そんな世迷言をいつまでも吹聴するならタダじゃおかないぞ。お前1人ぐらい、俺にはなんとでも出来るんだからな」


蔑む様な視線を向けてから去っていく王子の背中に盛大に舌を出す。


「小指をぶつけるだけじゃやくて禿げてしまえ」


「誰かが聞いていたら、問題にされてしまいます。お気をつけて」


後ろからそう諌めるのは護衛騎士のレオンだった。彼は私が石に話しかけても、風に祈りを捧げても、決して嘲笑わなかった。むしろ、そっと見守ってくれた。


「レオンさんは、私のことを変人だと思いませんか?」


ある夕暮れ、私は尋ねた。


彼は少し考えてから答えた。


「変人かどうかはわかりません。でも、あなたが花と話すとき、その花は確かに生き生きとしているように見えます」


その言葉に、私は初めてこの世界で安堵を覚えた。




******



アルフォンスは寵愛する女性が居て、聖女を婚約者としながらも愛する女性を隠す気が無いのかと思うぐらい平然と逢瀬を重ねていた。

侯爵令嬢のセリアーナ。彼女は「唯一神に愛された家」として聖職者も多く排出した名高い侯爵家の令嬢だ。

アルフォンスの寵愛もあって、私の「多神教的」な振る舞いを公然と批判していた。

貴族や民衆にも不満が広がっていると主張していたが、外で祈りを捧げた事のない私の批判を貴族や民衆がするとしたら、それは誰かが故意に吹聴したという事だ。

そもそも貴族も民衆も、聖女は王家が誘拐してきて衣食住と婚約者の立場を理由に無償で働かせている事を知っているのだろうか、知っていたらそんな連中に悪く言われようが知った事ではない。

それでも直接私に害をなしたり、引きずり落とす事は出来ないらしく、ただ日々は続いた。


そんなある日、宮廷の広間で突然の告発がなされた。


「聖女リナの祈りは、唯一神に背くものだ!彼女は異教の神々に祈りを捧げている!」


セリアーナが証言者として立ち、私が「八百万の神」に祈っているのを見たと主張した。アルフォンスは厳しい表情で判決を下す。


「聖女リナ、お前の行為は神への冒涜だ。しかし、我々は慈悲深い。側妃として悔い改めの機会を与えよう」


私はその場で笑ってしまった。

アルフォンスは彼女を正妃にしたかった。しかし、自分が召喚させた聖女との婚約を破棄すれば政治的信用を失う。そこで彼が考えたのが、私の瑕疵を指摘して「側妃」という名の奴隷にすることだったのだろう。


「側妃?つまりセリアーナ様が正妃で、私は実質的な奴隷ということですね」


広間がざわめいた。


「アルフォンス殿下がセリアーナ様と密会しているのを、私だけでなく城の多くの者が何度も目撃しています。隠す気が無いのだろうと思っていたぐらいです。聖女を欺きながら、他の女性と関係を結ぶ――これこそ神への冒涜ではありませんか?」


私の言葉に、アルフォンスの顔が紅潮した。


「よくも……!お前は八百万の神などという冒涜的な思想を広め、さらに王子であるこの俺の名誉を傷つける!これは反逆罪だ!今すぐ国外追放だ!今日中にこの国から去れ!」


「仰せのままに」


「跪いて謝るなら…あっおい!貴様!」


気持ち良く続け様とした王子が、どうして私が謝ると思ったのか同じ城で暮らしても最後まで理解出来ない思考回路だった。


「ごきげんよう」


祈り宣う間に叩き込まれたカーテシーを披露してその場を去った。




******




私とレオンは、わずかな所持品だけを持って国境を越えることになった。



私が1人で城門を出るとき、レオンが言ったのだ。「私も同行します」と。


「いいんですか?騎士の地位を捨ててまで…」


「あの国にはもう守るべきものはありません」


彼の目は真剣だった。私は頷き、2人で西へと歩き出した。


道中、私は声をかけてくれる神様に出会う度に手を合わせた。道端の石にも、古い木にも、流れる川にも。


「神様たち、どうかこれからも私を見守ってください」


すると、不思議なことが起こり始めた。道が自然に開け、果実のなる木が現れ、優しい風が私たちを導くように吹いた。


「これは……」


レオンが驚いて周囲を見渡した。


「八百万の神様が味方してくれているんです」


私は笑った。


「どこに行っても、私たちは幸せになれますよ」




******




私たちが去ってから一ヶ月後、王子アルフォンスとセリアーナの華やかな結婚式が挙げられた。しかし、式の最中に異変が起こった。


突然、聖堂の彫像が崩れ落ちたのだ。

幸い死者は出なかったが、これは不吉な前兆ではないかと――民衆のみならず、王族の手前大っぴらには言われる事は無いが貴族の間でも囁かれる事となった。


それからというもの、王国では次々と問題が発生した。


農作物は実らず、井戸は枯れ、家畜は病気で倒れた。

貿易路は自然災害で寸断され、隣国との関係も悪化した。


「どういう事だ!誰か!なんとかしろ!」


王子は私を召喚した時の様に周りの者になんとかしろと叫ぶだけで何一つ対策は取れないまま悪化の一途を辿った。


最も深刻だったのは、王国の誇る

どんな災害でも濁らず、枯れる事の無かった「聖なる泉」が濁り始めたことだ。


「これは神の怒りだ!」


民衆の間でその噂が広まった。彼らは、聖女を追放した罰だと囁き合った。


宮廷魔術師団は原因を調査したが、どの魔法も効果がない。セリアーナも唯一神へ祈るが何も起こる事は無かった。


「神々が、この国から去られたのでは…」


ある老魔術師が思わず呟いた。


「私たちは、数多の神々の存在を否定し、唯一神だけを崇めてきました。しかし、森羅万象に神が宿る――あの聖女の言葉は真実だったのかもしれません」


アルフォンスはその報告を聞いて怒り狂った。


「ばかな!あの女は異端者だ!」


しかし、彼の言葉に力はなかった。王国は日に日に衰退し、民衆の不満は頂点に達していた。




******




一方、私たちは西の小さな村にたどり着いていた。村は貧しく、作物もあまり育たない土地だった。


「ここで少し休みましょう」


レオンが提案した。私は頷き、とりあえず村長に許可を得るものだという言葉に従って一緒に村長に会いに行った。


「私たちは旅人です。しばらくの間、ここに住まわせていただけませんか?」


村長は困ったように首をかしげた。


「歓迎したいが、この村は貧しい。余分な口を養う余裕はないのだよ」


「それなら、お手伝いさせてください」


私は早速、村の周囲を歩き回った。

枯れかけた畑、水量の減った川、元気のない果樹……


「土地の神様、水の神様、木の神様……どうかこの村を豊かにしてください」


私はひとつひとつに声をかけ、祈りを捧げた。レオンは近くの森から木材を運び、壊れた家屋の修理を手伝った。


三日後、奇跡が起こった。


枯れていた井戸から清らかな水が湧き出し、畑には緑の芽が一斉に顔を出した。果樹には花が咲き、蜜蜂が集まり始めた。


「これは……!」


村人たちは驚き、喜んだ。


「あなた様は神の遣わした天使様だ!」


村長は感動の涙を浮かべた。


「私はただ、この世界の全てのものに神が宿っていると信じているだけです」


私はここぞとばかりに聖女っぽいと自分が思っている笑顔で微笑んだ。

と言うわけで、ここに住ませてくださいという下心を込めて。


「八百万の神様が、私たちを見守ってくれているのです」




******




村での生活は穏やかだった。私は子どもたちに、石にも木にも命があり、感謝の気持ちを持つことの大切さを教えた。


「お皿にもコップにも小さな神様がいて、乱暴に扱ったら痛いよ!って痛がっていると思うと全てを大事にできるでしょ?」


この村の人々はおおらかなのか、私のもたらした豊作のせいか私が八百万の神の説明をしても拒絶する事もなく、子どもたちに広める事も許してくれた。

レオンは護衛としてだけでなく、村の守り手として尊敬を集めた。


ある日、隣村から使者が来た。


「私たちの村でも作物が育たず、病気が流行っています。どうか助けてください」


私はレオンと視線を交わした。


「行きましょう」


隣村でも、私は同じことをした。土地の神々に祈り、村人たちと共に働いた。すると、また奇跡が起こった。


この噂はたちまち広がり、やがて私たちの元には様々な村や町から助けを求める人々が訪れるようになった。


「八百万の神に愛されし聖女様」


人々は私をそう呼んだ。私はその呼び名に複雑な思いを抱きつつも、できる限り人々を助けた。




******




一方、アルフォンスの王国は完全に崩壊の道を歩んでいた。

莉奈の追放からたった半年後には、民衆の反乱が起こり、アルフォンスや王族は城を囲む民衆に声を荒げた。


「民衆の分際でどう言う事だ!誰か!あれをなんとかしろ!」


城はあっという間に明け渡され、捕まった王族は見せしめとなった。

セリアーナは実家に逃げ帰る途中で行方が分からないそうだ。

反乱軍が組織されていた訳でもなく、先頭に立って率いる英雄も居なかった事から王国は諸侯による分割統治状態に陥った。

そのうち、周囲の国に吸収されるのかもしれない。




******




ある春の日、私はレオンと丘の上に立っていた。眼下には、私たちが助けた村々の豊かな風景が広がっていた。


「あの時、追放されなければ、私たちはここにいなかったでしょうね」


私は風に髪をなびかせながら言った。


レオンは私の手をそっと握った。


「あなたがどこにいても、私はついていきます」


彼の目には、もはや護衛騎士としての義務以上のものが輝いていた。


「レオンさん……」


「リナ、私はあなたを――」


彼の言葉は、突然の光に遮られた。私たちの周囲に、無数の優しい光が舞い降りた。それは風のように、水のように、土のように、様々な形をとりながら私たちを包み込んだ。


八百万の神々の祝福だった。


私は涙が止まらなかった。


「ありがとう……ありがとうございます……」


この世界に召喚されたときは、孤独で不安だった。しかし今、私は無数の神々に見守られ、愛する人に支えられ、人々から必要とされていた。


アルフォンスに追放されたことは、不幸ではなく、真の幸せへの第一歩だった。


「これからも、この世界のすべての神と、あなたと、手を取り合って生きていきます」


私はレオンの手を強く握り返し、輝くばかりの未来を見つめた。


八百万の神々は、そよ風となって私たちを優しく包み、新たな物語の始まりを告げたのだった。

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