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第3話:深淵のネオΣ


 「秋月……なぜだ、なぜお前が……」

 豊の震える声は、加速する黒いバイクの爆音にかき消された。

 

 コンテナ埠頭に静寂が戻る。シンクロが限界を超えた豊は、電人の姿を維持できず、バイクの傍らで膝をついた。その身体は、今にも夜風に溶けてしまいそうなほど薄くなっている。

 

「お兄ちゃん! しっかりして!」

 美希の叫びが聞こえるが、触れることはできない。豊は必死にザボーガーのハンドルを握り、現世に己を繋ぎ止めた。

 その頃、湾岸の地下深く。

 最新のホログラムが明滅する無機質な空間で、秋月玄は膝をついていた。

 

「……失態だな、秋月。大門豊の『遺産』を回収し損ねるとは」

 

 冷徹な声が響く。モニターに映し出されたのは、組織の首領――悪之宮あくのみや

 かつて豊の父と袂を分かち、人間の魂をデジタルデータとして「部品」のように扱うことで、世界を支配しようとするマッドサイエンティストだ。

 

「申し訳ありません。ですが、あのマシンの出力は想定外でした。まさか大門の意識が定着しているとは……」

 

「ククク……素晴らしい。死者の怒りを動力源にするか。大門博士、君は最高の玩具を残してくれた。秋月よ、奴を『分解』しろ。奴の魂を解析すれば、我がネオΣの軍団は真の不死を得る」

 悪之宮の背後には、培養液の中に浮かぶ無数の「脳」と、それらを組み込まれた異形のサイボーグ兵士たちが並んでいた。

 ネオΣ。彼らは科学を悪用し、死をも支配しようとする「死神の商団」だった。

 

 一方、豊は父が遺した隠れ家――古びたマリーナの地下ドックに辿り着いていた。

 そこにいたのは、父の助手だった老メカニック、松江。

 

「豊……本当にお前なのか? その身体……」

「松江さん。父さんは……あいつらは何をしようとしているんだ」

 

 松江は苦渋に満ちた表情で、ザボーガーのコンソールにデータ端末を差し込んだ。

 

「ネオΣは、人間の『負の感情』をエネルギーに変換する技術を完成させようとしている。秋月くんは、その最初の実験体にされたんだよ。彼を動かしているのは、もはや友情ではなく、組織に植え付けられた『憎悪』のプログラムだ」

 

 豊の拳に蒼い火花が走る。

 

「……あいつを、あんな風にした奴らを許さない。松江さん、ザボーガーを強化してくれ。今のままじゃ、秋月の速さには勝てない」

 

「無茶を言うな! これ以上のシンクロは、お前の魂そのものを焼き尽くすぞ!」

 

「構わないさ。俺はもう、半分死んでいるんだ」

 

 その時、ドックの扉が爆圧で吹き飛んだ。

 ネオΣの暗殺部隊が、豊を逃がすまいと追撃してきたのだ。

 

「見つけたぞ、亡霊。……ここが貴様の二度目の墓場だ」

 

 立ちふさがるのは、ネオΣが放った量産型サイボーグ兵士たち。

 豊は朦朧とする意識の中、再びザボーガーに跨った。

 

「……行くぞ、ザボーガー! 奴らに、俺たちのエンジンの音を刻んでやれ!」

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