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第2話:裏切りのチェッカーフラッグ


 「……貴様、その姿……何者だ!?」

 黒いプロテクターに身を包んだ暗殺者が、たじろぎながら叫ぶ。

 

 だが、大門豊には答える言葉などなかった。

 今の彼を満たしているのは、電子の脈動と、腹の底から湧き上がる噴火のような怒り。

 人とマシンが完全に溶け合った「電人ザボーガー」のボディが、バチバチと蒼い火花を散らす。

「俺は、お前たちが殺した男だ」

 低く響く声は、もはや人間のそれではない。排気音のような凄みを帯びた重低音。

 豊は地を蹴った。

 時速200km/hを超える初速。人間の動体視力を置き去りにする速度で、ザボーガーの拳が暗殺者の胸部を叩く。

 ドゴォォォォン!

 爆音と共にコンテナがひしゃげ、暗殺者が後方へと吹き飛ぶ。

 だが、相手も並の人間ではなかった。空中で体勢を立て直すと、その腕から高周波ブレードを展開し、目に見えぬ速さで斬りかかってくる。

「死んだ男が這い出してきたか。面白い、もう一度スクラップにしてやる!」

 激突する鋼鉄と鋼鉄。

 暗殺者のスピードに、豊は次第に追い詰められていく。実体を持たない亡霊の身体は、シンクロが乱れればそのまま消滅しかねない危うさを孕んでいた。

 

(クソッ……速い! だが、逃がすわけにはいかない……!)

 

 美希を守るという意志が、豊の「怒りの電流」を限界まで引き上げる。

 その時、ザボーガーの右腕に内蔵された回路が激しく発光した。

「逃がさない……! チェーンパンチ!!」

 ドォォォンッ!

 放たれた豊の拳。しかしそれは空振ったわけではない。

 拳と腕の間を繋いだのは、パチパチと音を立てる蒼い電磁波の鎖。

 

 生き物のようにしなる電磁鎖が、回避しようとした暗殺者の胴体を瞬時に絡め取った。

 

「なっ、なんだこの鎖は……!? 動けな……がはぁッ!」

 

 豊は鎖を引き戻すと同時に、渾身の力で相手を地面へと叩きつけた。コンテナの床が砕け、衝撃波が埠頭を揺らす。

 とどめを刺そうと拳を振り上げるザボーガー。だが、その一撃が止まった。

 

 衝撃で、暗殺者のバイザーが粉砕されていたのだ。

 剥き出しになったその素顔を見て、豊の思考が凍りつく。

 

「……秋月……? 秋月なのか!?」

 

 そこにいたのは、かつて共にサーキットを駆け、夢を語り合った親友、秋月玄だった。

 しかし、その瞳に宿っているのは友情の光ではない。冷酷な機械の輝きだ。

 

「……豊、か。クク……まさかそんな無様な亡霊になって生き永らえていたとはな」

 

 秋月は口角を歪め、吐き捨てるように言った。

 

「今の俺は、組織によって『本物の速度』を手に入れた。お前のような情熱に縋る旧式など、もはやライバルですらない」

 

 秋月は背後の闇から現れた黒いバイクに飛び乗ると、挑発するようにエンジンを吹かした。

 

「次に会う時が、お前の本当の葬式だ。……あばよ、死に損ない」

 

 黒い閃光となって消えていく秋月。

 一人残された豊は、震える自分の手を見つめていた。

 救いたかった親友が、自分を殺した組織の手先になっている。

 

 夜明け前の風が、実体のない豊の身体を冷たく吹き抜けていく。

 

「秋月……俺は、お前を連れ戻す。……たとえ、この魂が燃え尽きることになっても」

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