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第1話:亡霊は夜を往く


 深夜の湾岸線。街灯が等間隔に落とすオレンジの光を、一筋の「影」が切り裂いていた。

 エンジン音はない。代わりに響くのは、空間そのものを震わせるような重低音の「唸り」。

 

 大門豊は、透明な自分の手でハンドルを握りしめていた。

 正確には、握っている感覚はない。ただ、バイクを構成する金属パーツの一つ一つが、自分の神経系に直接繋がっているような奇妙な全能感だけがあった。

 

「……これが、今の俺の姿か」

 

 バックミラーに映る自分の顔は、ノイズが混じったホログラムのように絶えず揺らぎ、時折、背後の景色が透けて見える。

 

 バイクを降りれば、俺は消える。

 この鋼鉄の馬こそが、今の俺にとっての「肉体」なのだ。

 

 不意に、バイザー内にアラートが点滅した。父がザボーガーに隠していた特殊センサーが、異常な「高エネルギー反応」を検知したのだ。

 

「ザボーガー、行くぞ。……奴らの臭いがする」

 

 豊がスロットルを回すと、バイクのサイドカウルから**【ヘリキャット】**が分離。プロペラ音を立てずに夜空へと消え、豊の網膜にリアルタイムの俯瞰映像を映し出した。

 

 映像の先――コンテナ埠頭。

 そこには、漆黒のプロテクターに身を包んだ「異形の男」が、うずくまる女性を冷酷に見下ろしていた。

 

「逃げても無駄だ、美希。大門の遺志を継ぐ者は、一人残らず排除する」

 

 女――美希は、豊の妹であり、あの事故の真実を追う唯一の家族だった。

 男が腕を振り上げる。その腕は肘から先が機械化され、鋭利なブレードが月光を反射した。

 

「やめろ……ッ!!」

 

 豊の咆哮と同時に、ザボーガーがコンテナの影から飛び出す。

 タイヤがアスファルトを削り、火花が夜の闇を照らした。

 

「……誰だ!? ライダーだと?」

 

 異形の男――新Σの暗殺者が驚愕に目を見開く。

 豊はバイクを急停止させると、美希を背に庇うようにマシンを横滑りさせた。

 

「お兄ちゃん……? うそ、生きていたの……!?」

 

 透き通るような兄の姿に、美希が震える手を伸ばす。

 だが、その指先は豊の頬をすり抜け、虚空を掴んだ。

 

「来るな、美希! 今の俺に……触れちゃいけない!」

 

 絶望に胸が締め付けられる。だが、それ以上に熱い「怒り」が豊の芯を焼いた。

 妹を、家族を、俺の人生を奪った奴らが、今また目の前で命を弄ぼうとしている。

 

 ドクン、と。

 壊れたはずの心臓が、ザボーガーのピストンと同期して跳ねた。

 

「俺の命を奪ったことを……地獄で後悔させてやる!」

 

 豊の身体から蒼い放電が溢れ出し、バイクのフレームを侵食していく。

 カウルが割れ、内部のギアが複雑に組み変わる。豊の四肢は装甲と一体化し、ヘルメットはそのまま「電人」の頭部へと変貌を遂げる。

 

「転身――ッ! ザボーガァァァーッ!!」

 

 立ち上がったのは、バイクの魂を宿した鋼鉄の巨人。

 その胸部から漏れ出す蒼い光が、暗い埠頭を昼間のように照らし出した。

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