プロローグ
視界が、真っ赤に染まっていた。
鼓膜を突き破るような爆発音。アスファルトを滑る皮膚の焼ける臭い。
そして、何より冷酷だったのは、遠ざかっていくライバルマシンのテールランプだ。
(……ああ、俺は、ここで終わるのか……)
大門豊の意識は、急速に冷えていく。
指先一つ動かせない。肺に吸い込むのは酸素ではなく、黒煙と絶望だけだ。
だが、その薄れゆく意識の淵で、彼は聞いた。
キュルル……ドォォォォン……!
自分と同じく、無惨に大破したはずの愛車のエンジンが、激しく、まるでおえつを漏らすように脈動するのを。
『――シンクロ率……規定値クリア。魂の定着を開始します』
無機質な機械音声が脳内に直接響く。
瞬間、全身を焼き尽くすような「怒り」の電流が走った。
「ふざけるな……。こんな、汚い真似で、俺の夢を……俺たちの絆を終わらせてたまるかッ!」
豊の叫びに呼応し、バラバラになったカウルが、千切れたケーブルが、生き物のように蠢きだす。
火を吹いていたエンジンが、蒼い電子の光を放ち、周囲の時間を止めたかのような静寂が訪れた。
数分後。
救急車のサイレンが近づくサーキットに、一台のバイクが立っていた。
ライダーの姿はない。いや、影のように透き通った「何か」が、ハンドルを握っている。
「……行くぞ、ザボーガー。俺たちが止まるのは、奴ら全員を地獄に送った後だ」
夜の静寂を切り裂き、蒼い火花を散らしてマシーンが加速する。
これが、長い長い復讐劇の、最初のチェッカーフラッグだった。




