月夜国と太陽国の和平の使者と女王の政略結婚
初めまして。またはお久しぶりです。神寺柚子陽と申します。
今回、18年あたため続けた話を書いてみました。
普段は刀剣乱舞二次創作のほうを書いており、オリジナル小説は久しぶりの投稿になります。
読んでいただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願い致します。
この物語は、月夜国の女王、黒猫まいと太陽国の王子、ユエ=アークライトの恋物語である。
物語は月夜国に太陽国の使節団が送られてくるところから始まる。
月夜国は夜と月と狩猟を司る神、ルミナスを主神と崇め祀る国。多民族国家で獣人と精霊の国だ。この国は世界を創った創造主、黒野ノアのお気に入りとされ、ノアの従者、天津蒼空が初代国王を務めたとされる国である。この国は代々、月猫族が治め、黒猫まいが27代目の国王である、
そんな月夜国は隣国、太陽国と親しい間柄だ。
太陽国は昼と太陽と音楽を愛し司る神、アポロンを主神と崇め祀る国である。一神教で民族はみな気持ちいいくらいに明るく朗らかで大らかだ。この国の王はソルス=アークライト国王と言って、建国から数えて24代目の王だ。御歳49歳にして子沢山で、ユエ=アークライトはこの国の8番目の王子だ。
ユエは太陽国の使節団を引き連れ、真水の海を超え、島をいくつも巡り、月夜国の首都、紅月の都の主城、紅月城にやってきた。
いくつもの出し物の歓待を受け、踊り子が舞い、典雅な音楽が奏でられる。それは夢のような時間。その合間に食事が提供され、ユエ達一行は酒に酔いしれ、食事と楽と踊りに舌鼓を打つ。そして夜も暮れて使節団の男達には女があてがわれ、ユエには女王まいが直々に相手をすることになった。
寝所で待っていたユエに黒猫まいは言う。
「女は初めて?」
ユエは首を横に振り、おおらかにゆるりと微笑む。
「これでも王子だ。泣かしてきた女の数は知れないよ」
そしてまいの腰を掴み、押し倒して行為に及ぼうとする。だがまいはそれをつまらなさそうに見下ろして押しとどめ、立ち上がってベッドの傍らに置いてあるサイドテーブルの上の赤い火酒を手に取り、ユエに押し付ける。
「まずは吞みなさい。話をしましょう。太陽国はどうして月夜国に使節団を? 和平の為とかでもないでしょう?」
ユエは受け取ったお酒をボトルでくいっと直接呑んでまいに返す。まいはお酒を受け取り、自分もボトルで直接お酒を飲む。のどを焼く火酒の味が心地よく夜の風と空気を感じさせる。ユエは考えに考えて口を開く。相手は月夜国の女王、粗相があってはいけない。考えた末に出た言葉はこんな言葉だった。
「あなたに惚れたからです、女王。あなたと結婚したくて和平の使者に名乗り出ました」
まいは冷たい女王の目でユエを見る。
「嘘」
そしてユエを押し倒し、首に果物ナイフを押し付ける。
「本当のことを話しなさい。でないと首をかき斬るわよ?」
ユエは首筋の冷たい感触に恐怖し、冷や汗をかく。本当のことは言いたくても言えない。それは国の機密事項だからだ。本当は大国、星砂国の侵略に困っているから手を貸してほしいとは、言えないのだ。――だからユエはまいに愛をことほぐ。それが最善の手段と信じて……。ユエは首筋のナイフを押しとどめ、真剣にまいを見る。
「本当です。あなたを式典で見た時からあなたに婿入りしたいと願っていました。どうか俺と契りを結んでください!」
ユエはまいの腰を抱き、馬乗りになる。まいは信じられないものを見る、大きく見開いたツリ目でユエを見て、ユエの胸を押し返す。
「冗談じゃないわ。それこそ嘘でしょう? あなた、本当に小さかったじゃない……!!!! わたしに懸想するような年齢じゃなかったわ!!!!」
今度はまいが上になり、ユエに詰め寄る。
「言え! 言いなさい!! 何が目的……?!?!!」
ユエはお手上げとばかりに両手を上げ、観念してまいに言う。
「さっきのも本当ですが、使節団の狙いは月夜国から兵を出させることです。女王、お分かりですか? 星砂国が攻めてきているのです」
「セレスティア国が?」
女王まいはユエの上から退く。そして考えをまとめ、こう言った。
「セレスティア国が攻めてきているなら、もうじき我が国にも奴隷を狩りに来るでしょう。太陽国の次は我が国か、中立国である貝の国ファルン国。あの国は動かないでしょうから必然的に我が国が槍玉にあがる……と云うことは……戦争ですか?」
ユエは身を起こし、重々しく頷く。
「ええ、そうなるでしょう。わたくし共も和平の使者を送りましたが帰ってこなかった。きっと殺されたか奴隷になったのでしょう」
「なるほどね。では、わたし達はあなた方に協力するしかなさそうね。いいでしょう。協力します。……それはそれとして、あなた、わたしに婿入りするとは本気?」
ユエは嬉しそうににこりと笑う。そしてまいの手を握り、こう言う。
「ええ、本気ですよ。小さい頃にあなたを見てからずっと目に焼き付いて離れなかったんです。あなたの姿が。……よければ結婚していただけませんか?」
まいははにかみ笑い、自分よりも若い男を上から下まで値踏みする。顔は悪くない。身長もそこそこある。地位は自分よりも下。だけどこの男は誠実そうだ。この国の女王の伴侶として申し分ない格がある。仕事は……悪いけれどこれから見ていこう。
(決めた! この男にするわ。月夜国の運命、この男に託そう)
女王まいはにこやかに笑い、王子ユエの体に自分の体を重ねる。
「いいわ。あなた、婿に来なさい。契りを結びましょう」
ユエは嬉しそうに破顔する。
「わあ、嬉しいですね。それではまずは今夜、よろしくお願いします」
そして女王まいの腰を抱き、押し倒して行為に及んだ。
一夜明け、使節団の男達はそれぞれの女達と別れを惜しみ、逢瀬の終わりを告げる。まいとユエもただの女と男として逢瀬に別れを告げ、女王と使節団の団長である王子としての顔で相対する。ユエは使節団の仲間に成果を報告する。
「みんな聞いてくれ! 同盟が成った! 俺は女王黒猫まいに婿入りする!! 兵を出してくれるそうだ!!!」
使節団が歓喜に湧く。ユエの幼い頃より側仕えをしてくれている男、ロウガ=フローライトがにこにこ顔でユエに話しかける。
「よかったですね、ユエ様。おめでとうございます」
「ああ」
ユエは確かな成果を感じていた。この使節団は成功だ。故郷に錦を飾れるぞ。この報告をすれば王はきっとユエと使節団を褒めてくれるはずだ。ユエは期待に胸を躍らせ、女王まいに意味ありげな視線を送った。
その視線の受けた黒猫まいは、一晩寝ただけの婿を思い上がった男と見て取り、眉を曇らせる。一夜寝て、契りを交わしたのは早まったかもしれないと思った。それだけ尻の青い男だったのだ、ユエ=アークライトは。――……それでも和平は和平、同盟は同盟。ユエはまいの婿になることが決まった。
使節団が帰り、まいは月夜国の守護神、天津将軍と会談する。場所は紅月城の女王の執務室。紅月城の一番奥まった場所にある部屋だ。そこでまいが天津将軍を待っていると、宰相の桜紅葉が来て、星砂国、またの名をセレスティア国の動向を報告してきた。
桜紅葉は女王に拝礼して進言を述べる。表情は張りつめている。まいはこれからよくないことが起こることを悟った。
「主上、セレスティア国の動向ですが、どうも各国にきな臭い侵略のきざしが有ります。太陽国には同盟を出すとのことですが、いかがしますか?」
まいは考えるまでもなく、即座に答える。
「これから天津将軍に会います。そしてこう言います。あなたが軍を率いて太陽国に向かい、太陽国と一緒にセレスティア国の軍を退けてくれないかと」
執務室の扉が乱暴に開けられる。そして天津将軍が顔を出した。
「話は聞かせてもらった。軍を率いろって? 太陽国に何の恩がある?」
桜紅葉が「天津将軍、無作法ですよ」と天津将軍をたしなめる。それに天津将軍はチッと舌打ちをしてどっかりと長椅子に腰を下ろす。そして持ってきた清酒をあおり、こう言った。
「オレは不死身だが、部下どもはそうじゃない。勝算はあるんだろうな?」
天津将軍は桜紅葉と女王まいを睨みつける。
桜紅葉は手元の書類を繰り、天津将軍に進言する。
「この書類を見てください。月夜国とセレスティア国の戦争の勝率を描いた資料です」
天津将軍はそれを受け取り、眉間にしわを寄せる。
「こんなもの、なんの役に立つ? 戦場は数字じゃ測れねえ。それをお前たちもよく知っているだろう?」
天津将軍は書類に全て目を通して、机の上にそれを投げ捨てる。桜紅葉はその無骨な所作を見とがめ、眉間にしわを寄せる。それでも構わず桜紅葉は進言する。
「統計学です、天津蒼空将軍。この国の軍はあなたが率いるようになってから、セレスティア国との戦争に勝率4割を叩きだしている。あなたならあの国に勝てるでしょう」
「6割は負けている。また同朋を捕虜の奴隷に差し出すのか? まっぴらごめんこうむる。軍を率いて出よと? お断りだ!!」
天津将軍は清酒をもう一度ぐいっとあおる。呑んだくれの将軍に何ができるだろうか。天津将軍とは呼ばれているが、この地位は名誉職である。建国当初から生きている天津翁は若々しい18歳の青年に外見は見える。だがその実、千年を超える年寄りだ。世の中を諦観した目で見ている。
女王まいは天津将軍に近寄り、清酒を取り上げて命じる。
「あっ、オレの酒!!」
「天津将軍、国王であるわたしが命じます。軍を率いて太陽国に行き、太陽国の兵と一緒にセレスティア国の侵攻を食い止めてください!」
天津将軍は頭を掻き、口をへの字に結んで清酒を取り戻す。そして重々しく拝礼し、執務室を出て行った。
天津将軍はまず軍を編成した。月猫族、月狼族、時兎族、月竜族、銀狐族、火精族、風精族、水精族、土精族、人魚族などの多種族から成る兵だ。この兵たちで陸から海へ攻める。太陽国は大きな太陽型の島国だ。攻め入るには塩水の海を超える必要がある。セレスティア国は巨大な軍事力と莫大な資金源である鉱脈を持つ国で、世界に版図を広げようとする侵略意欲の強い国だ。この国に侵略されて属国に成り下がった国は後を絶たない。だが、月夜国と太陽国、ファルン国はこの侵攻の魔の手をかいくぐり、退けて長くこのセレスティア国と戦っている。今日明日始まった話しではないのだ。この攻防戦は。故に天津将軍は悩む。どうすればより兵を失わずにこの侵略を退けられるか。……悩んで出した答えは陽動作戦だった。海から人魚族を主力とした兵をセレスティア軍の侵略船にぶつける。そうして引き付けたところで、陸側から船に乗り込み、殲滅する。それしかないだろう。
天津将軍は軍を率い、激戦を繰り広げる太陽国沿岸へ向かった。そうして地獄を見た。なんとか太陽国軍と合流し、同時軍事作戦を展開したが、太陽国は粘り強く戦い、月夜国はそれを援護したが、結果は引き分け。泥沼の泥試合は幕を閉じた。
月夜国の女王まいの元に軍事作戦結果の知らせが届く。伝令として戦場に向かった月猫族一の俊足の持ち主、クロネ=クロナが帰ってきて、月夜国に知らせを届けたのだ。
「女王、今回の戦、引き分けですにゃが、星砂国の侵攻は退けることができましたにゃ。もうじきあのユエという王子が輿入れしてくるそうですにゃ。どうしますかにゃ?」
手紙を読んだ女王まいは頷く。
「出迎えましょう。兵たちの凱旋を祝う宴とともにユエの輿入れを認めます。クロネ=クロナ、使いに出てくれますか? 太陽国の王のもとまで」
「ははあっ!」
クロネ=クロナは頭を下げ、女王の執務室を退く。女王まいはベランダに出て、真水の海を望む夜景を眺め、手を合わせて今回死んでいった兵たちの死を悼む。そうして2つある月を眺めて呟く。
「ユエとは太陽国で月という意味の名前だったわね……来るのかしら? あの人……」
セレスティア国に対する、太陽国と月夜国の合同軍事作戦から1カ月後の夏、月夜国の首都・紅月の都は、戦争の凱旋パレードとユエの輿入れを祝う祭典で大いに賑わっていた。
ユエはまいとともにパレードに顔を出し、女王の婿として振る舞う。祭りは太陽国の者たちも観覧に来て、大盛況で幕を閉じた。
夜、寝所で待つユエに女王まいは言う。
「来たわね」
「約束ですから。これからも俺は太陽国の和平の使者として、太陽国と月夜国を結びます。その為の第一歩に……まいさん、子供を作りませんか?」
まいはにまりと笑い、ユエを押し倒した。
END.
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