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神様に『万が一の救済者だ』と言われてますが、実質出番は無いはずですよね?  作者: 杜槻 二花


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私が守護女神って何の話でしょうか?

 騎士三名に連行された聖女様の姿が見えなくなると、アドリアーナ公爵令嬢は私の方に向き直り、

「聖女様に絡まれてしまって大変だったわね」

 と、申し訳なさそうな表情を浮かべながら言った。口元を隠していても存外表情がわかるものだなと思う。つまり、わかるようにコントロールしているのだと考えられる。……聖女様より格上の女優が目の前に。


「お目にかかれまして光栄にございます、わたくしは」

 それまで半ば呆然と状況を観劇していた私は、自分に声が掛かったことに気が付き、慌ててアドリアーナ様に拝礼を行おうと頭を下げようとした。すると、アドリアーナ様は柔らかい微笑みを浮かべて、私をやんわりと止めた。

「構わないわ、楽にしてちょうだい。先程も長らく挨拶させられていたのだし、気にしないで。私はクローディア侯爵家の娘、アドリアーナ・テレーズ」

「はい、存じております」

「わたくしも貴女のことを聞き及んでいるの。戦地での活躍ぶりから『ブロンテの守護女神』と呼ばれていらっしゃるそうね」


「……は?」

 初めて聞く言葉に耳を疑い、うっかり高位貴族の前で漏らしてはいけない声が出た。


 聞き慣れない言葉に動揺してまぶたをぱしぱしと高速で動かしていると、

「あら、本人には伝わっていないのね」

 そう言って、アドリアーナ様は優しげな表情を浮かべながらクスクスと上品に笑い声をあげた。

「戦場を補給品背負って治癒して廻った治療師。必要に迫られれば、短剣で魔獣を倒して救助をしていたそうね」

「……仕事、でしたので?」

 迂闊なことを言ってはいけないような気がするが、なんと答えたら良いのかがわからない。


 実際治癒師は皆、治療道具などは自分で背負っていたし、戦いの心得が多少でもある者は、露払い程度に魔獣を倒していた。……私一人のことではない、はず。

「治療師としての技術も確かで他の人よりも確実に治し、魔力量も多くて他の人よりも多く癒やした。本当なら貴女のことこそ『聖女』様と呼びたいところ、()()聖女様と混同されるのも不味いからと『女神』と呼ぶことにしたとも聞いたわ」

 よほど印象に残ったのね、とアドリーナ様は仰った。

「いえ、あの……」

 確かにまあ、ちょっと前世の記憶があるお陰で効率良く治癒ができたり、……魔力量も体力も、他の治癒師より多いのは事実なので、結果人より動いてたのも確か。なのでまあ、相対的に見て目立ってしまったのかなとも思うが、だからといって『女神』なんて呼ばれるような神々しさを醸し出した覚えは一切なく、むしろ騎士様方には叱咤激励に見せかけた暴言を吐いた記憶すらあるので……、戦場の真っ只中で背中を蹴飛ばした結果、鬼だ、悪魔だと叫ばれた覚えはあれど、『女神』などと呼ばれた覚えはひとつもない。


「他の治療師が恐怖で動けなくなっているところへ、怯みもせずに切り込んで道を作り、倒れた騎士を治癒して補給品を手渡し、誰もが諦めていた場所に一人辿り着いて、籠城していた領民たちに無償で支援品を手渡した」

 確かに言葉にするとその通りなのだが、どうにも肯定しずらい。なにせ無償やら格安やらは国との契約だし、他はちょっと慣れていただけなので。

「あー……、幼い頃に兄と共に剣術を嗜んておりまして、祭事の狩り等に参加したこともありますので、他の治癒師よりは免疫があったと言うのが大きいのでは、と思います。そもそも騎士様への治癒や補給品提供は国や教会との契約の元(おこな)っているものですし、支援品の提供も商会に対する信頼度を上げるためでもありますし、今後の商会ルートを開拓する計画の一端でもあります。正直言って下心満載ですので、『女神』と言われるのは大変心苦しいのですが……」

「成る程、本人も否定しないということは、今言ったことは本当に行なわれたのね」

 アドリアーナ様は、私の言葉にニンマリというように目を細めた。口元は扇子で隠しているけれど、恐らく口角は上がっているのだろう。

「あ、いえ……、商会開発の魔道具で安全を確保しつつ……、でしたので……そんな無茶はしてないかと……」


 まさかの事実確認だった。

 確かに人づてに聞いただけならば嘘のような話だ。客観的に聞いてみると確かに少々人外じみた話だし、「拡大解釈されています」とかなんとか言って、多少マイルドに誤魔化した方が良かったのか。……なんだか、言い訳するたび泥沼に嵌っている気がする。

「十代前半の少女が、家業のためにと危険地帯に入って流通経路を開拓するなんて理由で行動することも、訓練を欠かしたことのない騎士達が窮地に陥った場へ足を踏み入れて支援することも、そのどちらに対しても成果を上げ無事戻ってくることも、そうそう出来ることではありません。それが三年も続けば当然人々の心に残ります。貴女が商会用にとこの三年で作った『流通経路』は、そのまま補給品や支援品を運び込む『流通経路』として確立され、現場は魔獣の被害を最小限に抑えることができたと聞きました。ブロンテ商会への報奨は、貴女への褒美も多く含まれているはずです。目録はご覧になりまして?」

「あー……いえ、まだ簡単に聞いた程度で」

 私の返事にアドリアーナ様は、そう、と頷いて今度は優しげな微笑みを浮かべた。

「そう、帰ってから確認なさると良いわ。……それと、そうそう。聖騎士ライナスの想い人だとも聞いたわ。先程もその話を聖女様からされていたのでしょう?」


「……はぁ!?」

 思わず、高位貴族の前では漏らしてはいけない声パートⅡが出た。

 と、同時にアドリアーナ様の後方から、先程首を横に振った侍女殿の、少々恐ろしい視線が飛んできた。……大変申し訳ございません。

 だがしかし。


 聖女様から聞かされたばかりのおかしな話が、まさかアドリアーナ様の口からも発せられるとは、どういうことなのだろう。

「あら、違うの?聖騎士ライナスがそう言って聖女様の求愛を退けたそうよ。聖女様に言っただけでなく、魔王討伐を終えたら貴女に求婚するつもりなんだと、討伐に参加していた他の騎士団の方々にもお話していたとか。それも聞いていなくって?」

「初耳です……」

 私はアドリアーナ様の言葉に愕然としながら答えた。


 待って、なぜライナスは死亡フラグみたいなセリフを周囲に言いふらしているのか。断り文句として言ったにしても、せめて聖女様だけにしておけばいいのに。なぜ、後々困りそうなことをしているのか。

 ……ちょっと待って。まさか我が家族、既に知っているのでは?

ここまでお読みくださいましてありがとうございます。

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