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神様に『万が一の救済者だ』と言われてますが、実質出番は無いはずですよね?  作者: 杜槻 二花


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聖女様VS王太子の婚約者、その行方は?

「聖女様。護衛を撒いてまでこの様なところに来るものではありませんよ」

 アドリアーナ様は扇子で口元を隠しながら、聖女様に声を掛けた。ゆっくりとこちらに近づいてきているようだったので、私はすすすと動いて聖女様の前を空けて、アドリアーナ様の脇に控える。


 どうやらアドリアーナ様は、護衛を撒いて行方不明になっていた聖女様を探して、迎えに来たご様子だった。

 我が国の筆頭公爵令嬢が担う仕事ではないだろうに……庶民には図り知れぬ思惑が彼女を動かしているのだろうと思うと、思わず同情してしまいたくなる。

「この様な場所、なんて……王宮の一部ではありませんか。それに今日は無礼講、なのでしょう?」

 私はそう聞きましたよ!と、聖女様は憤慨したように返事をした。

 ……(たしな)められている点はそこではないと思うのだが、いやそこもか。


 先程からマナーの欠片くらいしか見せない聖女様相手に、アドリアーナ様は少なくとも表面的には真摯に対応されているようだった。ぱっと見ても王太子殿下を奪われたダメージは見受けられない。

「確かに王宮の一部ではあります。ですがこちらは現在、招待された上流階級向けに解放されている場所です。一応わたくし達も立ち入れますが、こちらで楽しんでいる方々が萎縮しないでいられるよう、また王族や高位貴族に知らず失礼を起こさずに済むよう、わたくし達の側からみだりに立ち入らないのが暗黙の了解になっているのです」

「そんな……そんな言い方身分差別過ぎます!まるで平民の方を信用していないみたいじゃないですか。そんなの皆に嫌われてしまいますよ!」

 悲しそうな表情を浮かべつつ大げさ気味に首を横に振りながら言い募る聖女様に、アドリアーナ様は困ったような表情を浮かべて――口元は扇子で隠したまま――、子どもを諭すように返答した。

「当然身分による差別化があるに決まっているではないですか。……以前から言っておりますが、王国にお越しいただいた時点で聖女様はこの世界の住人です。この世界の歴史やマナーを学習していただかなくてはなりません。そうでなければ、何故現在身分制度が設けられているのかご理解いただけないでしょう。聖女様に護衛がついている理由も。ここはもう聖女様が以前お暮らしだった世界ではないのです」


 倫理観と言いマナーと言い、聖女様の世界はゆるゆるの世界だったんだなぁ……と、脇で待機しながらぼんやりと考える。

 私の前世で住んでいた国は、民主主義ではあったけれど立憲君主制だったから天皇陛下がいらっしゃったし、当然彼の御方にご拝謁なんてそう簡単にできるものではなかった。皇族の方々も当然護衛がついてただろうし、行動制限の理由も理解してその範囲内で活動なさっていただろうしな……などともう遠い記憶に思いを馳せた。

 そもそも、同じ一般市民だったとて、大企業の社長クラスにもなれば直接顔を拝めないなんてこと山程あった。幹部クラスにもこっちの頭をガンガン下げなくちゃいけなかった記憶が山程。中小企業だったら社長さんもフレンドリーだったので、一緒にお酒飲んだ記憶なんかもあるけど。


 ……ところで私はこの場を失礼させていただいてもいいものでしょうか?

 ちらり、とアドリアーナ様の方を見やる。

 するとアドリアーナ様の後ろについていた侍女の方と目が合い……、首が横に振られた。

 どうやら許可なしに退場するのは駄目らしい。

 しかし、そろそろ現実逃避をするのにも疲れてきたので、早めに解放していただきたい。


 聖女様とアドリアーナ様が喧々諤々しているうちに、庭園の奥、王宮側から騎士姿の()()が三名程慌てたようにやってきた。

「申し訳ございません!」

 その謝罪はどうやらアドリアーナ様に向けて言ったようだ。成る程アドリアーナ様は、彼女たちの到着を待っていたらしい。心得ていたように対応した。

「お気をつけなさい。護衛対象を見失うなんて、失態にも程があります」

「そんな言い方!彼女たちは悪くありません!」

 アドリアーナ様に向かって、憤慨したように彼女たちを庇う言葉を募る聖女様。


 先程から何かとアドリアーナ様の言葉に対して噛みつく様子を見るに、アドリアーナ様の言葉は何ひとつ響いていないらしい。正直よくもここまで自己中心的な主観で会話し続けられるものだなと感心する。聖女様、只今二十一歳ではなかったっけ?と、召喚当時の年齢に三歳足して現在年齢を割り出す。アドリアーナ様は確か十七歳。これではどっちが年上なのかわらからないなと思う。


「そういうわけには参りません。貴女の安全を護るための護衛です。撒かれたなどとは言い訳にはなりません。そもそも聖女様が撒かなければ彼女たちは叱責される必要はなかったのです」

「そんな……だってこんなの不自由過ぎるから……!」

 そう言うと、聖女様は先程までの噛み付きから一転、両手を胸の前で組み、目を潤ませて悲しげな表情を浮かべてみせた。……もしや聖女様はご自分の世界で女優業でもなさっていたのだろうか。白々しいし、この場にいる誰も彼女の涙に惑わされることはないと思うが。……どうかな、遠巻きにしながらこちらの様子を伺っている男性陣はわからないな。

 さっきから会場になってる広間のテラスからチラチラ視線が飛んできてるんだよね……。


「自由不自由については、まずこの世界の社会学を学んでいただいてからです。本当に聖女様が現在不自由なのか。もしも本当に不自由だとしらたそれは何故なのか。聖女様のご希望される自由を手に入れるためにはどうしたら良いかを学んでください。その答えは決して護衛を撒くというものにはならないはずです」

 そう言い切ると、聖女様の言葉を待たずに護衛へ目を向けた。

「聖女様をご案内して差し上げて」

 護衛たちは揃って頷くと、聖女様を三方向から囲み、「失礼します」とひとりが肩を抱いて強制的に連れて行った。あの体制で連れて行くとはよっぽどである。

 因みに、「待って、彼女とまだ話せてない!言わないといけないことがあるの!」と私に対して何か叫んでいたが、無視して連れて行かれていた。

 なんか、子どもに対して教師が窘めていると言うか説教しているというか……うん、見てはならないものを見てしまった気がする。


 どうも聖女様の扱い、王宮では結構なものになっているらしい。……これ、庶民スペース(こんなとこ)で上演しちゃって良かったんだろうか。

ここまでお読みくださいましてありがとうございました。

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