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神様に『万が一の救済者だ』と言われてますが、実質出番は無いはずですよね?  作者: 杜槻 二花
第一章

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そして私は聖女に謎の言いがかりをつけられる。

 私がこの件(しゅらば)に関わることはない、呑気にそう思っていた時期がありました。


「彼と……ライナスと別れてください!」

 祝賀会の最中は上流階級向けにと解放されている、美しい花々が咲いた庭園を、休憩がてら鑑賞していたら、何故か聖女様に背後から謎の言葉を掛けられたのである。

 …………はて、なんのことだろう?


 私は、眼の前で両手を胸の前で組み、目を潤々とさせながら上目遣いにこちらを見ている、見た目楚々とした聖女の美しい顔を見ながら首を傾げた。

 何故貴女がこんな上流階級用スペースにおいでなさっているのでしょうか?貴女の扱いは王族相当なので、高位貴族用スペースがテリトリーのはずですが。というか、私より頭半分小さいですね、聖女様。


 周囲を見渡すと、彼女ひとりのようである。例の勇者チームも、護衛の姿も見当たらない。彼女がひとりでこんなところをウロウロしてるのは、普通に考えれば不味いのではなかろうか。

「お目にかかれまして光栄にございます、聖女様。ところでどなたかとお間違えではございませんか?」

 叙爵の話を事前に聞いて、慌ててマナー講師から学んだ貴族拝礼を披露しつつ、聖女様にご挨拶する。ドレスを着ていると優雅に見えるが、庶民服で練習していると、普段使うことのない筋肉が悲鳴をあげるばかりの謎ポーズである。共に学んでいた兄に爆笑された記憶が新しい。ちなみに兄の方は男性用の貴族拝礼が別にある。あちらの方が(らく)そうなポーズなのが羨ましい。腹立たしい事にあっさり習得した挙げ句、様になっていたのがこれまた悔しい出来事だった。

 

 この世界では、(おおやけ)の場で上位の方々にご挨拶をする場合、拝礼という独特なご挨拶を披露することになる。各階級でポーズが異なるんだけど、簡単に言うと自分より上位階級の人々に、敵意はなく敬意があることを示すために頭を下げる行為だ。下位になる程下げる角度が深くなる。聖女様は王族と同列扱いなので、公爵家ですら頭を下げる。当然上流階級でしかない我が家は、絶対に頭を下げる必要があるのだ。そしてお相手の許しがないと頭を挙げられない。そう、頭が挙げられないのだ。

「間違えていないわ。貴女ライナスの想い人でしょう?」


 ……聖女様には挨拶の概念が無いらしい。唐突に話しかけられたのもそうだが、私の挨拶に聖女様からの返しもなければ私の礼拝に許しも与えないまま、話の続きをし始めた。

「……そのような存在になった覚えはございませんが」

 許しがないので、こちらは頭を下げた姿勢のまま返答する。聖女様に後頭部を見せながらの会話は、お互い不都合だらけだと思うのだが、彼女は気にならないらしい。


 ……聖女様はこの国のマナーにあまりお詳しくないようなので、姿勢戻していいかな。戻しても彼女はきっと気にも止めないと思うが……まあ駄目か。

 この場所は、上流階級向けに解放されているとは言え、それ以上のご身分の方ならば自由に出入りできる。流石に王族や高位貴族の方々は、殆ど足を運ばないだろうけれど、下位貴族に当たる男爵家や子爵家の方々は普通に出入りしているし、気さくな方であれば伯爵家も滞留している。父の商会には伯爵家のお得意様もいるし、先程も貴族用の広間に足を運べない父のため、わざわざこちらに顔を出してくださっていた方もいらっしゃった。余計なことをせず、商会のためにも大人しくしておこう。

 ……まあ、聖女様がわざわざ上流階級のスペースにやってきて、下の者を虐めてたって噂が立つ可能性はあるかもしれないけど。

 

 そんな問答を現実逃避がてら頭の中でしていると、聖女様が更におかしなことを言ってきた。

「ライナスに直接聞いたのよ。幼馴染の子が好きなんだって。討伐が終わったら結婚を申し込むんだって言ってたわ!」

 待って、それは姉ことでは……?いや、姉はもう既婚者だからそれはないか。もし姉に求婚でもしたら物理的に血が流れる修羅場になってしまう、なにせ義兄も騎士なので。……もしかして他の幼馴染に現在想い人がいるのだろうか?年齢的にもう大概が既婚者か売約済みだけど、その可能性もゼロではないはず。勿論私も幼馴染(あね)の妹ではあるので、年が離れていても幼馴染にカウント出来なくもない。それにしても、初対面なのに何故私がその想い人だと断定してるのだろう?

「貴女ブロンテ商会の末っ子で、教会派遣の治療師をしてるんでしょう?」

 ……それは確かに私だけれども。

 出自も把握しているのであれば、間違いではないのか。しかし、顔まで割れているのはどういうことなの、ライナス。まさか聖女様へのお断りに、私をわざわざ指差しでもしながら教えたのか。


 私が愕然としていると、少し離れた場所から突然第三者の声がこの場に落ちてきた。

 「いつまでも、頭を下げさせているものではないと思いますが。彼女もその姿勢で居続けるのは辛いと思いますよ。聖女様」

「えっ、あっ、アドリアーナさん。どうしてここに?」

 聖女様の慌てた声音で呼ばれた名前は、我が国の筆頭公爵家のご令嬢アドリアーナ様と同じようだ。……王太子殿下のご婚約者でもある。

 御本人だとしたら、何故アドリアーナ様までこんな場所に足を運んでいるのか。我が国の貴族として完璧な教育を受けているだろう彼女が、この様な場所に迂闊に足を踏み入れるはずはないと思うのだけれど。

 

「わたくしのことよりも彼女を気遣ってください。ブロンテのご令嬢、わたくしが代わりに挙頭(きょとう)を許します。聖女様はこの世界のマナーに不慣れなの。許して差し上げて」

 そう言われて、ゆっくりと拝礼を終える。正直ありがたい。聖女様には悪いけど、本当に姿勢が辛いので。

 

 顔を上げると、高級紙にも掲載された姿絵そっくりの美少女、アドリアーナ・テレーズ・メディナ・クローディオ公爵令嬢がそこに居た。

 ところで私が誰なのか、筆頭公爵家のご令嬢にまで顔が割れているようなのですが、どういうことでしょうか。

ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

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