私の暴走が原因らしい。
「確かに前例と移動に使う魔導車の性能で出した計算によれば、遅く見積もっても勇者チームが停留しちゃった場所より二倍の距離を進んでてもおかしくなかったんだけどさ。実際は勇者チームも騎士団も停留してる状態だったわけよ。なのにひとりで予定の三倍以上を移動してたアンナは大分おかしいんだよなぁ……」
兄が半眼でこちらをじとりと見ている。ちらりと横を見たら、父も壁際で控えているバートンも半眼でこちらを向いていた。……反射的に目を反らした。
「いやだって……なんか魔獣の大群がいきなり現れて領地囲って籠城しているとか聞いちゃったから……、誰かが助けにいかないと駄目だろうし……、私はほら、小型結界持ってたから、むしろ身を隠しながら一人で動いた方が都合が良くて……」
商会で開発した魔道具の小型結界は、蓄魔石を使った移動用結界だ。直径約二メートルと範囲が狭く、ひとりで利用した方が都合の良い魔道具だった。それと父がお守りにと持たせてくれた、高品質の魔獣回避の守護が備わった魔石があったので、併用して一気に走り抜けた。
それでも遭遇した魔獣がいたので、その場合は強化と速度上昇の重ねがけ魔法で横をすり抜けたり、倒したりしてやり過ごしたのだが。
「アンナは聖女様じゃないんだから、本当はそこまでする必要はないんだよ。君の希望だからと治癒師として出る事に賛成はしたけど、死地に向かわせたわけじゃないんだ。まさか護衛団を置いて先行するなんて思わなかった。君の正義感が強いのは知っていたけれど、自分が万能ではないことを忘れてはいけないし、君が死んでしまったら悲しむ人がいるということを忘れてはいけないよ」
そう言った父の目はとても真剣で、うっと喉が詰まる。バートンと兄はウンウンと頷いていた。危険を犯した自覚があるだけに、胸が痛い。
「……心に刻みます」
「ホントかなぁ」
「アンナはそう言いながら、また困った人が居たら飛び出すんだよ」
真面目に返事をしたつもりなのに、父は不審そうな目をこちらに向けて首を傾げ、兄は呆れたような目をしながら肩を竦めた。
「つまりまあ、お前が魔導車どころか馬でも入れないような場所までさくさく先行し過ぎてて、スタッフが頑張って追いついた頃には渡せる情報が古くなってたの。だからアンナに、商会関係の動き以外は正確な情報を渡せなかったんだよな」
「ホント、大変申し訳ない……」
自分の情報不足が自業自得過ぎて、頭を抱えるしかない。
「じゃあなんでアンナが『守護女神』の呼び名で大衆紙に乗る羽目になったか。それはな、アンナがそうやって暴走した結果です」
そうだね、と父は同意するように頷き、兄の続きを引き継いだ。
「アンナがひとり暴走して先行した時、ルート開拓用に持たせていた標識杭を、通った道程にしっかり打ち込んでくれていただろう?あれのお陰で君が通った道をそのまま途切れなく開拓できた。無茶振りしながら突き進んだ割には、位置も数も正確だったお陰で随分とスムーズにこちらも作業ができたものだから、かなりの距離分、道中の安全が確保出来るようになってしまったんだよねぇ」
「……それは、良かった、んですよ、ね……?」
ちょいちょいと心に刺さる言葉をチョイスされているが、悪いことではない……筈なのに、やらかした感があるのは何故だろう。
因みに、標識杭というのはその名の通り目印になる魔道具だ。微弱な魔力を有する物質を使って作られていて、それ単体では目印としての役割しか持たない。ただし、魔道具内の魔力が完全に失われることはないので、壊れない限り目印としての役割を果たす。識別のために魔力に反応する色や文字を刻むこともできるので、何かと重宝するアイテムだ。
最近になって、この標識杭に小型結界を近づけると、結界の範囲を広げることが判明した。魔術計算式で割り出した数と配置で設置すれば、更に結界範囲が広がったり強固になったりすることも判った。代わりに小型結界側の魔力がガンガン削られるので、省魔力化の研究が行われているところだ。
元々この作用を使って開拓作業の安全を確保するのが当初からの計画だった。治癒師としてルート上に派遣される私が、標識杭を打ち込む役目に立候補したのだ。勿論、開拓は別チームが行っているわけで、私ひとりで全てをやっていた作業ではない。
「勿論良いことだよ?なにせ、安全な道が出来たら、魔獣に囲まれていた地域にも支援物資や補給品が届きやすくなる。騎士団や傭兵団も交代要員を派遣しやすくなって、戦力も安定させることができたし。ついでに道の要所や居住地に安全地帯も作れちゃったから、非戦闘員の移動も安全になっちゃったんだよね」
良いことだよ、と言いながら、父の言葉は相変わらずやらかしたね、と言う意味合いの言葉で締めくくられる。
「滞ってる流通のせいで不安に煽られるっていうんだったら、作った道を他の商人たちにも使えるように解放しちゃえば、品薄も物価高も落ち着く。魔獣被害で収穫が落ちちゃったところはまあしょうがないけど、そこは次の収穫期に頑張って貰うとして、逃げてきた人たちも自分の居住区に安全が確保されるなら、家に戻るだろ」
勿論魔王出現前の状態に百パーセント戻るということはない。が、不安を煽るような状況が一部分でも目に見えて落ち着けば、冷静に行動出来る人も増えてくる。そうなると大衆紙の煽りを疑う人たちも増えてきた。むしろ安全な道と流通は王都に繋がるように引かれているので、勇者達の動向すら、人々には順調に見えていたのではないかという。
「……あー、なるほど……。……つまり」
「お前の暴走がきっかけで、王都の不安は落ち着いちゃったのよ。その上地方に行き来するのも物資の流れも魔王討伐前以上に安全が確保できた。じゃあそれは誰のお陰かって話になった時に、アンナに焦点が当たったんだよ」
「……でもそれ、結局私だけの力ではないよねぇ……?まだまだ危険がある中、道を安全に整備したのは、他の人達なわけで……」
悪あがきのように言ってはみるものの、父は首を横に振った。
「勿論色んな人が頑張ってくれたよ。でも最初に先行して切り開いたのはアンナだし、アンナが動かなければ他の人達も動けなかった。安全地帯の制作や、道の舗装作業に立候補してくれた現地の人々が結構いるんだけど、アンナが通った町や村の人ほど参加希望者が多かった。これは大きなことだ。正直誰にでも出来るということではないよ」
父と兄は、苦い表情を浮かべながら褒めるようなことを言ってくる。あれだろうか、褒めたいのに手放しで褒めるにはやらかし過ぎている、と言いたいのだろうか。うん、そうですよね。反対の立場だったら私も同じような態度をとると思う。本当に申し訳ない……。
良くまあ引き返せ、とは言わなかったなぁと思う。言うには先を進みすぎてた……という可能性。あ、もう考えるのやめとこ。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
次回は来週木曜日に2話UP予定です。




