勇者チームは序盤から実はやばかったらしい。
「なんで大衆紙にアンナが載ってたかって言うとな」
兄はそう言うと腕を組んで妙に真面目な顔をした。父はいつも通りの微笑みを浮かべながら、新しくバートンが淹れたお茶を飲んでいる。説明は兄に任せるらしい。
「……うん」
「始まりは勇者チームの行動が民衆の不安を煽っちゃったことにあるんだよ」
「大衆紙の記事が、じゃなくて?」
三年で魔王討伐を済ませた勇者チームの行動が?と、首を傾げる。
「大衆紙の妄想記事も不安を煽ったんだけどさ。そもそもの原因は勇者チームの可怪しな行動にあるわけよ」
「可怪しな行動?」
つまり、あの逆ハーレム?討伐中にもイチャイチャやっていたのだろうか。
まあね、討伐が終わってからの数ヶ月であのハーレムを築いたとは流石に思わないけど。それが不安を煽った?聖女様が魔王討伐を遂行しないんじゃないかって?……いや、当時の私も知ってたら不安になったか。うーんと唸りながら首を捻る。しかしなんでそれが私の新聞掲載に繋がるというのか。
「当初は勇者チームと一緒に動いてた第三騎士団や傭兵部隊から上がってた戦況報告を、国側はある程度内容を取捨選択して公表してたわけ。その内容だけなら、勇者チームの歩みは予定より遅いけど、まあ順調って感じだった。でもその内王都にやってくる行商人や戦地から逃げてきたらしい住民が語る話と、国から公表されてた内容に、結構な内容の食い違いが出てきたんだよ」
「食い違い?」
どう違ってたんだろうか。
自分が持っていた情報も、王都で公表されていた『勇者チームの動向は概ね順調』と同じだった。
私も当時は治癒師として戦場付近にいたが、勇者チームに同行していたわけではない。魔王を討伐する目的の彼等とは違い、私は魔獣発生の所為で既に戦地になっている場所で救援活動をしていたため、彼等より先行したり、全く違う地域に足を運んでいた。
危険の多い戦地付近には、王都で発行されている大衆紙が届くはずもなく、国からの広報紙が補給資材と一緒に届く程度。
例外があるとすれば、補給部隊にウチの商会スタッフが同行している時だけ、何故か姉が発行している雑誌や本が届いた。姉の発行物は当然『メリィ夫人の家庭月報』を筆頭とした、女性向け雑誌や恋愛小説本などの娯楽に近い物ばかりで、勇者チームの戦況は書かれていない。しかも発行から数ヶ月遅れでしか届かないので、月間雑誌の情報も少々古い。
当初は何故こんな本を送って来たんだと思っていたけれど、娯楽が激減した戦地では結構人気で、女性治癒師達の手元をくるくる周り、最後は滞在していた町や村の女性達が喜んで引き取ってくれた。因みに騎士達もこっそり読んでいたようだ。……なにせ小説を真似たプロポーズをした騎士が居やがりましたので。相手?勿論、私とは別の治癒師です。
当然現地に来た商会スタッフとも直接情報交換をしてはいた。でも商会の話ばかりして、敢えて勇者チームの動向を聞かないようにしていたのだ。……もし聖女様がライナスを選んだ話とかが耳に飛び込んできたら、動く気力が半減しそうだったので。
「違うって言っても大まかな内容はあってる。でも情報が足りてない、みたいなさ。例えば、序盤は王都から魔導車で二日程離れた場所に、勇者チームが三ヶ月程修行も兼ねて滞在してたんだけど、広報紙では、そこに出現する魔獣で訓練してるって報じたわけ。確かに訓練はしてたんだけど、実際には聖女様は殆ど参加して無かったらしい。一応最初の頃は姿も見せてたけど、その内だんだん引きこもって姿を見せなくなってたんだってさ。その上滞在している村に、小規模な魔獣の群れが入り込んで来たらしいんだけど、その時なんか聖女様と狩人、そんで魔術師が戦闘に参加してなかった、らしい」
「は?」
確かにそれは問題のある行動だ。
魔導車で移動出来る範囲の魔獣であれば、それ程強くはない。既に道が整備されていて普段は人通りも多いため、定期的な魔獣討伐駆除が頻繁に行なわれていた場所だからだ。だからこそ序盤の訓練には最適だと選ばれたんだろうけど。
「参加しなかった理由が『聖女様がまだ慣れていなくて怯えていた。だからそれを二人で慰めていた』だそうだよ」
慣れてない、は、あるかもしれない。聖女様にはそこら辺を補強する加護が目一杯ついているはずではあるけれど。あと、そういうの大丈夫かどうかを神様に確認されてから召喚されてるはずだんだけど。まあ、百歩譲って聖女様が怯えていたとしよう。しかし、戦闘の主力メンバーが二人も慰めに入る必要はあるだろうか。いや、なかろう。しかも戦闘中に。そもそも君らの訓練兼ねてるんだぞ。他に任せられる人材が居ただろう。
「……えーと、既に序盤で二人落とされていたと?」
つまり召喚されて数ヶ月、プラス旅立って数ヶ月で狩人と魔術師は、聖女様に籠絡されていたと?凄くないか?本当にどういう手管?
「どういう関係まで発展してたかはわからんけどね、まあそういう感じ」
兄も呆れた声を隠さない。戦闘真っ最中になにやってんだ、と思っているようだ。兄のノリは見た目軽いが、実際の中身は結構ライナス寄りの乙女なところがあるので、彼等に共感は感じないだろう。……本人に指摘はしないけど。
「暗黙の伴侶候補とはいえ、旅の序盤でそんな感じになるとは……選抜ミスでは?」
恋に現抜かして本来の仕事を忘れるような人材、そもそも候補にすら挙げちゃいけないと思うが。
「聖女様と出会う前は、皆真面目で職務も真っ当にこなし、腕前も間違いなかったらしいけどね。経歴も噂話も確認したけど……皆悪くなかったよホント。だからまあ、彼等を知ってる人たちなんかは、噂話を最初は信じてなかったし、それを極大解釈して書き散らかした妄想だらけの大衆紙に、苦情を申し入れていたくらいだ。特に彼等は貴族出身だったから、親族の一部が攻撃的に動くもんでさー、むしろ憲兵やら騎士団が大衆紙の記者を守らないといけない羽目になったわけ。大衆紙の記者が貴族に殺されたからって理由で、市民暴動なんて起こった日には、目も当てられないだろ」
それは確かにそうだ。
前線が魔王や魔獣討伐で必死になっている中、国の支柱である王都が、本当かどうかもわからない情報に煽られた民衆の暴動で機能停止しました、というのは確かに目も当てられない。まあ、その前線(停滞中)で本当に乳繰り合ってたんだとしたら……と思うと複雑な気持ちになる。
結局大衆紙には、厳重注意と罰金刑が下された程度で済んだらしい。その上で、行動を起こした貴族にも同じような刑罰を与えて手打ちにしたそうだ。
まさか勇者チームがそんな状態で、王都に問題が発生してたとは。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
次回は来週木曜日に二話、18時と20時頃にUP出来たらなと思います。
チアーズイベントも終了し、書き溜めもだいぶん目減りしてきたので、1週間で二話を目標に更新していこうと思います。
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