祝勝会翌日の新聞事情。
精神的なダメージが異様にあった父との面談を終え、ヨロヨロと執務室の扉を出てみると、丁度こちらにやってくる兄の姿が見えた。
こちらに向かってくる兄の手元には何枚かの新聞らしき物が見える。どうやら朝から出かけて収集しに行っていたようだ。
「おぅ、おはようアンナ。親父と話してたのか?丁度良いから、もっかい戻れ。新聞のチェックだ」
昨日最後のやり取りを忘れたかのように明るくそう言うと、私を新聞ごと執務室へと押し込んだ。
「おや、ロイ帰ってきたのかい?」
執務室に逆戻りすると、未だソファに座っていた父は、執事のバートンに頼んで机の上を片付けていたところだったようだ。
「街中回って、今日出た新聞全部買ってきた。ついでにうちの号外も貰ってきた」
兄は新聞をぴらぴらと振ってみせる。
「そうか、丁度いい。テーブルに広げてみてくれ」
「号外出すとは聞いてたけど、もうこの時間に出せたのね」
「そーそー。まじで徹夜したらしい。よーやるよホント」
そう言って兄は、先程まで釣り書が載っていたテーブルに新聞を並べ始めた。
そういえば、さっき釣り書が積んであったけど、結局中身を何一つ見てないなと気がついた。まあ、私が今見たところで何も判断出来ないから、正直見なくても構わないのだが。
兄が回収してきた新聞は、大衆紙が三社、高級紙が一社、プラスうちの雑誌社の号外がひとつ。
「思ってた以上に皆出してる……」
「なー、俺も吃驚よ」
三人で、テーブルに広げた新聞を覗き込むように見る。
「まぁ、高級紙を出してる新聞社やウチの雑誌社は、王宮から事前に資料をいただいているからね。土台は作ってあったんだろうけど」
「あれ、そうなんです?」
私が治癒師として派遣される三年前には無かったツテだ。商会が後ろ盾にあると言っても、女性が切り盛りする女性向け雑誌に、国が情報を渡す意味はない。不思議に思って聞いてみると、
「うん。信用できる媒体には情報をある程度流してくれるようになったんだよ、この三年でね。まあ、大衆紙が大暴れしてくれたお陰と言うべきかな」
「あーなるほど……」
妄想と煽り盛り沢山の大衆紙に対抗するため、魔王討伐の戦況を真面目に伝えられる私営の情報紙も利用することにしたのだろう。
「勿論こちらもいただいた情報におかしいところは無いかを確認するけれどね。国側の情報操作に使われたくはないし」
そう言うとにっこり父は微笑んだ。
「お陰様で良いお付き合いができていると思うよ」
微笑んでいても目の奥が笑っていない父の顔を見て、あまり追求しない方が良さそうだ、と私は思った。
「さてさて、どんな内容かなー」
そう言って、兄は一番手前に置いた高級紙を読み上げ始めた。
「えーと、『――残念ながら王太子殿下は体調を崩され終日ご欠席なされていたが、ご婚約者のアドリアーナ・テレーズ・メディナ・クローディオ公爵令嬢は、弟君のクリフトン・コリー・メディナ・クローディオ侯爵令息を伴って、凱旋式と祝勝会に参加されていた。――』」
「王太子殿下は体調を崩してたってことで、謹慎とか軟禁とかされている状態なのかな」
「……どうだろうねぇ」
父は、少しだけ考えるようにこめかみをトントンと指で叩いた。
「流石に王宮内の情報はあまり流れてこないんだよね。特に王太子殿下の件が表に出てからは随分と厳しくなっている。まあ本来そう有るべきなんだろうけど」
それだけを言って、父は兄に次を促した。
「『――今回英雄たちへ贈られる報奨は、内容の調整が間に合わず凱旋式での授与が見送られたが、現在功績に見合った報奨を調整中とのことである。決まり次第改めて授与式が行われることとなった――』」
「へー、もっかいやるんだ」
「パーティーまでは開かないと思うけどねぇ」
他、高級紙に書かれた内容を纏めると、パーティーの華やかさと素晴らしさ、それがどの領から提供されている特産品のお陰なのか、また報奨で叙爵されて貴族社会に参入した新参者の紹介や陞爵された貴族、領地を与えられた者達の紹介と言った、高級紙らしい貴族向けの情報が書き連ねてあった。勇者チームについては、良い部分だけを紹介するに留まっている。
「まあ、当たり障りがないね。予想はしていたけど」
尚、我が家の雑誌社が出した号外は、なんと両面見開き八頁、イラストまで入ってパレードと祝勝会の様子が書かれていた。
王宮からいただいた当たり障りの無い情報はおざなりに書き記され、大半の頁は、当日参加していたレディたちのドレス事情、提供された食事について、庭園に咲いていた花の種類や手入れの方法、広間の磨き上げられた床の清掃技術まで――、しかも号外二号も準備中、本誌次号にも頁を割く予定、最後は全てを纏めた特別号を出版する予定だと書かれていた。
「え……これ、姉さんは親族枠としても、絵師と記者と絵師と記者まで祝勝会に参加してない?そんなに取材枠って貰えるの?」
当日参加しているとは聞いていたが、取材枠をよっつもいただけるものだろうか。しかし聞いただけではここまでの絵と文章は書けまい。
「取材枠以外にもコネを駆使して参加枠を確保したらしいよ。パレードの方は別部隊を投入したんだってさ!」
その割には祝勝会会場で彼らの姿を見なかった気がするが、隠密行動でもしていたのだろうか。王宮でそれは無理な気もするけれど。
確かに、パレードの情報を提出している記者と絵師は、他のメンバーだとわかる。そちらも主に観覧していた女性たちの服装について、出店していた屋台事情、パレードに使われていた馬車の装飾について等、街の職人や店舗への熱い紹介に繋がっている。
「見事に勇者チームがスルーされてる」
「あー、聖女様のアレが判ってから、ウチの出版社では決着がつくまで触れない方針になってんだよ。まあウチはそもそもゴシップ誌じゃないからね。別に聖女様扱わなくても流行は作れるし。むしろアレは邪魔って判断」
姉は勇者チームに商品価値を見出さなかったらしい。本来なら聖女様のコーディネートやヘアメイク、イケメン揃いの勇者チームの紹介などは、女性達の興味を引きそうなものなのに。
「うんうん、ドリーは流石だね。ここらへんは今日中に仕入れの発注数を追加しておこう。後で次の号の確認もしておかないとね」
父も勇者チームに興味はないらしく、姉の記事を見て流行りそうな商材のチェックをしていた。
……本当にウチの家族は皆根っからの商売人だと思う。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
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今回タグから「ほのぼの」を外し「多少の暴力表現」を追加しました。
現在執筆中の部分に、該当する内容が出てきた為です。
「ほのぼの」は付けていても良かったんですが、数の制限に引っかかったため、優先度の低い分からはずしました。




