予想以上に面倒くさい状況に巻き込まれているようです。
「で、俺は貴族家の方を探ってる最中なんだけど、こっちは流石に聖女派は殆どいない。教会と懇意過ぎる家くらいかなぁ。じゃあ保守派ばっかりかというとそうでもなくて、神のお言葉懐疑派も同じくらい多くてさ、こっちは聖女様のハーレムを解体したくてしょうがない」
話を聞いていて、ふと気になったことがあったので、質問を挟む。
「保守派と懐疑派は目指すところ一緒じゃないんだ?」
「そうそれ。ややこしくてなー。教会はぶっちゃけ、神が召喚に関わっている聖女様を全否定するわけにはいかないんで、ハーレム解体には消極的だけど否定してるんだよ。でも、一夫一婦制は本来神の言葉から成立した法律だと認めているから、積極的に容認したいわけでもない。だから今目の前にあるもので体裁整えたい派が殆ど。その所為で保守派が多い」
「なんかどっちつかずと言うか日和見というか……」
今回の件は、つくづく教会が信用ならないな、と頭の中で呟く。当分教会には近寄らない方が良さそうだ。
「でだ。お貴族様は教会ほど『神の言葉』が真実かどうかは考えていない。自分達にとってそれが利になるか不利になるかで考えている。つまり自分の派閥がどう潤うかの方が重要なわけよ」
兄はそこで話を一旦区切ると、また膝の上で肩肘をついた。
「……自分とこの派閥の娘とさー、結婚させたいじゃん?英雄と。今回の勇者チームって、ライナスを除く全員が貴族家出身なのよ。討伐成功すりゃ生死を問わず報奨で叙爵か陞爵されるはずだから、元々実家が付属してる派閥なんかは手ぐすね引いて色々準備してたわけ。それが聖女様の所為で計画がおじゃんになった。そうなると潰したいじゃん?ハーレム。そんで英雄を取り戻したいだろ?自分の派閥に。それが出来ないならせめて残ったライナスを囲みたいって話でなぁ。ライナスのところもかなーり釣り書が届いてるらしいぞ、お貴族様方から。お前の比じゃないくらいに」
「うへぇ……」
思わず眉間にシワが寄る。
ライナスも自分で予言していたようだけれど、かなり大変な状況に陥っているらしい。祝勝会で見た、虚ろな表情のライナスの様子を思い出す。あのお疲れ具合は、釣り書攻撃のせいもあったのかと気がついた。そしてもうひとつの事にも。
「もしや、教会がライナスの婚姻に積極的なのって」
「気がついたか?唯一の騎士爵出身かつ教会所属の聖騎士様。そうすると教会としては準備して差し上げたいわけよ、肝いりのお相手を。なんなら報奨扱いにして押し付ける予定だったわけ、最初から。つまり、元々ライナスは教会の取り分扱いだったんよ」
馬鹿馬鹿しい話だよなぁ、と言いながら兄は乾いた笑いを漏らした。
それを見ながら、私も怒りを感じていた。
貴族も教会も、世界を救った英雄を何だと思っているのか。
彼等への見合い相手を見繕う行為が、元々は善意なのか、それとも貴族の慣習から来るものなのかは知らない。確かに今回の逆ハーレムは、この世界の常識とは相容れないだろう。だからと言って、彼等の意思を無視して自分達の都合で婚姻させようとしている様子は腹立たしい。しかもその話は、討伐前から進んでいた話なのだ。それが当初は選択肢のひとつだったとしても、今では立場の一番弱いライナスに、全ての期待を押し付けている辺りが尚更腹立たしい。
貴族からすれば救われた国の今後の舵切りの方が重要、と答えるのかもしれない。何も英雄を邪魔者扱いするわけではない。むしろ貴族家に喜んで迎え入れるのだからと言うのかもしれない。古くは英雄たちの力が邪魔だと冤罪を着せて処刑した時代もあったらしい。例の如く神の怒りが落ちたらしいが。それに比べればと思うかもしれないが、結局英雄たちの心を無視して駒扱いしていることには、何も変わりがないと私は思う。
「でまぁ、アンナがその渦中からさっさと抜けたいんであれば、ぶっちゃけライナスからの釣り書をさくっと返却するのが早い。で、王命だの何だのがやってくる前に、できれば今来てる釣り書からお前が気に入った婚約者をさっさと決めてしまえば、国も教会も横槍を入れにくくなる。そん中でお勧めは中立派で後ろ盾として硬めの伯爵家なんだが」
他は後ろ盾として弱いからねー、覆される可能性があるんだよねー、と兄は付け加えた。
「えー……」
唐突に出てきたライナスを切り捨てる提案に少々驚く。私の気持ちはさておき、父にしろ兄にしろライナスの家とは古くから懇意だ。こんなあっさり見捨てるような提案を私にしてくるものだろうか。
そんなことを考えている私に気がついたのだろう。兄は呆れたような目線を向けてきた。
「あのな?俺と親父の予想としては、お前宛の釣り書も、今後どっかの派閥肝いり分がどんどん追加されると考えている、『守護女神』の名声求めてな。つまり足りなくなった英雄の補填をお前で済まそうって魂胆よ。そうなってきたらライナス関係なく俺達に断れない筋から話がきかねない。だから伯爵家も釣り書取り下げじゃなくて保留にしてくれたの。必要なら盾にしてくれていいよってこと。ていうか、『守護女神』の名声が強すぎてお前七人目の英雄扱いされてるんだけど、まだ気がついてない?」
「嘘でしょ!?」
思わず愕然として叫んだ。
「まあ、『守護女神』呼びが効き過ぎてるのもあるんだけど、聖女様の評価が予想外に下がっちゃってて、お前の評価を上げざる得ないっていうかね」
「私の功績を過大評価することで、聖女様のやらかしに目隠しをしたいわけね?まあ、気持ちはわからなくもないけど腑に落ちない」
私はがっくりと肩を落とした。
「やったことについては過大評価とは思わないが、それにかこつけた押し付け褒美はいらぬお世話だよなぁ」
「褒美なのこれ」
「と、本人たちは真面目に考えているわけだ。本来は英雄たちが持つ自由意志の元、取捨選択させるべきところ……まあ、予想外のことに慌てて必死になってるんだろ。余裕を無くしてるから周りが見えてないしヤバい思考になってることにも気がついてない。下手すりゃ押し付けてるつもりすらない」
本当にいらぬ親切、余計なお世話である。
「こうなってくると向こうも焦って動くだろうから、いきなり碌でもないことに巻き込まれかねないなとは思ってたんだ。聖女様の突撃はまあ……その中でも予想外なんだけど、場合によっては身に危険もありそうでなぁ」
「身に危険」
思わず鸚鵡返しをしてしまった。身に危険とは。対抗馬に求婚を断れと脅されるとか。問答無用で川に浮かべられるとか?
「だからまあちょっと慎重になってる。俺も親父も。それで調べまくってたんだけどね。でも、もう悠長なことは言ってらんない状況だな。てことで、アンナ的にはライナスをどうしたい?」
「ライナスを選ぶのか選ばないのかってこと?」
「そう、ライナスを助けるのか助けないのか。初恋を成就させるのかさせないのか」
「……は?」
思わず呆けた声がでた私に、兄はニンマリと笑って言った。
「お前の初恋、ライナスだろ?」
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