私の結婚話には面倒くさい思惑が渦巻いているらしい。
既に投稿している部分に、若干の修正が加わっています。(2026年2月17日)
ストーリーに変更はありません。
ちょっとした言い回しの修正、些細な行動の追加、アンナの心の声等が追加された感じです。
「まあ、聖女様がアンナに突っかかってくる機会なんて、もう早々無いだろうから一旦横に置いといてさ。もうちょっとお前に来てる釣り書の話をしとこうか」
兄は姿勢を正すと、胸元で何かを掲げるように両手を揃えて持ち上げて、それをスッと横にずらしてみせた。
私はそれを眺めながら、首を縦に振って同意する。
正直、彼女の思考回路を辿ったところで理解できないことだけは判る。何故あんなに逆ハーレム要員を増やしたいのか。五人もいれば十分じゃなかろうか。
とりあえず彼女は世界平和のために勇者チーム(プラスワン)と逆ハーレムを形成しなければいけないと、抵抗感もなければ悪気もなく考えているということ。そしてその内のひとり、ライナスがハーレム入りしていないことにご不満なご様子だということ。現在ライナスを手に入れるため色々動いている、ということだけは認識しておくべきだろう。
どちらにせよ彼女の行動を詮索するための情報が足りていない。
「私宛の釣り書ってそんなに来てるの?」
「来てる来てる。騎士爵家から五通、魔杖士爵家から三通、男爵家から三通、子爵家から二通、商家から三通。そんで吃驚伯爵家からも一通。プラス、ライナスからの一通も合わせて合計……えー、十八通?」
「え、そんなに?」
「そう、そんなに」
兄が深く深く頷いてみせる。
「内三通は複数ある噂に惑わされて、上から目線で娶ってやっても良いぞ的な……その代わり上手い汁を吸わせろみたいな感じだったんで速攻断ったんだけど、それ以外がな、この三年の間にお前のお陰で命が救われただとか、支援品の融通に相談に乗ってもらっただとか、悪徳商会を殴り飛ばして憲兵に突き出してくれたとか、そういう切々とした理由と感謝が綴られて、是非嫁に……みたいなのばっかりだった。悪徳商会を殴り飛ばしたってなんだよって思ったら、あれだろ、支給品横流ししてた奴ら。お前何、物理で殴ったの?」
「シテナイヨーソンナコトシテナイ」
兄のジト目からそっと顔を逸らす。
「したんだな、まあいいや。ここらへんの釣り書はお前の意志を尊重してから返事しようってことになってる。ただ、親父から話がある時はお小言がついてると思いねぇ」
「うぐぅ……」
仕方のない状況だったと言い訳してはいけないだろうか……。余計火に油を注ぐだけだろうか。父さんのご機嫌次第……と言いたいところだけれど、常日頃からフラットな人なので、ご機嫌で左右されることは殆どないのであった。
「そんで、一見ここで一番重要そうなのは伯爵家からの一通に見えるんだけど、アークレイド伯爵家は元々取引先の御方でね、釣り書送ってくださった後にライナスの話を知ったらしくて、優先度をその後にしてくれた。という訳で、まず最初にライナスからの釣り書を、ウチとしては捌かないといけないんだわ」
そう言うと、兄は「で、どうしたい?」と真面目な顔をして私に水を向けた。
ここで兄と話しちゃっても良いものなのか。まあ父からある程度任せられてるんだろうけど。
「なるほど……。だとしたら、ライナスが本気、というのもちょっと横に置いといて」
先程と兄がやったのと同じ、物を横に置くリアクションをしてみせる。
「置いちゃっていいんかい」
兄はなぜだか愉快そうな目を向けてきた。……なんだろう、なんか含みを感じるな……?とは言え、わざわざ反応してあげる必要はない。
「……いや、だって国と教会の肝いりかもって話、そもそも断れるの?」
「ああー、そこね。そこはね、まだ未確認。教えてくれたのがアークレイド伯爵だったってのもあるんだけど。『そういう話が出ている、と噂になっている』と言う曖昧な感じで教えてくれて」
「伯爵様はどこでそれを知ったの?」
「なんか宮中で?の会議?だか立ち話?だとか」
兄は顎に手を当てて、軽く首を傾げた。どうやら兄も首が傾くくらいにわからないらしい。
「何その曖昧な……」
思わず胡乱な目をしてしまう。
「まあ伯爵もはっきり言えないんだろうね。議会であった話にしても派閥内であった話にしても立場的には本来は漏らせないじゃん。でも恩人が知らぬ間に囲い込まれて逃げられない、というのも嫌だと。釣り書送るくらいにはお前のこと気に入ってるし、感謝してるらしい」
「有り難い。有り難いけど、情報をもうちょっと詳しく」
当然だが、戴いた情報では何も判断できない。思わず頭を抱えると、兄も「それなー」と苦笑いを浮かべた。
「だからまぁ、親父が奔走してたわけだけども、一応今のところ集まった情報な。教会の関係者から情報集めた限りには、教会内は大まかに二分割中」
「……もしや、ライナスをハーレムに入れたい派VS私とくっつけたい派?」
そう聞くと、
「正確に言うと、神の意向に忠実に従いたい派と元々あるこの国の法律と倫理観を守りたい派だなぁ」
と、兄は言い方を変えて答えた。
「あー……」
「聖女派の数はそこまで多くないものの盲信入ってるとこあるから、妙に団結力がある。なんかやらかしそう。対して見た目の数だけなら保守派が優勢なんだけど、これが更に内部で大きく二分割されてて、アンナがお相手派と、ある女性神官を勧めている派閥ができてるっぽい。それ以外にも教区別に押し薦めたい女性神官がいるみたいでね。この機会に自分のいる教区を優位にしたいって思いが見え隠れ。で、そもそも聖女が伝えた『神の言葉』を疑っていて、ハーレム自体を解体させたい懐疑派も絡んできていて、そりゃもうごっちゃごちゃしてるわけ」
「うわぁー……」
そんな状態だと知らずに教会へ助けを求めたら、逆に泥沼へ嵌められそうだ。
「戦場では共に戦った治癒師だの助祭だのが、この件に対しては敵に回ってる可能性もあるから要注意なー」
……成る程、昨日の友は今日の敵、というやつね、そっかー……。世知辛いなぁ……。
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