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神様に『万が一の救済者だ』と言われてますが、実質出番は無いはずですよね?  作者: 杜槻 二花
第一章

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10/24

兄は当然のように噂を知っていたようです。

「兄よ、ちょっとお聞きしたいことがあるのですが」

 祝勝会から早々に撤収を決めた私は、帰宅後兄に時間を貰って、先程アドリアーナ様から聞いたお話を確認することにした。

 商人として商機を逃さないためにも、山程ある噂話を把握していることだろう。(二度目)


「私がなんて呼ばれてるとか、知ってる?」


 屋敷の中に入った途端、そう聞いた私を振り返って、兄は「ぶははははは!」と腹を抱えながら大笑いした。……一瞬殺意が芽生えた気がしたが、身内殺しは大罪なので落ち着こう。話を聞いた後にでも、お腹に一撃グーパンだ。それでいこう。

「お、やっと知ったか!『守護女神』が一番よく聞くけど、『戦女神』とか『勝利の女神』とか『治癒女神』とか、お前この三年間、『女神』に掛かる枕詞大量に生産して歩いてたみたいだな」

 そう言って、最後はにやりと笑った。……やっぱり二発かな。


「今朝噂話を聞かれた時はそっちかなーと思ったんだけど、まさかの聖女様ハーレムの話だったから、あれ気にしてないのかなと思ったんだけど。まさかまだ知らなかったとは。何、祝勝会で誰かにそう呼ばれた?」

 そう言って、兄はニヤニヤ顔のまま私をからかって来る。


「……筆頭公爵令嬢のアドリアーナ・テレーズ・メディナ・クローディオ様から」


 兄のニヤニヤ顔に三発目をどこに入れるか考えながら、アドリアーナ様のお名前をゆっくりフルネームで伝えると、ピタリと動きを止めて真顔になった。

「……え?なんで、筆頭公爵家に拝謁する機会なんてあったの?なんか呼び出しでもくらった?もしやそのことで?」

「呼び出されてない。一番手前の庭園に、脱走した聖女様を捕獲するため、わざわざ足をお運びになってた」

「高位貴族はそこまで来ないだろう?ん?聖女様?脱走?」

 兄は怪訝な顔をした。どうやら一連の事件には気がついていなかったらしい。

 ふーん、成る程気がついてなかったのか。思わず私はニヤリと笑みを浮かべると、

「兄よ、あんなに人目についてた騒動、まさか気がついていないとは、商人としてはまだまだですねぇ?」

 と、顔を覗き込みながらやり返してみせた。

 まさか口撃での反撃が来るとは思っても見なかったようで、兄は渋い顔になった。


 ちょっと詳しく、と私を誘って居間へと赴いた後、ソファに座って防音の魔道具を起動させた兄は私に事の次第を語らせたが、聞き終えた後には両手を顔に当ててあからさまに肩を落としていた。その事件を現場近くにいて把握してなかったことがダメージだったらしい。

 休憩用にと解放された庭園の隅っこで起こった事とは言え……、低木が多いエリアなので、祝勝会会場からは結構丸見えだった。お陰でむやみに近寄ってくる人物はいなかったが、気がついた人々の視線は、遠巻きながらもちょいちょい突き刺さっていたのである。

 尚、両親はお取引先の子爵家の方が気づいて伝えてくださり、アドリアーナ様ご退場後に私の様子を確認している。問題ないと判断してそのまま挨拶まわりを続行、もし疲れているなら兄を捕まえて先に帰ってもいいよ、と言われたので、帰って来たのが今ココである。


「しかしそれはまずいなー……。明日の新聞に載るんじゃないか、多分」

 兄は頭を抱えながら、真面目な顔をして言った。その姿にからかっている様子は無い。

「……まさか、と言いたいけど」

 既に前例がある。宜しくない前例が。

「大衆紙の記者は招待されてない。けど、招待された上流階級の親族枠とかで入り込んでる奴らがチョロチョロいた。聖女様とアドリアーナ様がその場にいたってんなら、アイツらが気が付かないはず無いだろう。何喋ってたかまで判ってないかもしれないが、だからこそ妄想を膨らませられる。大衆紙は金の為に好き勝手煽って書く奴らの方が多いからなぁ……」

 最近は魔道機器による製紙技術や印刷技術が発展しつつあり、大衆紙でも三日に一度の頻度で配れるようになってきていた。内容の正確さは正直半々といったところだが、読者側も王侯貴族が起こしているゴシップなんて、正確性よりも話題性を重要視しているようなので、今のところ大きな問題には至っていない。

 それでも書かれた情報を信じて行動する人たちが少なからずいるので、書かれる内容によっては無実の罪で被害を被りかねない。

「今日なんかは印刷準備を万端にして乗り込んでるだろ。今日あったことなんて売上に直結するから、最短で届けたいだろうしなぁ。ウチの雑誌社も、徹夜してでも号外出す気満々だぜ。こっちは取材枠で入ってるから余計なことは書けないが」


「ん?ウチの雑誌社も?姉さん何してるの?」

 ブロンテ商会の一部門には、姉が立ち上げた雑誌社がある。メインターゲットは富裕層の十代半ばの少女から主婦層にかけてだ。書籍の出版が盛んになり始めた頃、「男性向けばっかりじゃない!女性向けも需要あるわよ!なんで作らないのよ!誰も作らないなら私が作る!」と言って、父に事業提案書を差し出し、結婚祝いと称して出版業一式の出資をもぎ取った。

 因みに最初に出版した雑誌タイトルは『メリィ夫人の家庭月報』。メリィとは私たちの母であり、内容は家事指南書である。……まさにこれから結婚する姉に必要な本であった。これが思っていた以上に上流階級の若奥様中心にウケて、今や出版部数も数千部。王都以外にも運ばれる人気雑誌に成り上がった。

「なんか、祝勝会に出るメニューとかドレスとかをチェックして出したいんだってさ。姉さんは親族枠で参加できるけど、絵師連れて行きたいからって取材枠申請してたわ」

「あー……。意気込んでいる姉さんの姿が目に浮かんだわ。そっかぁ……」

 今もまだ祝勝会会場を意気揚々と歩き回っているのだろう。連れ立っているはずの義兄についうっかり同情してしまった。

 

「うー……、明日以降に印刷される新聞紙は全部要チェックだな。あー……、帰る前に知ってりゃ親父と相談出来たんだが」

「父さんだったら、別れ際に『大丈夫だから』とか言ってたけど。気がついてないってことは」

「無いな。じゃあその件は親父の帰宅待ちでいけるかな」

 兄は、はぁぁぁー……と特大の溜息をついてもう一度肩を落とした。

ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

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