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異端審問 ― 世界の誤差を断つ者

結構大変ですね


夜明け。

王都の鐘が鳴り響くより早く、学院の塔が封鎖された。


 


「異端理論の提唱者、シオン・アマギ。

 王命により拘束する。」


 


重装の魔導騎士たちが講堂を包囲していた。

空気は張り詰め、誰もが息を潜める。


 


シオンは椅子に座ったまま、書きかけの数式から目を離さなかった。


 


「予測より、二日早いな。」


 


その声には焦りも驚きもない。

冷静、というより“想定済み”という言葉が似合う。


 


「立ちなさい!」


 


魔導騎士が杖を向ける。

光の紋章が床を走り、拘束陣が展開した。


 


だが、陣は形成される前に崩壊した。

数式のような光の欠片となって、空中に散る。


 


「構文エラーだ。」

シオンは淡々と呟いた。

「術式に論理矛盾がある。」


 


「な……何をした!?」


 


「訂正しただけだ。」


 


そう言って立ち上がる。

その瞬間、周囲の空気が変わった。

魔力の流れが一点に集中し、光がねじれる。


 


「情報層を制御……っ!?」

ミリーナが叫ぶ。

「ここ、結界内なのよ! 外部演算なんて不可能なはず――!」


 


「不可能を定義したのは誰だ?」


 


言葉と同時に、世界が“計算された”。

床、壁、重力、熱――すべての変数が再配置され、

数秒後、全ての拘束陣は塵と化していた。


 


「異端者を逃がすな!」


 


十数名の魔導師が一斉に詠唱を始めた。

轟音と共に雷撃が走る。


 


だが、雷はシオンの一歩手前で止まった。

空間そのものが、分割されたように。


 


「解析完了。」


 


彼の指先が、わずかに動く。

電撃は逆流し、術者たちを貫いた。

誰も死ななかったが、全員の魔法陣が崩壊した。


 


「魔力情報の依存構造を、上書きしただけだ。

 君たちはまだ、“心”に頼りすぎている。」


 


沈黙。

ミリーナだけが立ち尽くし、震える声で問う。


 


「……あなたは、何を目指しているの?」


 


シオンは歩みを止めずに答えた。


 


「誤差のない世界だ。」


 


「誤差……?」


 


「人の感情、神の加護、運命。

 すべて、再現性がない。

 不完全な演算の上に世界は立っている。

 だから、最適化する。」


 


ミリーナの目が揺れた。


 


「それじゃ……この世界そのものを壊すことになる!」


 


「破壊ではない。再構築だ。」


 


扉の前に立つ。

朝の光が差し込み、シオンの輪郭を白く染める。


 


「私は神を否定するのではない。

 神を“理解可能な数式”に置き換えるだけだ。」


 


一歩踏み出す。

彼の足跡が残すのは、魔法でも祈りでもない。

ただ――情報の残滓。


 


その姿が霧の中に消えたとき、

王都全域の魔力流が一瞬だけ静止した。


 


「……まさか、本当に……」

ミリーナは空を仰ぐ。


 


その空には、目に見えない数式が刻まれていた。

人には見えぬ、演算の痕跡。


 


«――異端は、世界の根幹を書き換え始めていた。»


 

ここまで読んでくださりありがとうございますう!

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