王立魔法学院 ― 理論という異端
2話目を読んでくださりありがとうございます!
死の淵を越え、神の演算領域を通過した男――シオン。
この世界〈エレクシア〉に転生してから、すでに一ヶ月が経っていた。
周囲は魔力と呼ばれる未知のエネルギーで満ちていたが、
彼の目には、それすらも「情報の流れ」として見えていた。
«「重力分布、気圧、魔力密度。……全てに誤差が多い。
不安定な世界だ。」»
この異世界を観測するたび、彼の中の“演算装置”がうずく。
世界の構造を理解し、最適化する。
それが――自らに課した目的だった。
「あなたが……詠唱なしで魔法を使った、という方ですか?」
声をかけてきたのは銀髪の少女だった。
整った顔立ちに、少し幼さの残る目。
彼女の名は、ミリーナ・クローヴァ。
王立魔法学院の研究生だという。
「学院長が、あなたの理論を直接見たいと。
“再現できるなら、証明してほしい”と。」
「理論は、検証されて初めて真理になる。」
そう答えたシオンは、王都アルセリオンへ向かった。
無駄を嫌う彼にとって、それが最も合理的な選択だった。
王立魔法学院。
浮遊する塔と、青白い魔力の霧。
人々は誇らしげに「世界最高の知の場」と呼ぶが、
シオンには過剰な信仰の象徴にしか見えなかった。
「ここでは感情や詠唱を大切にするんです。
心を通わせてこそ魔法が――」
「それは定義の放棄だ。」
ミリーナが眉をひそめた。
この男は、言葉の一つひとつが冷たい。
だが、不思議と説得力がある。
まるで“人ではない何か”のように。
-
学院講堂。三百を超える生徒と教師たちが集まっていた。
壇上に立つシオンの前で、ざわめきが起こる。
「では、魔法の定義を確認しよう。」
静寂。
一言ごとに、空気が凍る。
「この世界では、“感情”をエネルギー源とする現象とされている。
しかし、それは誤りだ。」
一瞬、静寂。
次に、怒号。
「何を言うか! 魔法は神の恵みだ!」
「心を否定するなど、人の道にもとる!」
シオンは無言で掌を上げた。
詠唱も、触媒もなし。
ただ、思考を数式化する。
瞬間、講堂全体の魔導灯が一斉に点いた。
「協調魔法――通常は三人の詠唱が必要。
だが、構造を解析すれば一人で十分だ。」
唖然とする聴衆。
その中で、シオンは淡々と続けた。
「魔力は感情の結果ではない。
意識情報と空間情報の干渉項――それが真の正体だ。
私はこれを“情報魔導理論”と呼ぶ。」
怒号が再び上がる。
だが、彼は表情一つ変えない。
「真理は、多数決では決まらない。」
ミリーナは息を呑んだ。
この男は、本気で世界を理論で塗り替えようとしている。
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講義の後、学院長が言った。
「あなたの理論、実験で示せますか?」
「当然だ。」
彼が選んだのは、学院が誇る巨大装置――〈魔力共鳴炉〉。
複数の魔導師が感情を共鳴させてエネルギーを発生させる装置だ。
「この装置から“感情”を取り除く。」
制御室が凍りついた。
ミリーナが叫ぶ。
「そんなことしたら、暴走するわ! 魔力が暴発する!」
だがシオンは手を伸ばし、炉心に触れる。
光が跳ね上がり、装置が悲鳴を上げる。
空間が歪み、時空が裂けかけた。
「臨界を超える――!」
「――不要な変数を排除。」
たった一言。
瞬間、全ての光が収束した。
暴走は止まり、炉心は安定。
シオンの声だけが、静かに響く。
「感情を排した魔法の、再現に成功。
これが“情報魔導理論”の初期成果だ。」
ミリーナは言葉を失った。
恐怖と、尊敬と、理解不能な感情が入り混じる。
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異端の宣告
数日後。
王都全体を揺るがす声明が発表された。
«「詠唱も祈りも不要とする異端理論“情報魔導”を禁ずる。
神の秩序に背く行為なり。」»
シオンはその報せを、無表情で受け取った。
「予測済みだ。
宗教構造は、最適化を拒む。」
「あなた、ほんとに人間なの?」
ミリーナが小さく問う。
「定義が曖昧だな。」
シオンは淡々と答える。
「不完全な演算体が“人間”だというなら、
私は、すでに違うのかもしれない。」
そして夜。
彼は学院の屋上で星を見上げ、呟いた。
«「この空の法則も、神の設計も、
すべて解析対象だ。」»
淡い星光の中で、その瞳はわずかに光った。
«「――神を、再定義する。」»
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