特殊徴収隊〜軍務庁の予算を獲得せよ〜
財務省主計局長は激怒した。必ず、かの邪智暴虐の軍務庁を除かなければならぬと決意した。主計局長には政治がわからぬ。けれども予算の無駄遣いについては人一倍敏感であった。
軍務庁とかいう何の為に設立されたのかも何をしているのかも明らかでない行政機関の為の予算なんて無駄遣い以外の何物でもない。
そうした考えから主計局長は軍務庁の予算の減額を要求していたものの大臣方の強い要望によって軍務庁の予算は右肩上がりの状態である。
それどころか「アレよりはマシか…」と考え防衛省や国土交通省の予算増額に肯定的な職員も出てくる始末。
ついに堪忍袋の緒が切れた主計局長は手元にあった軍務庁の歳出概算書をその他の省庁の歳出概算書諸共破り捨て、
「そんなに金が欲しけりゃ商売でも徴税でもして自分で稼いでこい!主計局はこれ以上の予算増額を認めないからな!」
と怒鳴りつけた。
これに困り果てたのは財務大臣に「戦闘機や軍艦も配備してほしい。」と頼まれた軍務庁事務次官に異例の速度で昇格した田中華澄である。田中事務次官は「とりあえず前年度と同額の予算が確保出来たのなら良いか」と問題を先送りする気だったのだが、財務大臣の頼みによって何らかの手段で新規の予算を獲得しなければならなくなった。しかし、予算を獲得する手段はなかなか見つからず今年度は現状維持になるかと思われてきたが田中事務次官の目にテレビのニュースの情報が目に入ったことで変わった。
尖閣諸島沖 中国公船4隻が領海に侵入
「国際観光旅客税…徴収出来ないかな」
毎年、日本の領海に入国した海警局の船舶の数は令和6年の場合のべ115隻。1隻の船に搭乗している乗員の数が100人としても出国に課税される国際観光旅客税1000円で1150万円の税収が見込める。戦闘機や軍艦の購入や製造には足りないが無いよりはマシだろう。
そうした考えから防衛局に軍務庁の職員達から寄附を募って得た予算によって購入されたアメリカ製の小型ヘリコプターOH-6J カイユース1機を有する特殊徴収隊(Special Levy Team)が設立された。
2026年5月 尖閣諸島沖
巡視船しましまの船長である山本二等海上保安官は、現在進行形で領海侵犯している巡視船海警31239を眺めていた。
「早く帰ってくれないかな。」
なんて考えていると石垣島の方向から小型のヘリコプターがやって来た。
テレビ局か何かかなと思いながら見ているとそのヘリコプターに書かれている所属を表す漢字も見えるようになった。
財務省軍務庁…財務省軍務庁⁉︎
何をしてるかもよく分からない行政機関がこんな所まで何をしに来たのかと思いながら注視しているとそのヘリコプターは海警31239の船尾に着船した。
手元の双眼鏡で海警31239の船尾を見てみるとヘリコプターから特殊警備隊を彷彿とさせる装備を着用した3名の乗員が降り、海警31239の乗員と何か話している。
1時間もするとヘリコプターは3名の乗員を載せて石垣島の方向へ帰って行った。
その後、海警31239から通信が行われた。
「こちら中国海警局。なぜ貴国では財政部があんな装備を持って税金を徴収しているのだ?」
…本当になぜだろう
巡視船しましまは当然ながら架空の船です。でも存在したらダズル迷彩とか採用してそうですね。