怪談?
これは、登山をしていた二人の男女の話なんだけど……。
自然を満喫した二人は、下山することにしたが、帰り道が行きと同じ道ではつまらないと考え、別の道を歩くことにしたんだ。
談笑しながら歩いていると、途中で古びた神社を見つけた。二人は『隠れたパワースポットだ!』と大喜びし、お参りをすると再び山道を歩き始めた。
だんだん辺りが暗くなってきた。会話が途切れてから、しばらくすると女性がこう呟いた。
つかれた……。
つかれた……。
男は『大丈夫、もうすぐだから』と励ました。道に迷ったわけじゃない。山を下りている感覚はあったし、ずっと下り坂だ。問題なく帰れるだろうと思っていた。
でも、女性は呟き続けた。
つかれた……。
つかれた……。
男も繰り返し応えた。
大丈夫。
大丈夫。
すると、突然女性が男に掴みかかった!
そして、こう言ったんだ……。
憑かれたのよ!
「いや、ちょっと」
男は驚いたが、冷静に――
「いや、だから、ちょっと待って」
「え、なんだい……?」
「いや、話の雰囲気を保とうとしているところを悪いけど、この話って何?」
「ああ、つまりね、女性は疲れたのではなく、取り憑かれたんだよ。あの神社には得体の知れないものがいて」
「いや、そうじゃなくて、なんで今この話をしたの?」
「え、君が何か話してほしいって言ったからさ……話がお気に召さなかったかい……?」
「うーん、まあね」
じゃあ、次の話をしよう……これは、ある村に住む青年が崖道を通って町に買い物に行こうとしたときの話なんだけど……。
青年の前に、突然、ビーストガウマトンが現れた。距離は――
「いや、ちょっと」
「ん、なんだい……?」
「いや、ビースト、は? 何?」
「ビーストガウマトン。馬と狸を合わせたような獣人型モンスターさ……」
「モンスター!? え、ファンタジーなの!? 実話の体をした怪談じゃないの!?」
「怪談も全部創作物だろ……?」
「それはそうかもしれないけど、大丈夫? ちゃんと怖い話なの?」
「まあまあ、いいから、いいから。続けるよ……」
ビーストガウマトンが一歩、また一歩と青年に近づいてきた。
『う、うわあっ!』
青年は大声を上げ、ビーガンに体当たりした。
「ビーガン!?」
「略したんだ……」
「急に……略し方が気になるけど、まあいいわ、続けて」
青年はビーガンを谷底に突き落とし、急いで村に引き返した。途中、村人に『どうしたんだ?』と聞かれたけど無視して走り続け、家に駆けこんで大きく息を吐き、自分がしてしまったことを悔やんだ。
「なんで? 相手はモンスターでしょ?」
「青年は心優しかったのさ……」
それで、青年は毎日崖に行って謝り続けた。
そして、ある日、音が聞こえた。
ガリ、ガリ、ガリガリ……。
青年は狼狽した。その音はどんどん近づいてくるようだった。
ガリ、ガリガリガリガリ……。
まさかと思い、青年が下を見るとそこにはなんと……ビーガンがいたんだ! 彼女は崖を上ってきていたんだ!
「いや、なんとって言われても、モンスターだからそれくらいじゃ死ななかったんだなとしか思わないわよ」
「この話も気に入らなかった……? じゃあ、次の話をするね」
「いや、もういい……」
「え? どうしてだい……?」
「いや、ここフードコート! こんな場所で怖い話をされても全然怖くないから! てか、食事デートでフードコートって!」
「あの……」
「何よ。もう帰るから」
「今の二つ、ただの怪談じゃないんだ……」
「え?」
「話の結末だけど……最初の話は、男は彼女を励まし、無事に二人で山を下りることができて、その後幸せに暮らすんだ。二つ目の話は、崖を上ってきたビーガンが二人の間にできた子供を青年に手渡し、力尽きて崖から落ちていってしまうんだ。青年はその子をぎゅっと抱きしめ、育てていくこと決心をして――」
「子供ができてたの!? モンスターとの間に!?」
「そう、二人は愛し合っていたんだ。迫害されることを恐れ、村のみんなには秘密にしていたんだけど、あの日、子供ができたことを報告しようとやってきたビーガンを、青年は村のみんなに関係をばらしに来たと思って、慌てて駆け寄ったんだ。でも、その勢いで突き飛ばしてしまい――」
「いや、もうそれはどうでもいいんだけど、なんで今の二つの話をしたのよ」
「だって君、マッチングアプリのプロフィールに登山が趣味って書いてたし、それに、ビーガンなんでしょ?」
「ああ、そういうこと……いや、さっきのモンスターってあたしがモデルなの!?」
「そうだよ。もちろん、二つの話の男のモデルは僕だよ」
「……いや、馬と狸を合わせたようなモンスターって何よ!」
「でも、よくタヌキ顔って可愛いと言うじゃないか」
「そもそもモンスター扱いが失礼なんだけど」
「まあ、そのビーガンは体型がタヌキで顔が馬なんだけど」
「じゃあ、あたしは馬面ってこと!? もう帰る。さよなら」
「じゃあ、家まで送っていくよ」
「なんで!?」
「だって君、昨晩停電して怖い思いをして、今夜も心細いんでしょ? 怖い話を聞いた後だし怖いよね?」
「いや、あなたの話は全然怖くなかったし……ん? 確かにうち、停電したけどあなたに話してないよね……?」
「ははは、SNSに書いていたじゃないか。君の家の場所も調べておいたから大丈夫、エスコートするよ。さあ、行こう」
「いや、怖っ!」