5.初めての梱包
肝心の商品を梱包できないのは、かなりの問題だ。
粉薬なんて、風で吹き飛ばされやすいものをどうやって売らせる気だったんだろう。
「ホシさん? ここまで来て無策ってどういうことなの?」
「いや、すまない……」
項垂れるホシを見つめ、とりあえず目の前のことを解決するために私は思案に耽る。
ホシを罵倒したい気持ちはあるけど、今責め立てたところで私の食事は出てこない。
ぐっとこらえて、思考を逸らす。
……確か、理科の実験で粉状のものを紙で包む……薬包紙の折り方があったはず。
急ごしらえだけど、そもそも売りに行ったところで量り売りできるような物でもないし、小分けすることが今は大事だ。
「……粉薬なら薬包紙でも大丈夫かな。ねえホシ、この家に紙はある?」
「近場なら、そこの棚にあるぞ。小さくて薄い紙のようだが」
ホシの指さした棚を見れば、十分な薬包紙が束になっておいてある。
流石、錬金術師のための家だね。
「十分だよ。じゃあ、この粉薬の一回分の分量を教えて。」
「一匙だな……そう言えばお主、分量を聞かずに飲んでおらんかったか?」
思わず叩き落としそうになるのを堪える。
このくそ精霊め……
「……アンタが最初に言うべき事項なんですけど!」
「すまぬ」
あっさり謝ったホシに、私は溜息を吐いた。
これは最初に訊かなかった私も悪い。
「……とにかく、一回分の粉薬を薬包紙に包んで持っていくわよ! 作業するから……私が何かミスしないか見ていてよ」
ホシは不思議そうに私を見る。
「我は手伝わんでよいのか?」
「アンタその体でできる事がどれだけあると思っているのよ。私のドールさんに傷が入らないように、へましないで頂戴ね!」
私は棚から薬包紙の束を取り出して、少し辺りを見回す。
売り物を運ぶのに使えそうな蓋つきの籠がテーブルの上にあるのを再確認。
一先ず蓋をテーブルに残して、薬包紙の束をその籠の中に乗せて釜の前に運んだ。
……まず薬包紙を縦、横、と半分に折って、一匙の粉薬を入れる。作業はこれだけだけど、量はどれくらいになるかしら。
あんまり、考え事をしちゃだめだね……無心で、やっていかないと。
そういえば、と、思い至ることがある。
「ねえホシ、この薬は、どこに売りに行けばいいの? まさか路上で売るわけじゃないわよね? 薬を取り扱ってそうなお店で売ればいいのかしら?」
「おお、そうだな……近場の町に、万屋があるから、そこに持っていくのが良いぞ。パン屋も近くにあるしな」
「パンって、夕方も売ってくれるのかしら?」
「あの町では夜もパンを売っているがの」
「それなら助かるのだけど……」
いよいよもってファンタジーな世界に来たという気がする。
それにしたって、いちいち現実味があるのが癪だけど……私のドールさんを取り返すためなんだ。
ここは踏ん張らないといけない。
「そういえば、この薬の材料になった薬草って、何て言う名前なの?」
「ハートハーブと呼ばれておる。飲み薬にも塗り薬にも使える稀有な薬草じゃな」
「それは確かに珍しいわね……」
「それにしても、お主は仕事が早いな」
「やること全部終わらせてホッとしたいんですー!」
思っていたよりも早く終わった私の作業を見ながら、ホシは呟いた。
「だから、呼ばれたのかもしれんなあ」
「は?」
「こっちの話だ。早く町に行くぞ」
「あっ、待ってよ!」
私が慌てて籠に蓋をしている間にも、ホシはどこかに行ってしまいそうだ。
ふわっと浮いたホシを追いかけて、私は薬の詰まった籠にを手に、外へ出たのだった。