3.錬金術の準備
「錬金術って……詐欺師でもやれっていうの?」
思いっきり胡乱げな目で見ると、ホシは真剣な目で私を見た。
「馬鹿者! ここでは立派な学問として成立しているのだ! この世界の街中でそんなことを言ってみろ、夜道で刺されてもおかしくはないからな!」
立派な学問? もしかして中身が違うのかな。
「えっ、金メッキ付けて金塊だーって売りつける方じゃないの?」
「お主のいた世界ではそういう事になっておったな……実に嘆かわしい。世界の方式が違うとはいえ、詐欺師のやり口として歴史が残ったのは、実に嘆かわしい」
ホシが嘘をついているようには見えない。
もしかして、この世界にあるのは、何かこう、私の世界にあったフィクションでよく見るタイプの錬金術?
「……この世界では、もしかして……錬金術は、特別な釜に素材を入れると全く別のものが出来上がる……みたいな技術として伝わっているの?」
ホシは嬉しそうに両手を合わせて笑った。
くそう、元が私のドールさんだから笑うと可愛いな!
「おお、その通りだ! そして、お主にはその才能がある」
「は?」
「お主は錬金術師のタマゴなんだよ。きちんと技術を身に着ければ、この世界で食うに困ることはないだろうさ」
「錬金術……」
こうなると、いよいよもって確認しないといけない。
いや、目の前のホシが「精霊」だってことを考えれば、最初に考えないと行けなかった。
「ねえホシ……この世界って、魔物とか、魔法とか、そんなのがあったりするの?」
「そうだな。お主のいた世界にはなかったものが、この世界にはある。逆に言えば、お主のいた世界にあったものが、この世界にはないこともあるだろうな」
「そう、なんだ……」
語気が弱まった私に、ホシは笑顔で続ける。
「なに、心配するな。この家にいる限りは魔物に襲われることもなかろう。魔物除けのまじないがかかっている。周りの森には危ない魔物もおらん。気を付けていれば死ぬことはないだろう。それに、必要最低限であれば、お主のいた世界の家から必要なものも持って来れるぞ」
「……ま、私はアンタからドールさんを返してもらわないといけないし、帰れるのはきっと当分先だよね……はあ、腹を括るしかないなホント」
私は深い溜息を吐いて、それから宙に浮くホシを見上げた。
まずはお金を稼がなくちゃいけない。
私の趣味レベルの手先では、今すぐ売れるような商品を作れるとも考えられないし、一先ず錬金術とやらを頼らなくちゃいけないだろう。
「お腹が空いちゃうから、すぐに錬金術とやらのやり方を教えてくれるといいんだけど、ホシって知っているの?」
「無論、教えるつもりでここに居る。それならば、すぐに支度するがよい。日が落ちてしまえば、今夜の食事は抜きになってしまうからな。」
「……錬金術で食べ物が作れたら話が早いんだけどな!」
「できんこともないが、今は手近に材料がない。追々教えるから、一先ず我の言うとおりに材料を集めてくるがよい」
「……まず準備するから、ちょっと待ってくれる?」
私はリュックとトランクを作業台の上に置いて、そしてホシに尋ねた。
「この家の鍵は?」
「我が管理しておる。採集の場所も教えてやるから、あまり心配しなくても良いぞ」
「……そう」
何だか違和感があるけど、今は今日のご飯のために頑張らないといけない。
「家の近くの木の根元に、大きなハート形の葉が特徴的な薬草がある。それを三つほど摘んでくるがよい。根っこまでは掘らんで良いぞ」
「はいはい、お使い行ってきます~」
ホシに指示されるまま、私は家の外に出て、薬草であるらしい草を三つ摘んだ。
さっさと家に入れば、ホシは満足そうに頷いた。
「仕事は早い方が良い。その薬草についている土埃などを払って、釜に入れるのだ。竈の上に載っているのだから、分かりやすいであろう?」
「入れるだけでいいの?」
「入れてから蓋をして、呪文を唱えるのだ。ひとまず薬草を釜に入れよ」
「呪文……」
胡散臭さ全開のやり取りに、私は重苦しい溜息を吐いた。
しかし、これは、恐らく生きるために必要なこと。
我慢しないと……
「呪文は、『らぶりん、てぃんくる、らぶらぶりん』だぞ!」
「アンタ本気で言ってる?」
「冗談だ」
「アンタそのドールさんから出たら覚えときなさいよ!」