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2.住処

 知らない世界に拉致されたってことなの?

 つまり、これは……


「え、私、もしかして強盗されるところ?」

「誰が強盗だ、失礼だな! 我は誠意を払ってここに居るではないか。まあ……お主から見たらそうかもしれんがの」


 「何だか解らない者」は、ほんの少しだけ申し訳なさそうな態度になった。

 うーん、確かに私が寝ている間に居なくなっていても良かったんだよね、この精霊……一先ず信じない事には話が進まないのも事実だし。


「一先ずアンタの言い分は信じるけど、それなら、まず名乗ってくれないと困るんだよね。アンタ、名前は?」


「我は高貴な身の上故、安易に名乗ったりはしないのだ」


「ホントにそのドールさんに入ってなかったら引っ叩いているわよアンタ!」


 私の怒鳴り声なんてどこ吹く風という様子で、「何だか解らない者」は黙ってしまった。

 チッ、仕方ない。仮になんかあだ名でもつけなきゃ。

 いじめを思い出すからあんまり得意じゃないんだけど……


「じゃ、アンタのことは今日から『ホシ』って呼ぶよ」

「いい名前だが、愛しのドールの名前で読んではくれんのか」

「アンタとその子じゃ似ても似つかないから別の名前にするんだよ!」


 なんかコイツいちいち癇に障る言い方をしてくるよね。

 ホシは私の怒鳴り声も特に気にした風でもなく、素直に機嫌が良さそうに私を見た。


「まあ、その呼び名も気に入った。して、お主の名前は?」

「あ、私が名乗ってなかったわね……私は天戸愛理。アンタが入っているドールのオーナーだよ」

「アイリか。良い名前だな」

「で、ホシ……アンタに確認しておきたいんだけど、もしかしなくても私ここで野垂死ぬんじゃない?」


 私の言葉に、ホシは首を横に振る。


「だから、誠意を払うためにここにいると言っただろう。拠点があるから、そこで我の器を作るがよい」

「拠点? どこよ?」

「ついてくるがよい。案内する」


 ホシは、ふわっと浮いてどこかに向かう。


「あ、待って……待ってってば!」


 私は慌てて、トランクとリュックを担いでホシの後を追う。


 舗装されてない森の中を歩くのはきつい。

 中学の時に運動部入ってなかったら途中で力尽きるんじゃなかろうか。


 ホシを見失わないように頑張って歩いていくと、急に開けた場所に出た。

 そして、目を引くのが、大きな丸太小屋のような見た目の家。

 ホシは止まり、私を振り返って告げた。


「あの家が、この世界でのお主の住処だ」

「えっ」

「早く中に入るがよい。疲れておろう」


 ドアがひとりでに開いて、スッとホシが入って行ってしまう。

 私は恐る恐る中に入って、アッと驚いた。

 随分と大きな家だと思っていたけど、やっぱり中も広い!

 一階は土足専用なのか、固い土の床でできている。

 壁一面の棚も、大きな作業台も、木製の大きなテーブルといくつかの椅子があるのも気になるけど、やっぱり目を引くのは、部屋の奥の真ん中にある、大きな竈。

 呆気にとられる私に、ホシは何だか楽しそうに説明する。


「もともと錬金術師のためにあった家だ。二階に寝室もある。この家を自由に使うがよい。」


 ホシの言葉に、私は首を傾げる。


「え、この家って、家主いないの?」

「おらん。お主が使っても、問題はない。トイレも風呂もあるぞ。実に良い家だと思うがな。」


 ぐぬ……風呂トイレ付きの私だけの一軒家……確かに、良い家だ……見た感じ水回りも悪くなさそうだし……。


「……アンタが入る器を作らなきゃいけないんだし、この際、腹を括るわ」

「おお、では、我のための器を作ってくれるか」


 嬉しそうにするホシに、私は暗澹たる思いで尋ねた。


「でも、まずは教えて欲しいんだけど……この世界の食事って、どうやって調達するの?」

「流石にお金を稼ぐしかあるまい」


「どうやって?」


「何かを売るのが良いぞ」


「何を売るの?」


「……流石に体を売れと言う気はないぞ。しっかり、稼げるものを作るのだ……この、錬金釜でな!」


 ホシが高らかに告げた言葉に、私は不安しか覚えなかった。

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