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1.返却希望

「……」


 うとうとと、眠っていた様だった。ぼんやりとした頭で、今までの事を思い出す。

 確か、帰宅して、荷物はそのままにベッドで眠ったはずだ。

 荷物の整理をしなくては……と体を起こして周りを見て、一気に体が強張った。


「ここ……どこ?」


 見渡す限り、森の中。私は何故か帰りの時と同じくリュックを持っていて、トランクもある。でも、トランクは空けられていて、中にいるはずの「愛しの子」が、いない……!


「――!」


 緊急事態だ。

 自分が拉致されたとか誘拐されたとかそう言う事も考えなくはなかったけど、「愛しの子」が居ないという事実が、私の指先を冷たくさせる。

 私にとって、あの子は、生き甲斐そのものだ。

 それがなくなるなんて、耐えられない!


「ど、どこに……」


 当たりをきょろきょろ見回していると、頭上から声が降ってくる。


「何か探しているのか?」

「――!」


 慌てて上を見た私は、声が出なかった。


 だって、「愛しの子」が、宙に浮いてしゃべっているのだから!


 私は思わず自分の頬をつねった。

 ちょっと痛い……これは、現実?


「何を呆けている。何を探しているのかと訊いているのだが。」


 思っていたのと声が違うけれど、でも、「愛しの子」が、間違いなく、しゃべっているし、動いているし、おまけに宙に浮いている!

 ドールオーナーならば一度は夢見る、動くうちの子……それが、今目の前で、再現されている!

 感動のあまり言葉も出なくて、ただただ見つめるばかりでいる。

 すると、「愛しの子」はまた思っていたのと違う声でしゃべる。


「ぼんやりとし過ぎではないか? こんなのが好きだとは変わり者だな。」


 何か……思っていたのと、口調が違う。

 何故か表情が変わるようになっているけど、顔つきも何だか違う。

 おまけに声も何か思っていたのと違う!


 どんどん感動が疑いに塗り替わる。

 これは……もしや。


「アンタ、誰?」


 パッと宙に浮いていた「愛しの子」のボディをつかみ、私は中にいる「何だか解らない者」に話しかける。「何だか解らない者」は、白々しく答えた。


「誰って……お主の愛しのドールだぞ。ほら、いつもみたいに名前で呼ばんか」

「嘘つき」


 わざと突き刺すような口調にした。


「アンタは誰だ。私のドールに入って、どういうつもり!」


 「何だか解らない者」は、何だか面白いものを見るように私を見つめる。


「……物怖じせんやつだな。確かに、我はお主のドールではない。ボディを拝借して、この中に入っただけの精霊よ」

「出ていけ」


 私の「愛しの子」とかけ離れた言動をする奴に、これ以上この子を穢されたくない!

 思わずドスの利いた声で叫んだ私に、「何だか解らない者」はなおも話しかけてくる。


「おい、落ち着け。まずは話を聞くがよい」


 そして、衝撃的なことを言いだした。


「まず、我はしばらくこの体から出ていくことができぬ」

「は?」

「我は弱っていてな……この体に吸い込まれたのだ。存外居心地が良いので、出るに出られん」

「……アンタがこのドールさんの中にいなかったら今にも引っ叩いていた所なんだけど!」


 頭が爆発しそうなくらいに腹立たしい。多分顔が真っ赤になっている自信がある。

 私がそんな様子であっても、「何だか解らない者」は、落ち着いた様子で話を続けた。


「まあ落ち着け。これよりも良い器があれば、我はそこに移動する。つまり、この人形をお前に帰すことができる。この世界に引っ張ってしまった詫びも兼ねて、お前を元の世界に帰すことを約束しよう。」


 ん? 今聞き捨てならないことを言った?


「元の世界? この世界?」

「何だ、気づいておらんのか。ここは、お前が元居た世界とは違う世界だぞ」

「は?」


「ここは、『バスピリトス』……お前の元居た世界と違う、異世界だ」


「はあああああ!?」


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