11.精神の人形
「アイリ……アイリ、大丈夫か?」
「う、うーん……」
どうにも瞼が重い。
誰か私を呼んでいるけど、頭も重くて反応する気になれない。
「アイリのやつ、徹夜でぬいぐるみを作っておったからな……しばらく寝かせておいた方が良いだろう」
「確かに、ただ眠っているだけの様です……が、少々気になることが……」
「ん? 何だ?」
「精神状態が何だか他の人と異なっている様で……」
誰か知らない人が、話しているみたいだ。
でも、それも気にならないくらいに、眠い……
――おかしな、夢を見ていた。
「愛しの子」が、私に微笑んでくれている。
「主……まだ、元気じゃない?」
元気かどうか、私は私がよく解らない。
一時期消えていた頭痛は再発していたし、少しやるべきことをやっても、すぐに心が疲れて休憩が必要になる。
ああ、でも、この世界に来てから、少し収まっているのかもしれない。
少なくとも、丸一日ずっと動けていたのは久しぶりだったかもしれない。
環境の変化のせいで不安定になっている自覚はあるけれど、でも、多分、まだ元居た世界よりは居心地が良いのかもしれない。
「主は、また元気になれそう?」
……解らない。元居た世界の主治医は、時間がかかると言っていた。
でも、貴女がそばに居てくれるのなら、私は、元気になれるとは思っている。
「じゃあ、僕は、ずっと主のそばに居るよ!」
ありがとう、xxx、貴女だけが、私の味方――
不意に、目が覚めた。
見慣れない天井が目に入って、軽く混乱した。
まだ一泊目だから、見慣れていないのは確かにその通りだ、と思い至ると、すぐに落ち着きを取り戻す。
私は、寝室のベッドに寝かされているのだ。
「アイリ! ……目が覚めたか?」
ホシが私の顔を覗き込んだ。珍しく心配そうな表情をしている気がする。
次いで、ふわっと浮いたぬいぐるみが、私の前まで飛んできた。
「お嬢さん、急に倒れて驚きましたよ! 頭とか、痛い所はないですか?」
「痛い所はない……多分」
「取りあえず無事そうなら、良かったよ……」
私の返事に、茶髪の男の子が答える。
あ、そういえば、私、この子の前で倒れたのか。
「……いきなり倒れてすみません」
私が素直に謝ると、茶髪の男の子は慌てて手を振った。
「いや、まさか体調が悪いとは思ってもなかったから、謝るのはこっちの方だよ。」
そして、男の子は少しばつの悪そうな顔で口を開く。
「で、さ……こう、頭を打っているかもって思ったから、オレの兄ちゃんを連れて来たんだ。兄ちゃんは、町医者だから……」
「……医者?」
私が思わず首を傾げると、階段を上る足音が聞こえた。
「ああ、ベネット、お嬢さんは目を覚ましたんですか?」
「兄ちゃん! ああ、目を覚ましたみたいだ!」
知らない男の人の声に、男の子が返事をする。
次いで、知らない男の人が、小さな盥を持って私の部屋に入ってきた。茶髪で、眼鏡をかけている。
そう言えば、男の子と男の人はどっちも青い目をしていて、顔立ちも何だか似ている気がする。
「ところで……お二人とも、どちら様ですか?」
至極まともに疑問をぶつければ、男の人の方が困ったように男の子を見た。
「……ベネット、まだ自己紹介をしてなかったんですか?」
「あはは……アネモスの機嫌の良い調子に釣られて、つい……」
「アタシのせいなんですか!?」
ぬいぐるみが何だかショックを受けたようにしていたけれど、何が何だかさっぱり解らない。
「いったい、何が起こったんですか……」
「ああ、それはだな……」
ホシが、静かに切り出した。
「順を追って、まとめてやろう」




