10.風の便り
「アイリ……そんなに落ち込むな。アレだけ出来の良いものができるなら、また作ってみてくれないか、アイリ」
「……アンタ、それ最初の方に言ってくれたら、まだマシだったよ、ホントに」
いじけまくる私にホシが宥める様な褒め言葉をかけてくるけど、そんなものが何になるというのか。
言葉が必要な時に、必要な言葉をかけてくれないんじゃあ、あんまり意味がない。
向こうの都合で言葉をかけられたところで、こっちには全然響かない。
「アイリ……」
ホシが困っているけど、こっちは知ったこっちゃない。
私がしんどくなったくらいに、ホシだって困ればいいのだ。
ツーンとした態度でベッドの上で体育座りをしていると、こんこん、と、一階の扉を叩く音が聞こえた。
思わず身構える。
「何だ? 客かの?」
「客って……私この世界でそんな感じの知り合いはいないんだけど……」
「とりあえず出るがよい。悪意はない様だからの」
「そんなこと分かることある?」
ぶすくれながらも、とりあえず一階に降りる。
控えめにまた、こんこん、と音がした。
確かに、力任せに叩いていない辺り、いきなり殴ってやろうとかそういう感じではないかもしれない。
でも、おびき寄せて、いきなり襲い掛かってくることもあるかもしれないし、警戒はしておいた方が良いのかもしれない。
「ど、どちら様ですか……?」
扉越しに声かけると、勢いよく返事が来た。
「あ、良かった! 人が居た! こんにちは! お礼がしたくて伺いました!」
……お礼?
「お礼、って、何のことでしょうか? 心当たりがないのですが……」
私が訪ねると、扉の向こうの声は、急に何だか申し訳なさそうな声音になった。
「えっと、あの、その事でもお話がしたくって……」
「どういう事でしょうか?」
「オレのアネモスが、貴方のぬいぐるみを勝手に持ち出したみたいで」
「今開けます!」
私は慌てて扉を開く。
目の前には、私より少し背の低い、明るい茶髪の男の子が立っていた。
……くっ、明るい茶髪は小学生の時の不良を思い出すからあんまり得意じゃないんだけど、でも無視するわけにもいかない……
「あ、あの……」
私がどぎまぎしながら話しかけると、茶髪の男の子が、パッと表情を明るくして話しかけてきた。
「貴女が、このぬいぐるみの製作者さんですか!」
茶髪の男の子が見せてきたぬいぐるみは、紛れもなく、私が徹夜で作ったぬいぐるみだ!
「えっと、そのとおり、だけど……」
「居心地が良くて快適なんだ!」
ぬいぐるみから声がして、ついでにそのぬいぐるみが、ふわっと浮き上がる。
「とってもいいものをありがとう、お嬢さん!」
ぬいぐるみは、どうやっているのか解らないけど、でも、本当に嬉しそうな表情を受かべて、元気よく私に飛びついた。
私はそのぬいぐるみを受け止めたものの、思考回路が追い付かなくて、呆然とする。
「こんなにもアネモスが喜んでいるなんて、初めてなんだ。よければ、このぬいぐるみをオレに譲ってほしくて……オレにできる事なら、何でもするから!」
「……」
だめだ、頭がふらついて……
「あれっ、お嬢さん……お嬢さーん!」
――徹夜が、やっぱり駄目だったんだ。
そんな後悔をしたところで遅く、私は、地面に倒れて、気絶してしまったのだった。