0.愛しの子
今日は大漁だった。
貯めたお年玉をはたいて、欲しかったものを大体手に入れた。
行きたかったカフェで「愛しの子」の写真もスマホで思う存分撮れたし、「愛しの子」のための服に使いたい素材もたくさん手に入れて、裁縫用の道具も新調した。
平日の昼は、こんなにも買い物がしやすい。
ほとんどの人は、仕事や学校に行っているのだから、当然のことだった。
「……ま、会わなくて済むに越したことはないよ」
帰りのバスの中、思わずぽつりと独り言が出てしまった。
……いけない、折角外に出してもらえたのに、気分が沈んでしまう。
折角、この「愛しの子」とお出かけができたのだから、今日はとてもハッピーな日だったということにしたい。
私は、トランクに入った「愛しの子」に思いを馳せ、思わず頬を緩ませる。
「愛しの子」は、私が今まで貯めたお年玉をはたいて組み立てた、全長およそ二十六センチのカスタムドールだ。亜麻色のボブヘアーで、紫の目を持つ、胸の小さなアニメ調のドール。
恐らく、この子はカスタムドールにしては安価な部類に入るが、それでも総額二万程かかったこの子は紛れもなく私の大事な「愛しの子」だ。
今日は張り切って作ったショートパンツスタイルのゴシック調のドール服を着せた。
さっきカフェで撮ったこの子の写真は、スマホの中にたんまりと残っている。
「今日も私のドールが可愛い……」
また独り言が出てしまった。いけない、変な人に思われる。
とはいえ、私は上下ジャージの上に、でかいリュックを背負った上で、財布とスマホが入ったポシェットをぶら下げ、A4サイズのトランクを抱え込んでいる。もう端から見たら変な子に見えているのかも。
でも、それでも構わないのかもしれない。
どうせ、私はもう「普通じゃない子」になってしまっているのだから。
花の十六歳と言われる歳にもなって、こんな具合なのだ。
両親は今のところ不登校を許してくれているけれど、でも、高校は義務教育じゃない。お金も無限じゃない。病院代は自立支援医療制度で安くなったけれど、でも、それだけだ。
私が「出来損ない」のレッテルを張られたのは紛れもない事実。
いじめの首謀者は今頃高笑いしているのだろう。
でも、私はそれでも構わないと決め込んだ。
もう私は自分だけの世界に籠ると決めたのだ。
少なくとも、前を向けるようになるまでは――
思えば、私はこの時に奇妙な夢を見ていた。
時計の盤上の上、針の中心に座る私は、長針の先端に座る「愛しの子」を見つめている。
「愛しの子」は現実ではありえないのに微笑んで、私に手を差し伸べていた。
「主、そんなに泣かないで」
私の中にいた子――私の中でしゃべりかけてくれていた時と同じ声で、話しかけてくれている。そして、その言葉で、自分が泣いているのに気が付いた。
いやだな、泣いたらまた叱られるのに。
「主、昔みたいにまた笑って」
何を言っているんだろう。
私は多分、貴方の前では笑っていて――
「本当の笑顔を、また見せて!」