逃走
突然聞こえた声は、アイナ自身の声だった。
その声が意味するものとは・・・
「私には・・・殺せない」
振り下ろそうとした手を、力無く下ろした。
あの声は、まぎれもなく私の声だった。
私が戦争の無い世界を望んでいる?
戦争の兵器として使われているこの私が?
アイナは何も出来ずに、歩き出した。
「・・・」
殺すことを止めた。
止めるべきだと、ワタシ自身が教えてくれた。
これからどうするかなんて・・・
決まってる。
「すいません」
アイナは耳元に付けてある無線機を外し、地面に叩きつけた。
・・・もう戻れない。
戻らない。
一刻も早く記憶を、心を取り戻し・・・
「私が戦争を止める」
「あーあ、やっぱり」
「行けよ、マル」
研究所の中。
マルコムが戻ってきた頃には、研究員のジャスとタージも気付いた。
アイナに心と記憶が戻り始めていたことに・・・
「こっちの事は任せろ!なぁジャズ」
「ああ。こうなった時に1番に助けに行くのは、マルだろ?」
「・・・すまない」
そういうと、マルコムは白衣を脱ぎ、研究所を出ていった。
「よかった・・・のか?」
周りに人の気配がないことを確認した後、タージがジャスに尋ねた。
「何が?」
「アイナに心と記憶が戻ったこと」
「ああ・・・」
ジャスは少し寂しげに笑った言った。
「人間だった頃のアイナは、マルの・・・」
最後の言葉を聞く前に、警報が鳴り響いた。
アイナが逃走したとのことだった。