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第一話。馴れ初めは侵略だそうです

魔王軍と統一王国との戦いは有史以来から続く歴史だった。双方が一進一退を繰り広げる中で統一王国は教典に伝わる神聖魔法を解読。第一王女を生け贄とし『召還魔法』を使用した。


この魔法により異世界から召還された勇者なる者が魔王を打ち倒して統一王国は勝利を収めた。しかし、魔王もただでは死ななかった。


『転生魔法』を使用し20年後の復活を宣言した。生き残った魔族も魔王に従い20年間、影に潜み復活を待った。だが、20年待っても魔王が復活する気配は無く、魔族残党軍も次第に規模を縮小しほとんどの魔族は人間社会に溶け込んでいった。


こうして世界に新しい秩序が産まれ10年の歳月が経った。





王都から遠く離れた辺境の村に魔族残党軍の一派が襲撃を掛けた。二足歩行をしトカゲの様に全身を黒い鱗で纏った人型の種族『竜人族』。かつては魔王軍の武闘派の領袖として王国に脅威を与えていた種族である。


夜間ということもあり数十人の竜人族を前に村はたちまち制圧された。そして彼の族長は全ての村人を広場に集めさせた。族長が縄で縛られた村長に問う。


「村長よ。これで全員か?」


「は、はい……ラビッ……山で狩りをしている者を除けば全員います」


「なに……それは何人いる?」


「一人です」


「一人でしたら別に気にしなくても良いのでは?」


村長の家を漁っていた若い、白い鱗の竜人族が族長に馴れ馴れしく話す。


「我が娘ガーベラよ。昔ならともかく今は我らの勢力はだいぶ小さくなった。もしもだ。その一人が貴族の家に駆け込み兵隊を送られたらどうなるか……。お前なら分からぬではあるまい」


「けっこうじゃ有りませんか」


「なに……?」


「来る者は皆殺しにすれば良いのです。どうせ後でするなら早い内にやっておいても良いのでは……」


にこやかに軽く話すガーベラに族長は頭を抑える。


「もう良い……とにかく今は態勢を整えるのが先決だ。余裕が有るなら山にいる村人を殺してこい」


「分かりましたわ」


そう言うとガーベラは山へと入っていった。





山に入ったガーベラは夜間にも関わらず庭を歩くかのようにスタスタと登り始める。ガーベラのような竜人族には蛇と同様に僅かな温度差を感知して夜間でも障害物を避けることが出来る。


そんな特性を利用してガーベラは一つの極めて高い熱源へと足を進めていた。


「これは……」


熱源まで進んだガーベラが月明かりで見たものは湯気が立つ乳白色の水溜まり……温泉だった。


ガーベラが周りを見渡しても何も熱反応を示さない。つまり件くだんの村人は付近には居ないようだった。


「居ないようですわね……別の所に行きますか。しかし……」


ガーベラは温泉を凝視する。思えばここ最近は湯浴みはもちろん行水すらしていない。思わず喉が鳴る。


「まぁ……私の熱探知をもってしても見つからなかったわけですし……大体お父様は用心深すぎるわけで……」


体の汚れを落としたいガーベラは言い訳をしながら腰ミノを地面に落とす。


「探すのに時間が掛かった……ということにしましょう!」


言い訳を完了したガーベラは温泉の中に足を踏み入れる。その時、足裏に感じたのは弾力の有る柔らかな感触だった。


ガーベラは反射的に足を戻す。温泉は乳白色の為に底は見えないが『何か』が潜んでいる。踏み入れようとした箇所を見つめているとぼこぼこと空気が泡立つ。そして水面が盛り上がったと思ったら一人の人間の男が現れた。


「ぶはぁッ!!いけねぇ!寝ちまったべ!!」


金髪の髪を掻き上げて男は顔を拭うと呆然としているガーベラを見つける。男は一糸纏わぬ姿のガーベラを見て顔を赤くし目を逸らす。


「お、お嬢さん!こんな夜更けに山の中に居るのは危ない。服を着たら麓の村まで送ってあげましょう」


「心配しなくても一人で帰れるわ。それにしても、ふふっ……お嬢さんだなんて……私はもうそんな齢じゃないわ」


「そうなんだべか?あまりに綺麗だったのでつい……」


「口がお上手ね。生まれて初めて言われたわ」


「そうなんだべか!?周りの男は見る目が無いんだな」


「……私の一族は結婚する時は美醜で判断している訳じゃないのよ」


「へぇ~そうなんだべか。世界は広いな」


「ところでさっき、麓の村まで送るって言っていたけど貴方はその村のご出身かしら?」


「あぁそうだべ。おらは麓の村で狩人をしているラビットと言うべ」


「名前までは聞いていないわ」


そう言ってガーベラは(くだん)の男ラビットを見る。


(どうやらこの男の様ね……山に一人で狩りをしている男は……にしても……)


ガーベラは思う。時間は夜中、魔物が活発的に動く時間である。ただでさえ山は視界も悪く足元も悪いのにそんな所で一人。ただの気の抜けた男ではないのかもしれない。そう思っているとガーベラの顔の前にラビットの手が置かれる。


(しまった!油断したッ!!)


反射的に後ろに下がり構えを取る。相手を見ると動きは変わっていない。先程と変わらず拳が出されていた。いや、良く見ると手には白い布が掴まれていた。


「お姉さん。目に毒だから隠してけろ」


相変わらず顔を背けたままのラビットにガーベラは恐る恐る近づき白い布……先ほど脱いだ腰ミノを手に取って身に付けた。


「お姉さん着ただべか?」


「ガーベラ」


「えっ?」


「私の名前はガーベラというのよ」


「そうだべか。良い名だな」


「いえ……それにしても先程の動き……反応が遅れましたわ。何か武術に心得でも有るのかしら?」


「うんにゃ。おらは騎士様の様な事は無理だ。精々村を夜盗から守る為の護身術くらいしか出来ねぇ」


「そう……」


「ところでガーベラさん?」


「呼び捨てで良いわ。歳も近そうだし。で、何かしら?」


「そういえばあんたさっき言ってただけど結婚する時の条件?美醜で判断しないと言っていただけんど何で判断するんか?金か?狩りの成果か?」


「強さよ。女は自分より強い人と結婚するのよ……そんなこと聞いてどうするつもりかしら?」


「いや……おらにもチャンスが有るんかな~って思ってよ」


「ふふ。あなたが?無理だと思うわよ。同族ですら手も足も出なかったんですもの」


「試してみねぇと分からねぇじゃないか」


「分かるわ。あなたが私に噛みつかれて血の海に沈むのが目に見えるわ」


ガーベラは自らの鋭い牙を見せながら答える。筋張った肉でも簡単に切り裂けそうな牙がズラリと並んでいる。そんな様相にラビットは口笛を吹く。


「へぇワクワクするな」


「この期に及んでまだ余裕が有るよう、ね!」


ガーベラは会話の途中でフェイントを仕掛け左手で殴ろうとする。ラビットはとっさに右手を顔の前に出して防御姿勢に入るが、それはガーベラの罠だった。


背中に隠していた尻尾をラビットから見て左下から伸ばす。ラビットは視線を右に向けていた為に気づかない。気づいたのは尻尾が左手に巻かれた時だった。


「ぬうっ……」


ラビットは驚きの声をあげるが言葉が途中で終わる。尻尾を下側に引っ張ったからだ。態勢を崩したラビットの隙を見逃す筈もなくがら空きとなった右の肩に噛みつく。が、出血はしない。牙が通らないのだ。


(バカなッ!?同族でも簡単に切り裂けれるのに!?……やはりただ者ではないようね。ならば!!)


ガーベラは両手でラビットを掴み投げ飛ばそうとする。しかし、微動だにしない。まるで足に根が張っているようだ。


「嘘でしょ!?」


「言っただろ。世界は広いって!」


そう言うやラビットはガーベラの肩を掴み、力任せに押し倒した。ガーベラの背中が地面にぶつかる。肺から空気が押し出る。


「ガハッ!!」


「さて……一応勝負有り……だべかな?」


ラビットはガーベラを掴んだまま、にこやかに確認する。ガーベラは酸素不足ながらもラビットの拘束から逃げようとするが万力のように締められ逃れることが出来ない。


「……えぇ……そうね。あなたの勝ちよ」


呼吸が整ってきたガーベラは観念した。そして静かに、自分にも言い聞かせるようハッキリとした言葉で返した。


「あなたの妻になるわ」


書き終わった後に思ったけど、この時のラビットは服着た描写無いから全裸なんですよ

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