第8話「平和」
「あんたら、なに私抜きで話してんのよ。」
中に割り込むようにして腕を柵にのせた。
少し微笑んで田中が答えた。
「久々だねぇ、楓ちゃん。いつぶりだろ。」
「さぁね。あんたが怪我で私のところ訪ねてくることなんてなかったもの。」
田中は少し下を向いてクスっと笑った。
「……生憎もうただの事務さ。昔のことなんて忘れようぜ。」
「らしくないですね、田中さん。俺が知ってる田中さんじゃない。」
「何年前の話してんだよ。」
田中が銀ノ瀬のおでこをコツンとはじいた。
「今はただの事務員の田中さ。お前らの言ってるのとはもうちげぇんだ。」
「私が知ってるのは、10年前にあのバケモノを1人でぶっ殺しちまった鬼蜘蛛だけよ。事務員の田中なんて知らないわ。」
「……誰のことだか。」
「誰のことでしょうね。」
銀ノ瀬が田中をじっと睨む。
「ほら、お前も一本吸うか?」
おもむろに少し潰れたタバコの箱を差し出す。
「……酒、タバコはもう止めたのよ。医者が不健康にしてちゃあダメよね。」
少し寂しげな顔をした。
「楓ちゃんも丸くなったねぇ。そんな言葉初めて聞いたよ。もう40近いと時間の流れが速くてやんなっちゃうわ。銀ノ瀬君だってついこの前まであんなにトゲトゲしかったのに。今じゃ7大幹部の一角なんてねぇ。15の時は狼みたいな眼ぇしてたよ。」
「……あんたが一番丸くなったでしょ。俺とか楓さんよりずっと。」
「そうだったかな~。」
そういいながら軽く口笛を吹く。
「最近は平和になったねぇ~。」
「そうかもしれません。」
少し、沈黙が流れる。
「あ、そうだ、銀ノ瀬君。君のとこにまた面白そうな部下が入って来たって聞いたよ。」
「まぁそうですね。それが何か。」
「桜咲さんがそいつと会いたいってさ。本部まで連れてきな。」
「マジすか。」
「うん、大マジ。自分と同じ特異体質に会いたいんだとよ。」
「あっ、銀ノ瀬さ~ん!探しましたよ。僕です!どこいけばいいですか?」
……やっと見つけた。みんながスラスラ移動していってる中僕だけ取り残されてたんだから。
「…………本部。」
「ホンブ……?」
突拍子もない答えに一瞬思考回路が止まった。
「あぁ~、あれが噂のレイ君?まだまだ子供じゃない。」
あのグダグダの司会の人がいる……。
「昔の銀ノ瀬君に雰囲気似てるなぁ。」
……多分誉め言葉。
「丁度本部に帰るとこだったし、一緒来る?2人とも。」
「お…願いします……?」
「じゃあまぁ行こうか。」
なんかすごい急展開……