第6話「お化け」
懐かしいような夢を見た。
夢の中には、お父さんもお母さんも妹もいて、小鳥の囀る庭で遊んでいた。
そんな僕を見下ろしている今の自分がいるのを見た。
微笑んでいるのに、どこか悲しくて、寂しそうな眼をしていた。
「レイ兄た~ん!あ~そ~ぼ~!」
妹に連れられていく。妹の顔ははっきりせず、ぼやけたままだ。
「ーーはね、ここを出たら、きっと兄たんに会いに行くから!待っててね!」
今の自分が大粒の涙をこぼしていた。
「約束だよ!」
きっと目が覚めたらこの風景だって覚えていないだろう。
「うん!僕も約束!」
今の自分のえずく声だけがはっきりと聞こえた。
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足元に何か気配を感じて目が覚めた。何だか胸があったかい。
…………わあああああああああああああああああああっ!
と叫ぼうとしたが、体が固まって声が出ない。金縛りだ…!
目の前には白い服を着た、髪で顔が覆われている女性が立っていた。
こんなに典型的なお化けいる?と疑いたくなるほどに明らかにお化けである。
「……これ、あげる。」
お化けが細い声で何か紫に澱んだ石のかけらを取り出した。
「またね……。」
そういうとスッと消えていった。
やっぱりお化けじゃねーか!
時計を見ると、丑三つ時。悪い夢だと思ってまた枕に頭を沈める。
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「ふぁあ~あ。なんか昨日は変な夢を見たな~。」
勢いよく窓を開けた。太陽は逆向きに出ているのか、全く明るくならない。軽い肩透かしを食らったみたいだ……。
知らぬ間に用意されていた衣装を身に纏う。
机にもたれかかろうとしたら、ゴリっと明らかに机ではない何かに手が当たる。
あの紫の石の欠片だ……。
一回頬をつねってみる。痛い。今度は逆側を思いっきりつねってみる。思いっきり痛い。なんとなくこの石を見てると頭が痛くなってくる。もう一度ベットに入ろうとした時、
「おーい。いるかー?」
ノックの音と銀ノ瀬さんの声が聞こえた。
「いまいきますー。」
現実に戻ったみたいで少し安心した。机にまだあの欠片があるのを見てすこしため息をついた。
「なんかこの部屋お化け出たんですけど……。」
だいぶ深刻な問題である。一刻でも早く他の部屋に移りたい。
「お化け?前の奴はそんなこと一切言ってなかったが。」
「その前の人ってどんな人だったんですか?もしかしてこの部屋で死んだとか……?」
何か嫌な予感がする。
「そういえばそうだったかもなぁ。」
……そんな部屋使わさせないでくださいよ。
「どんな容姿だったんです?例えば女性とか、髪が長いとか……。」
「う~ん。ここに住んでたのは筋肉モリモリのゴリラみたいなやつだったんだが……。」
え?何それ、だとしたらお化け出てくるとこ間違えてない?
「そのお化けってどんな格好してたんだ?」
「白い服で、顔が髪の毛で覆われてて、細い声をしていたお化けでした。お化け以外で形容しがたいようなお化けで、よくわからない石の欠片を渡してきました。」
僕がこういうと、銀ノ瀬さんはなぜか苦笑いをした。
「……そりゃうち部隊の副幹部だな。」
へ?
「でも、暗闇の中にスッと消えていったんですよ!?」
「まぁ、それがあいつの能力だからねぇ。お前に会いにでも行ったんじゃないか?」
「はぁ……。」
「あんまり姿は現さないけど、仲良くしてやってくれ。霊 黒衣って奴だ。」
「まだあれが人だったなんて信じられないです。」
「まぁ、そのうち慣れるさ。」
慣れるって、簡単に人のプライベートルームに侵入されたらたまったもんじゃないんですけど。
「嫌なら立ち入り禁止とでも書いとけばいいんじゃないか?まぁもう俺は諦めた。俺の冷蔵庫から食料品が知らぬ間に消えていってる程度の被害で済んでるしな。」
しっかり被害被ってない?まぁ別に盗られて困るものもまだないからいいけどね。
はぁ~、人だったのか……。安心……はできないけど、世の中にはいろんな人がいるんだなぁ。
やっと朝日を拝むことができた。まだまだ今日は長そうだ……。