第4話「健康診断」
「着いたぞ。」
医務室と書かれた部屋へ連れてこられた。一体何されるんだろう。
「ちょっとした健康診断だよ。何も体をいじくる訳じゃぁないさ。」
そういうと、銀ノ瀬さんは扉を開けた。
「あら~、カイトちゃんじゃな~い。隣が噂のレイちゃんかしら?早かったわね。」
赤髪で長髪のお姉さんが白衣を着て座っていた。なんとなく喋り方が前の職場のおばちゃんに似ててちょっと苦しい。
ため息交じりに銀ノ瀬さんは言った。
「ちゃん付けはやめてくれ。俺はもう25だ。」
「あら、そう?カイトちゃんは粗削りでピュアな目をしてた15、16の時からあんまり変わってないじゃない。まだまだガキよ。ちゃん付けくらいが丁度いいわ。」
髪をなびかせながら悪びれもなくおちょくっている。話の内容からして意外と年齢は高めだろうか。
「そんなことはいいのよ、で、レイちゃんだったっけ?ちょっと準備してくるから、そこに座って待ってて頂戴。」
そういうと立ち上がった。
……デカくない?銀ノ瀬さんより身長高いけど。すごいスタイルいいな。僕もあのくらい身長欲しい……。
「それにしてもカイトちゃん、レディーを訪ねる前には電話の一つくらいしてもいいんじゃない?そんなんじゃ女子にモテないわよ。」
「レディーだの女子だの言ってるけどあんたいくつだよ。」
「乙女心に経年劣化はないわ。いくつになってもレディーだし女子だし乙女よ。」
銀ノ瀬さんが露骨に嫌そうな顔をしている。なんかちょっとだけ面白い。
……何で医務室に鎌とかチェーンソーとか槍とかおいてあるんだろう。そんなの医療に使うんだろうか。
「俺は戻る。レイのことは頼んだ。」
そういうと銀ノ瀬さんは出て行った。
「じゃあ早速始めようかしら。私は医者の紅血 楓。楓さんでいいわ。生憎ちゃん付けで呼ばれる年じゃないのよね。」
なんとなくこっちを見る目線が怖い……。
「じゃ、ちょっと血を取るわね。注射初めてかしら?」
「初めてです……。」
「あら珍しい。異石町出身?」
「そうですね。はは……。」
「まぁ、そっちのほうは遅れてるものね。」
確かに異石町は、杯という古臭い組織が統治しているせいで文化とか文明が遅れている。江戸の頃から町並みはほとんど変わっていない。
「ちょっとチクっとするわね。」
思ってたよりも痛くはない。でも血を抜かれるのはあんまりいい気はしない。
「おっけ~。もう終わりよ。」
え?早くない?それだけ?
「これで何が分かるんですか?」
「あら、カイトちゃんから何も聞かされてないのね。これで分かるのは「浸食率」よ。」
「シンショクリツ?」
「そ。石に触れたんでしょ?その石がどれだけ体に馴染んでいるか測るの。」
「はぁ……。」
「まぁ基本は高ければいいんだけど、高すぎたら過剰適合ね。死んじゃうわ。」
「え?死ぬ?」
ここ最近物騒な言葉が多い…。フツーに暮らしてたいんだけど、そうもいかないらしい。
「あの石って何だったんですか?」
「異光石よ。レイちゃんの町の由来じゃないの。」
そうだったんだ。全く知らなかった……。
「で、楓さん。あの石触ったらどうなっちゃうんですか?僕死にます?」
「まぁほとんどの人は過剰適合で死んじゃうか狂者になって暴れまわるんだけど、適合する人だっているわ。でもね……」
そういうと、楓さんは一呼吸おいて言った。
「適合できた人は、もうヒトじゃなくなるの。」
へ?
「いうならばヒトを超えた何かね。尋常ならざる力を得るのよ。火を操ったり、雷を呼んだり。すごいのだったら衝撃波で山消しちゃった人もいたわね。」
何それ超怖い。
「……でも忌み嫌われた石ね。もし適合できなかったら地獄のような苦しみの末死ぬし、運が悪かったら狂者と化してそこらじゅうを暴れまわるし。」
地獄のような苦しみの末死ぬ…?あれやっぱり僕死ぬ?
「それってどんな……?」
「全身に稲妻が走るような痛みって言われてるわね。」
「確かにそんな感じだったかも……。」
楓さんは目を丸くしてこちらを見つめる。
「あんたそれ本気?」
そういうと何か考えるようなそぶりをしてから言った。
「まぁ、結果が出れば分かるものね。1日経って生きてるならもうほぼ大丈夫よ。適合できてるはずね。」
「結果ってどういう感じで出るんです?」
「ん~、大体は割合ね。50%前後が望ましいわ。幹部の中には80%でも正気を保ってられるバケモノもいるけどね。」
「ま、とりあえず今日は終わりよ。さっさと出てって頂戴。」
モヤモヤしたまま放りだされてしまった。どこ行けばいいんだろう。
「あ!そっちの廊下出て右のデッキで待ってて~。」
仕方なくトボトボ歩いて行った。
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電話越しに2人が話している。
「で、レイの容態は?」
「想定外ね。あの子ほんとに触れたわけ?」
「あぁ。俺が確認した。」
「そう。あの子の浸食率は……0%よ。異石町の人間なら少なくとも0.01%くらい誰でもあるはずなのに。不思議ね。」
「……そうか。興味深いな。」
「一種の狂者じゃないかしら。ボスとそっくりよ。でもボスでも全くの0じゃなかったわ。カイトちゃんはどう思う?」
「さぁ。俺はあまり詳しくないんでな。」
ツーツーツーツー。電話が切れる。
まぁそんなこと言ってるカイトちゃんも相当な想定外なのよねぇ……。
銀ノ瀬 凱斗 ー 浸食率 98%