第1話「夕焼け空」
「レイちゃんは良く働いててえらいねぇ。」
職場のおばちゃんと話すのは苦手だ。ずっと子ども扱いだし。
でも野垂れ死ぬ前にここに転がりこめたおかげで今も生きてる。恩人だ。
「もう年頃なんだし、彼女とかいないの?ほら、隣の店のつるちゃんとか、愛嬌があっていいじゃない。」
「はは……。」
いつもこんな調子だから、少し息苦しい。
そもそもここは旅人が休憩していく掛茶屋で、僕以外の従業員は女だ。
ちょっとここらのノリについていくのはいささか難しいものがある。
江戸の様相を色濃く残したここら辺は、異石町と呼ばれている。
由来はあまり知らない。
「今日は来客も多くて疲れたわね~。レイちゃんは暗くなる前にさっさと帰んなさい。」
夕暮れ時には必ずこの河川敷に来る。山に隠れる夕日が綺麗で、なんとなくいつも来てしまう。
残飯を漁りに来るカラスの声もこの時だけは乙なものだ。
…………?
いつも見ているはずの山肌に、薄く紫に光っているような洞窟があるのを見つけた。
好奇心に駆られ、近づいて来てしまった。
ここは、廃坑だろうか。
不思議なことにもう夕暮れだというのに、中は薄明るい。
不気味だと思いつつも、入ってしまった。 思ってたよりも深い。
歩みを進めるたびに、光が強くなってゆく。いったい何があるのだろうか。 少したじろぐ。
蝙蝠一匹いない。違和感を感じながらも終着点へとたどり着いてしまった。
そこには、禍々しいような神々しいような赤黒く光り輝く「石」がそびえていた。
まだ知らなかった。
この「石」が僕の人生、いや僕そのものを変えることになる悍ましいものだなんて。
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